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デニス・テン選手一周忌〜名演技を振り返る〜

先日、映画音楽について語った記事でエンニオ・モリコーネによる『ニュー・シネマ・パラダイス』のテーマ曲「Cinema Paradiso」について触れました。
 
この曲は『ニュー・シネマ・パラダイス』のテーマとしてももちろん素晴らしいですが、フィギュアスケートのプロクラムとしてもよく使われています。
そしてそのプログラつのひとつに、昨年の7月19日に25歳の若さで亡くなったデニス・テンのものがあります。
おそらくそのために、「Cinema Paradiso」の曲を聴いているうちに、ものすごくテン選手の演技が懐かしくなってしまい、しばらくずっと動画を見漁っていて、彼の命日に合わせてここでも彼や彼の演技について紹介したいと思いました。

さて、デニス・テンはカザフスタンのフィギュアスケート選手。
日本人スケーターとも親交が深くて、特に同じ時期にタラソワコーチ、ローリー・ニコル振り付けの元で練習していた浅田真央選手や同じDT仲間(?)の高橋大輔選手とはとても親しかったようです。
また、2013年世界フィギュア銀メダル、2014年ソチオリンピックでは銅メダル、2015年四大陸選手権金メダル、世界フィギュア銅メダルなど、実績もあるスケーターでした。
 
私は15、6年前から比較的ライトなフィギュアスケートファンなのですが、あまり観なくなってしまった時期があり、テン選手が活躍しだしたのがちょうどその頃だったので、はっきり彼を認識したのは実はソチオリンピックの頃です。
バンクーバーオリンピックにも出場していたようなのですが(出場選手の中で最年少の16歳)、ここではあまり注目できず…。
けれど、バンクーバーシーズンの動画をあとから見てみたら、まだ発展途中だったこの頃から上半身も含めよく動く所などテンくんらしさが出ていました(個人的に上半身のよく動く選手好きです)
動画はトリノで行われた世界フィギュアのショートプログラム

 
それから3年後の2013年、デニス・テンはメダルという意味ではほぼノーマークだった時にショートプログラムで当時無敵かと思われていたパトリック・チャンに次ぐ2位につけ、フリーではチャンを上回る点をマーク。
総合点では僅かに及びませんでしたが、それでも堂々の2位に輝き、母国に初めて世界大会でのフィギュアスケートのメダルをもたらしました。
動画はフリープログラム

情熱的に踊るプログラムではなく、紳士的に軽やかに魅せるタイプのプログラム。
それでも見入ってしまうのは、滑りのノーブルさ、サラッと見せる細かな動きや姿勢の良さがたいへん魅力的だからだと思います。
抑えた軽妙な演技でも、所作の一つ一つが美しく音を捕らえています。
ジャンプも安定していて、ランディングまですごく綺麗。
 
順番が前後してしまいますが、2011年度のエキシビションで披露したのが、「Cinema Paradiso」。
振り付けはオレンジゼブラな独特の色合いの衣装を纏って「四季」を演じ、トリノオリンピック銀メダルに輝いたステファン・ランビエール(ランビの四季大好き)

この演技を見てまっさきに思うのは、なんて音楽と一体となった繊細かつ情熱的な演技をするのだろう、ということです。
ちょっとした動きにも気品を感じさせる演技で微妙な距離をとりつつ音を捉えていく前半と、音楽が高まってきた所から演技と音が渾然一体となったような見事な調和を見せる中盤以降。
体全体を使った動きも美しくて本当に素晴らしいと思います。
すごく綺麗かつ音楽を捕らえたイナバウアーは彼の美しい姿勢の賜物。
そしてなんと言ってもツイズル!
ステップの際のツイズルが本当にかっこよくて音楽を捕らえると言うよりも動きで音を奏でている感じです。

そして2014年のオリンピック。
はだけた胸元に赤いネクタイ(裸にネクタイ…)という謎の衣装で登場したテンくんは、ショートプログラム9位からの巻き返しを狙うフリーでした

動画のコメントにもありますが、テンくんの滑りは気品があり紳士的なのだけど、同時に男性的な情熱も感じられます。
この演技ももちろんその魅力が存分に楽しめるプログラムです。
手足の使い方はしなやかだけれど、ひとつひとつの動作がピシッと決まるその演技から受ける印象は、女性的な美しさより紳士的な凛々しさ。
クリーンに決まっていくジャンプもランディングまで綺麗でかっこいい。
どれだけ動いも乱れない美しい姿勢、だからこそ保たれる品の良さ。
丁寧でもよく動き、思い切りの悪さは全くありません。

そして2015年の四大陸選手権。
彼のマークした最高得点がこの時の演技です。
その点に見合った素晴らしい演技で、念願だっただろう金メダルも獲得しました

いきなり持ち味の一つである(と私は思っている)ツイズルから始まる演技は最初から最後までかっこいい。
特に後半、音楽が高まってきてからは次々決まるジャンプがメロディの高揚感と見事に調和しています。
丁寧だけれど音楽に負けない情熱も感じ、体もよく動いているしスピード感もあって、本当に素晴らしかったです。
 
本当はもっとたくさん書きたいのですが、今回はこのくらいにして、また別の機会にエキシビジョンなどの演技についても触れたいと思います。エキシビジョンでしか見れない演技ではその体幹の良さがすごく分かるんです。

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