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ふじおさん(仮)の涙

この世には話しかけられやすい人と
話しかけられにくい人がいる。

私はと言えば圧倒的、前者。
知らない人に話しかけられる率がとても高い。


旅行先で、道を尋ねられることはデフォルト。
こっちも知らん。


初めて降り立つ駅で、
よくこの時間お会いしますよね?と話かけられる。全く知らん人に。

帰り道の駅でタウンワークをもった女性に話しかけられたこともある。

「お仕事帰りですか?
 私は仕事を探していまして。
 もう一週間食べていません。。
 この求人に応募したいので
 1000円ください。」

なんでや。
なんで私から1000円もらえると思ったんや。

あいにく小銭はないし、
1000円札では電話しにくいでしょうからと、
残高の残ったテレホンカードを渡したら
苦い顔をされた。

なんでや。電話したかったんちゃうんか。

そんなこんなで、
大変に人に話しかけられやすい私だが
先日スーパー銭湯でおじいさんに話しかけられた。

ふじおさん(仮称)と名乗った彼は、
お話しした10分ほどの間に
自分の住まいから年齢、職業、家族構成、お孫さんの年齢にとにかくあらゆる個人情報を漏らした。

その間私のしていたこととすれば、ふじおさん(仮)の顔を見ながら、

へぇ!それはすごい!
なるほど!

などのスーパーライト級な相槌をしていただけ。。

そして10分ほどお話ししたところで、
突如ふじおさん(仮)は泣き始めた。

え?

泣かした?

なんで?

なんか悪いこと言ったかな…

大丈夫ですか?と聞いたところ、
ふじおさん(仮)はゆっくりと話し始めた。


こんな世の中になって、
話しかけても嫌な顔をされる。
今日も、ダメだとはわかっていたんだけど。
孫くらいのお子さん(我が息子)をみかけて
思わず話しかけてしまってね。
ごめんなさいね。
あなたが目も逸らさず話を聞いてくれるもんだから、なんだか泣けてきちゃってさ。

何も返せなくなってしまった。

ふじお(仮)さんの痛みがわかる気がした。

こんな世の中になって誰でも
多かれ少なかれいろんな不都合ややり辛さを
抱えながら生きている。

人と関わる、繋がるのが
まるで悪いことのように感じたこともある。
孤独を抱えて生きていくのが当たり前。

昔より人見知りになった気がする。
初めての人と会うことが怖かったり、
逃げたくなる気持ちに素直でいられるからこそ
殻に閉じこもりがちになっている。

ふじおさん(仮)の涙からそんな自分を再認識した。

お話しできて良かったですよ。
どうぞお元気でお過ごしくださいね。

最後にそう声を掛けて、席を立った。

もうすぐ春が来る。

この春は人と関わり、繋がれる毎日が送れますように。

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