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筋肉の収縮の種類~なぜネガティブは大切か~

ヒトの骨格筋の収縮は大きく分けてアイソメトリック収縮とアイソトニック収縮に分けられる。そしてアイソトニック収縮はその特性からコンセントリック収縮とエキセントリック収縮の二つに分けられる。

今回の記事では、ヒトの骨格筋の収縮様式について簡潔に説明し、そのうえで、筋肥大においてのエキセントリック収縮の重要性を説明する。最後に実際のトレーニングで取り入れることができる、エキセントリック収縮を得る方法を解説する。

アイソメトリック収縮「筋肉の出力=負荷」

アイソメトリック収縮とは、等尺性収縮とも呼ばれ、関節が動かないように固定する際に働く筋肉の収縮である。アイソメトリック収縮では、筋肉の張力は発生するが、筋肉の長さに変化が生じないという特徴がある。アイソメトリック収縮では、筋肉の出力と負荷は拮抗しており、筋肉の出力は不可に等しくなる。

例えばデッドリフトを行う際に、広背筋は、バーが垂直に挙上されるために、またバーが身体から離れないようにアイソメトリック収縮を行っている。広背筋のアイソメトリック収縮のおかげで、デッドリフトの際バーが身体から離れずに動作を行うことができる。さらにボディビルダーのポージングも、収縮の様式ではアイソメトリック収縮といえる。ボディビルダーのポージングは関節や体を筋収縮によって固定しているからである。


アイソトニック収縮

アイソトニック収縮は等張性収縮とも呼ばれ、筋肉は短くなるか、引き延ばされることで力を発揮する。筋肉が短くなりながら力発揮する収縮様式をコンセントリック収縮、筋肉が引き延ばされながら力発揮する収縮様式をエキセントリック収縮という。


コンセントリック収縮「筋肉の出力>負荷」

コンセントリック収縮は、筋肉が短くなりながら発揮される力である。重力に対して力発揮することから、ポジティブ収縮とも呼ばれる。コンセントリック収縮は、負荷に力発揮が打ち勝った時に発揮されるため、筋肉の出力は負荷よりも大きくなる。


エキセントリック収縮「筋肉の出力<負荷」

エキセントリック収縮とは、筋肉が引き延ばされながら発揮される力である。筋肉は重力による負荷を張力でコントロールしながら力を発揮する。重力による負荷をコントロールする際に発揮されることから、ネガティブ収縮とも呼ばれる。エキセントリック収縮は、負荷をコンセントリック収縮できないときに生じる収縮様式であり、筋肉の出力は負荷よりも小さくなる。


真のエキセントリック収縮とは?

[i]筋力トレーニングでの挙上速度について調査した研究では、意図的にコンセントリック収縮時に10秒、エキセントリック収縮時に6秒かけて運動を行った群よりも、コンセントリック収縮時、エキセントリック収縮時共に1~2秒かけて運動を行った群の方が、より多くの運動単位が運動に動員されたとされている。

[ii]筋力トレーニングに使用されるテクニックの効果を、ベンチプレスにて調査した研究では、挙上スピードを意図的に遅くすることは筋肥大に効果的ではないと結論付けられている。

以上のことから、コンセントリック収縮が行える重量で行うエキセントリック収縮は、筋肉の出力が負荷より大きな状況での運動であり、真のエキセントリック収縮ではないように思える。エキセントリック収縮を得ようと思い、最初から意図的にゆっくり降ろすようなトレーニングは必要ない。

真のエキセントリック収縮とはどのようなものだろうか、これは「コンセントリック収縮が不可能な重量でのエキセントリック収縮」と定義することができる。では真のエキセントリック収縮を得るにはどのようにすればよいだろうか。以下では真のエキセントリック収縮を得るテクニックを紹介する。


真のエキセントリック収縮を得るためのテクニック

「コンセントリック収縮が不可能な重量でのエキセントリック収縮」を得るためのテクニックとして、チーティング、フォーストレップ法が考えられる。

フォーストレップ法とは、コンセントリック収縮が行えなくなった際に、補助者にコンセントリック収縮を補助してもらい、エキセントリック収縮を対象筋に与えるという方法だ。フォーストレップ法では、特に動作の中で最大トルクが発生するところを補助してもらい、対象筋を追い込む。これにより自分の筋肉の出力でコンセントリック収縮できない可動域を省略し、真のエキセントリック収縮を得ることができる。

フォーストレップ法はとても良いテクニックだが、補助者が必要でひとりでは行うことができないという欠点がある。ひとりで真のエキセントリック収縮を得る方法としてチーティングがある。

チーティングとは、対象筋以外の筋肉を使用してコンセントリック収縮を行い、エキセントリック収縮のみを対象筋に与えるというものである。チーティングにより、対象筋では行えないコンセントリック収縮を省略し、対象筋の出力よりも大きい負荷を対象筋に乗せることができる。チーティングは対象筋に強烈なネガティブを与えるためのテクニックであり、利点を理解すれば決して悪いものではない。例えば、サイドレイズで脚の筋肉を利用してトップポジションまでダンベルを挙げる、バーベルカールで下半身を利用してトップポジションに挙げる等はチーティングといえる。

チーティングはケガを誘発しやすいため、注意が必要だ。チーティングは一時的に身体を不安定な状態にするため高重量でのチーティングや、対象筋が疲労してからのチーティングはケガの原因になりうる。このことから、チーティングは身体の使い方を理解してから行うことが望ましい。

まとめ

ヒトの骨格筋の収縮様式は、大きくアイソメトリック収縮とコンセントリック収縮、エキセントリック収縮に分けられる。エキセントリック収縮は筋肥大において重要な要素であるが、エキセントリック収縮を得ようとして、ゆっくりとトレーニング行うことは必要なく、本来扱えない重量ゆえに結果的に筋肉が引き延ばされる真のエキセントリック収縮が筋肥大に有効である。真のエキセントリック収縮を得るためにはフォーストレップとチーティング等は有効なテクニックだが、チーティングを行う際には注意が必要である。


参考資料

[i] https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22328004/#:~:text=In%20conclusion%2C%20slow%2Dspeed%20strength,each%20of%20the%20variables%20assessed.

[ii] https://journals.lww.com/nsca-jscr/abstract/1999/08000/a_cross_sectional_comparison_of_different.12.aspx

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