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しずくのような子

 手のひら程度の大きさの少女の遺体が横たわっている。尻まである金髪には泥が絡まり、小枝ほどの細さの白い四肢は不自然に折れ曲がっている。全身を激しく打ち付けたのか、あざが酷く痛ましい。その遺体を、教会の使者は丁寧に麻布へと包んだ。


「あぁ、フレデリカ……」


 憔悴しきった顔を婦人は痩せた手で覆う。ぶるぶると震えるその体を、ドゥールイット男爵は撫でた。窓のない薄暗い応接間に嗚咽が響く中、男爵は机上を見渡した。

 決して狭くないその場所には、膨らんだ麻布がゆうに数十個は積まれている。その全てが部下達に森や町を一日中駆けまわらせて見つけた、様々な大きさの遺体だ。小指の爪ほどしかないものから、3歳の子供ほどの大きさのものまである。可愛い可愛い、7歳の一人娘。先週、事故でこの世を去った。


「悪魔の仕業かと。そうでないと、亡くなった娘さんの体が……鳥の巣やら馬小屋やらで見つかることに、説明がつかない」
「……あの悪魔?」


 使者のうちの1人がフンと鼻を鳴らした。鷲鼻の若い男だ。

「それ以外に何がある。誰かから恨みを買ったのでは?」
「カイル! 口を慎め。何様のつもりだ」


 髭を蓄えた男が叱る。鷲鼻男はおそらく、成金の息子か何かだろう。領地や屋敷が小さいからか、こうしてぞんざいな扱いを受けることも稀にある。


「だとしても……なぜ私の娘の体を使う必要が? 私は領民達のために尽力してきただけだ! 娘に罪は何も……!」
「ええ、重々承知しております。だからこそ、男爵の要請を元に我々が派遣された。……信頼されている証ですよ。普通はこんな話は取り合ってすらもらえない」


 麻布の山を見ながら、男爵は憂いた顔をする。この事件は数名の部下と教会の関係者、この応接間にいる者と、一部の領民達しかまだ知らない。冬が近づき、領主の娘が亡くなり、領地にはただでさえ陰鬱な空気が漂っている。必ず我々で悪魔を見つけださないといけない。


【続く】


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