1,500円のコーヒー

先日の出張先の都内某所。

落ち着いた喫茶店でPC作業をしようと、一人お店に入った。
落ち着いたその喫茶店は、稀に使うお店である。
なぜ「稀に」なのかというと、コーヒー一杯1,500円もするため。

だからといって、「注文の多い喫茶店」で有名な上野の『北山珈琲』のような、「コーヒーで感動するような味」を提供するわけではない。のだが、1,500円もする。
 

要するに、スタバやドトールのような窮屈感や、ガヤガヤ感、スタバでMac開いてます的ないかにも感は皆無な、昭和レトロな安心感に、1,500円という値付けをしているお店だ。
 

喫茶店としては、かなり広い店構えであり、2階席もある。
 
だから僕は外出先で仕事に集中したいとき、そのお店を好んで使う。ただし、お財布の中身と相談した上、「稀に」ではあるが。
 
 
前置きはこのくらいにして、先日このお店での出来事。
 
相変わらずの落ち着き感、洋館のような緩やかな螺旋状の階段で上がる2階席。高い天井。程よい音量で流れるクラシック。
 
席に案内された僕は、早速カバンからPCを取り出しつつ、メニューを確認。

「プレミアム・ブレンドください」

その日は気分も良かったからか、ブレンドよりほんの少し高い「プレミアム」を注文した。
 
僕はそのままPCに向かい黙々と作業に集中した。
 

 
「あれ?そういえばコーヒーがまだ来ていない」
時計に目を落とすと、入店からすでに30分は経過していた。
 
北山珈琲ならまだしも、この店で30分も出てこないのは遅すぎる。
 

でも小心者の僕は「プレミアムだから、焙煎からしているのかもしれない」(そんなわけあるはずないのだが)
 
2,3人いるそのフロアの店員さんは、他のお客さんの対応のために、僕の脇の通路を何度も何度も往復している。

僕のテーブルに何も配膳されていないことに、気が付かない訳がないだろうに。そう思っていた。

もしも僕がこの店のウエイターだったら、自らが注文を取っていなくとも、他のテーブルのことに目を配るだろう。
 
 
そんなことを考えたまま、もう少し。と待ってみるものの40分経過しても僕のテーブルの上には、最初に置かれた水の入ったコップが、結露した水滴でテーブルを濡らしたっきりになっている。
 
 
僕は冷静な声色で店員さんを呼びつけ、
「すみません。店長さんいらっしゃいますか?」

若い女性店員では荷が重すぎるだろうと思い、店長さんを呼んでもらうことにした。

3分後店長と名乗る男性がやってきた。
 

「すみません。コーヒーが出てくるのを40分以上まっています。
まだでしょうか?」
アシュラマンの冷血面のような表情の僕を見て、
店長は血相を欠いて確認をしに飛んでいった。
 

すぐさま戻ってきた店長は
「申し訳ありません。すぐにお持ちします!」
 
 
「オーダー忘れのようなミスは人間ですから、起こりうることです。
それは仕方ありません。
ですが、店員さんは何度も私のテーブルの脇を通っているのに、
なぜ気配りできていないのでしょうか?
もう時間がないのでこのまま帰っていいですか?」
 

「本当にすぐにお持ちしますので!」

本当にすぐ。1分としないうちに、「プレミアム・ブレンドコーヒー」が運ばれてきた。
 
1分で出てくるってことは、ドリップすらしていない、作り置きを出しているのだろう。
 
 
もうこの店に来るのは辞めよう。と、熱いままのコーヒーを一気に飲んで、店を出ることにした。

お会計をしようとレジに向かうと、さっきの店長がいる。
「本日はお代は結構ですので。申し訳ありませんでした。
これ、当店のお土産用の焼き菓子とコーヒー豆でございます」
 

1,500円もの代金をサービスしてくれ、焼き菓子と、コーヒー豆のお土産まで。
 
やっぱりとてもいい店だ。
落ち着くし、淹れたてのコーヒーも美味い。

また訪れたいお店である。

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