2022年 7月2日 鈴鹿ポイントゲッターズ 0-4 奈良クラブ 感想


長島 滉大 選手 2ゴール!1アシスト!



この試合のマン・オブ・ザ・マッチはもちろん、誰に聞いても長島選手であるということは間違いないだろう。長島選手が個の力で打開して豪快に2ゴール1アシストを決めてくれたことは本当に素晴らしかった。そして、公式記録では気温27.9℃、湿度82%とあるが、おそらく実際のスタジアムの体感温度はもっと暑かったのではなかっただろうかと容易に想像ができる。そんなサッカーをする上では過酷過ぎる環境のなかでの長島選手の2ゴール1アシストは、チームに与えた影響力は計り知れないものになったのではないだろうか。話題が変わるが、2021-22シーズンUCLを優勝したレアル・マドリードも、その優勝の立役者なのは間違いなくベンゼマだろう。PSM、チェルシー、マンC、リヴァプールと戦術的には決して優勢だったとは思えない状況のなかで数々のゴールを奪ったベンゼマは、サッカーは戦術よりもまず相手より多く得点を取ったチームが勝つという、サッカーでは大前提であるはずの、この当たり前の原理原則を改めて再認識させてくれた選手だった。長島選手も同様である。

そんな長島選手の活躍ばかりが注目してしまうこの試合ではあるが、奈良クラブを振り返る前に、まずは鈴鹿のこの試合で目指そうとしていた攻撃の展開をここで見てみようと思う。それが色濃く反映されたのが開始直後の1:04から始まる場面だ。

(以下敬称略 番号反映せず)

1:04

右CB20番へ山本プレス前に縦にパス→ST9番落として→ボランチ7番へ 金子昌プレスバックもかわされる 7番→左前方の左SH10番へ渡して左サイドでパス&ゴー 10番→9番へ小谷プレスも→7番左ポケットへ 森田と都並詰め寄り7番倒れ込む 伊勢CF14番をカバー 加藤ゴール前カバー 都並クリア

1:24

右CB20番がクリアボール回収 浅川右外切りの立ち位置→ST9番 9番に山本反転してプレス 背後から森田も接触するプレスに9番ボールロスト こぼれ球を可児が回収 そのまま前へ運ぶ センターライン中央で長島へパス 長島左サイドで運びゾーン3左付近でロングシュートも大きく右に枠外れる


このように、鈴鹿の要注意選手であるボランチ7番が、積極的に前線へ飛び出して攻撃を活性化させようとしているのがよく分かるだろう。これがこの試合での鈴鹿の狙いだったということは間違いない。しかし、奈良クラブもここの対策は十分にできていて、森田が7番に対して果敢についていってプレッシングを仕掛けられていたし、都並も挟み込んで右ポケットで決定的な場面を作らせることはなかった。その後も、森田はターゲットマンであるCF9番にプレッシングを仕掛け、そのこぼれ球を可児が回収して攻撃へ繋げていくといった、トランジションの速さにおいても、事前にスカウティングできていたということが分かった場面だった。さらに贅沢なことを付け加えるなら、キックコントロールが素晴らしい右CB20番の縦パスのプレッシングに対して、奈良クラブの前線がもう少し圧を与えられることができれえば、尚のことよかったのではないかと思った。

それでは、この試合を振り返ってみる。ここではなぜ鈴鹿を相手に奈良クラブは複数得点を上げることができたのか、ということについて4つのポイントに分けて考えてみよう。まずその1つ目は先述したように長島の決定力だ。ここにおいてはもうこれ以上ここでは深堀りはしない。なぜならサッカーの技術面において私は疎いからだ。2つ目はあまり触れたくないことなのかもしれないが、あえて触れなくてはいけない4:30の先制点の場面だろう。

4:30

右サイドセンターライン後方からスローインのリスタート 都並→センターサークル内のフリーの可児へ渡る そこから横に運ぶ CF14番プレスも追えず 可児→フリーの加藤へ 加藤に右SH19番がプレス前にクロス 右CB20番のクリアボールがゴールへ 副審フラッグを上げオフサイド だが2人で話し合いの後に主審は副審のオフサイド判定を取り止めゴールの判定 


このように、この場面を見返すと浅川がオフサイドポジションにぎりぎりいた可能性が高いように私は感じた。そして、浅川はボールに触れていないが、オウンゴールをした右CB20番に対して詰め寄ってきているので、全く関与していないとは言いきれないのではないか。もちろんPC上の小さい画面越しでは分かりづらいところもある。おそらく鈴鹿側にしてみれば、このゴール判定に対して納得は到底できないであろう。試合後の三浦泰監督のインタビューでもコメントでもそれがよく伝わってくるからだ。それほどこの判定は極めて微妙であったことは間違いない。やはり、前回も同じことを書いたが、予算がないJFLでもVARの導入をぜひとも検討して頂きたい。とはいっても、鈴鹿としては、まずあの場面では右CB20番が頭で枠外へクリアしなければいけないのは今更言うまでもないことだろう。そして、可児や加藤をフリーで運ばせ過ぎたことも問題ではなかったのかと考える。ここについてはもう一度触れることにするが、奈良クラブとしては開始4分で先制点を取ったということは、この試合で有利に進めることができ、かつ、それが複数得点に繋がったポイントだと考える。

