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悪のカリスマ誕生を描く『ジョーカー』の評判は? 主演・ホアキン・フェニックスに迫りつつ

2019年の秋は「ピエロの秋」となりました。ピエロ関連の注目映画が2作も封切られたのです。 
 
そのひとつが、おそらく多くの方がご存知でしょう、アメコミ原作の人気シリーズ「バットマン」に登場する宿敵ヴィラン、ジョーカーを描いた衝撃作。タイトルはズバリ『ジョーカー』です。
既に日本でも公開されている作品ですが、筆者は未見なので(園児の子どもがいるのでなかなか…)、ここでは米批評家の反応や主演男優の過去の演技、最近のエピソードなどをご紹介したいと思います。 

ちなみに、『ジョーカー』の予告編はこちら。


米批評家の反応や興行成績

アメコミキャラクターが主役とは言え、タイトルロールに扮するのは、あのホアキン・フェニックス
ただのアメコミ映画になるはずはなく、完成作がお披露目になると、心優しい男が悪のカリスマへ変貌していく姿を描いた深く重く過激な作風に衝撃が走りました。
 
その勢いのままヴェネチア国際映画祭を制しましたが、しかし、米批評家の間ではこの映画に対して否定派も急激に目立ってきました。
なぜか。どうやら作品にあまりにも救いのないことが、ある種のアレルギー反応となっている模様です。
ただ、大道芸人だった青年の暗い心情をとことん掘り下げていく様は圧巻である、とのこと。
怪人ジョーカーの活躍を描くアメコミ的映画では決してないので、DCコミックファンの期待に応える作風かどうかには大いに疑問が残るらしいので(前情報だけでも一目瞭然ではありますが)、その点も注意が必要かもしれません。
また、この作品が持つ過激な内容に暴力を誘発する可能性が指摘され、マスク、フェイスペイント、コスチュームを身に着けての来場を認めない、などの決定がLAの映画館で下されましたが、そういった点での注目度、危険なイメージの拡大も手伝ってでしょう、興行的にもロケットスタートを切っています。

ホアキン・フェニックスの演技

さて、否定派もその素晴らしさを讃えているのが、主演ホアキン・フェニックスの演技です。
ジョーカーのダークな心情、優しき男の心で拡大していく怪物性をたいへんに見事に演じきっているらしく、全く新しいジョーカーに胸を掻きむしられること必須という意見が並んでいるといいます。
そして、その多くの声には、彼の過去の演技からも大きく頷くことができます。
 
20代半ばに出演した『グラディエーター』でオスカー候補に上がるなど注目を浴びたフェニックスは、その後も『ウォーク・ザ・ライン/君に続く道』『ザ・マスター』『her/世界でひとつの彼女』『インヒアレント・バイス』などで、素晴らしい演技を連発します。
2000年代前半には、演技力の無駄遣いのように見える作品もありましたが…(『サイン』などその傾向が顕著です。作品の持つチープさによるユーモアの中でフェニックスの迫真の怯え演技が浮いてしまうという、演技派であるがゆえの気の毒な状況になっていたように思います…が、それはそれで面白かったです)。
ともあれ、彼の演技は、まさに憑依
どんな役を演じても、その魂を感じさせるほど目付き、表情が変わります
『ウォーク・ザ・ライン/君に続く道』でカントリーシンガー・ジョニー・キャッシュに扮した際は、音楽と愛する女性への情熱をやや病的な翳りを感じさせつつ物凄い目力で演じ、かと思えば『her/世界でひとつの彼女』では、パソコンOSと恋に落ちる男の孤独な心を切なおかしく描き出します。
全身にそのキャラクターの雰囲気を纏うのです。
数多くいる演技派の中でも、特にエモーショナルな表現が見事な俳優と言えるでしょう。

こちら『ウォーク・ザ・ライン/君に続く道』の予告編(字幕無しですが…)

こちらは『her/世界でひとつの彼女』。


今は亡き兄、リバー・フェニックス

そんな彼に俳優の道を勧めたのは、兄であり、若くして死去した伝説的俳優リバー・フェニックスだったといいます。
元々、フェニックス一家(「フェニックス」は改名後の姓で元は「ボトム」という姓でした)は生活のため子どもたちがそれぞれに芸を披露して小遣いを稼ぐ、という生活をしており、その延長としてホアキン以外のきょうだいは子役の道へ進みます。
しかし、ホアキンは当時、他のきょうだい達と距離を置き、父とスペインを巡る生活を送っていたそうです。
そんな彼に、兄のリバーは『レイジング・ブル』のビデオテープを見せ、「お前のやるべきことは、これだ」と言ったのだそうです。
ホアキン・フェニックスがこのエピソードについて語ったのは、今年、トロント国際映画祭で特別賞を受賞した時でした(『ジョーカー』をはじめ、映画界への貢献を讃えられての受賞)。
兄の死の現場に居合わせたという彼は、これまで公の場で兄について語ることはほとんどありませんでしたが、受賞スピーチという場でこの思い出を語ったのです。

ともあれ、ホアキン・フェニックスが描き出す新しいジョーカー像をはじめ、大いに期待できそうな『ジョーカー』
既にご覧の方も多いでしょうけれど、楽しみにしたいと思います。
 
次は、もうひとつのピエロの怪人映画、『IT/イット “それ”が見えたら終わり。』シリーズについて、過去のテレビ映画『IT/イット』の件も交えて書いてみたいと思います。

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