3つ目は奈良クラブが前半ロングボールを多様してきたことだ。


3:32 加藤 右CB20番カット右サイド割る

8:24 加藤 GK23番へ

9:00 アルナウ 左サイドで長島と左SB26番が競り合う こぼれ球は後方へ 右SH19番回収も加藤がプレスしインターセプト その後左サイド割る

9:56 都並 右サイドで浅川が頭も相手へ

10:41 アルナウ ゾーン3付近中央で山本と右CB20番が競り合う その後山本収める

11:22 小谷 右サイドで金子昌に合わず左SB6番GK23番へ

15:20 小谷 右サイドで浅川収めバックパス 都並→可児から逆サイドの加藤へ 可児フリーでよい繋ぎ 山本いい収めその後森田のシュート

17:39 伊勢 右SB2番カット左サイド割る

18:05 小谷 右サイドで金子昌と左SB6番と競り合う 右サイド割る 相手ボール

21:50 アルナウ フリーの可児も右サイド割る

24:30 アルナウ センターサークル外左で右CB20番頭も金子昌が競り合い山本→可児→森田と繋がる

26:26 小谷 浅川通らずGK23番もオフサイド

○29:09 伊勢 ペナ外中央左寄りで右CB20番と右SB2番の間へ走り込み長島ワントラップからのループシュートでGK23番をかわし鮮やかにゴール

32:56 アルナウ ゾーン2手前中央付近で右CB20番が山本に競り勝ちST9番へ


このように、鈴鹿の前線4人が積極的にプレッシングを仕掛けてくることは、スカウティングの段階から奈良クラブは理解していたのであろう。そこで、この試合ではいつもよりロングボールを意識的に多く入れていたように感じた。その結果、鈴鹿の最終ラインは下がり気味になっていき、29:09では、右CB20番と右SB2番の間の空いているスペースに伊勢が絶妙のロングボールを蹴り入れ、長島がそこへ上手く進入して放ったループシュートが鮮やかにゴールしたことに繋がった。こうして事前の対策が講じたことがこの試合で複数得点を上げられたポイントであろう。さらに付け加えると…


37:50 小谷がゆっくりと前へ運びセンターラインまで超える これまでほぼフリー 14番と9番プレスせずジョグ そこから中央へフリーの山本へ 相手の最終ラインが下がっている


このように、32分を皮切りに奈良クラブがロングボールを蹴らずに後方から繋いでビルドアップしていけた最大の理由は、鈴鹿の最終ラインがいよいよ下がってしまい、前線の4人との間の中盤でスペースが生まれ孤立してしまっていたからだろう。そのため、疲労と重なって前線からのプレッシングも非常に甘くなり、37分の場面では、小谷に対して全くプレッシングを仕掛けてこない状態のまま、前へするすると運べる状況を作り出すことになっていたのであろう。この点もとても大きい。

4つ目は2つ目のところでも先述したが、インテリジェンスの高いプレーを連動させたことで、フリーで運べる場面が増えたことだ。特にそれが表出した場面だったのが…

40:50

相手陣内で押し込んでいる状況 最終ラインの左から、加藤→伊勢→小谷と渡る 小谷→CF14番のプレス前に中央へ降りたフリーの金子昌へ 金子昌に左SH10番とボランチ27番プレスせず前のパスコース切る構え ST9番可児にプレスもこのパス交換で追わず 可児後方へ下がりフリーに 金子昌→フリーの可児へ 14番と9番がプレスにくる前に可児右回りで簡単に振り切る 可児横向きで→フリーの金子昌へ鋭い縦パス 10番と27番プレスせず前のパスコース切る構え 金子昌→フリーの右サイドの都並へバックパス 可児前方へ走り込む 14番可児の動きに動きが止まる その空いたスペースにフリーの森田が入る 都並→森田→後方へ下がりフリーになる山本へ ボランチ7番と右SH19番が間隔を狭めプレスせず前のパスコース切る構え 山本7番と19番の頭上を越すループパスで前方の浅川へ 浅川背中で左SB6番を背負いながらも足で収める フリーの長島が左→右サイドへ入り浅川→長島へバックパス 浅川ペナ内中央へ走り込みCB4番と20番のラインを下げる 7番のプレスも長島が空いたスペースを利用して左回りで振り切る 6番プレスに加わらずシュートコースで構える 前を向いてペナ外左からミドルシュート 6番スライディングでブロックもボールに届かず ゴールポスト左からGK23番へ当たってゴールへ ペナ内中前まで浅川と加藤が進入


このように、3点目となる決定的なこの場面を、鈴鹿の選手に対して奈良クラブの選手全員がスペースを空ける動き、その空いたスペースをつく動きが見事に連動し、しかも、その動き出しでフリーの状況まで作り出していた。最後のところはボランチの7番を振り切った後の長島の見事なミドルシュートの個の力によるもではあるのだが、ここへ至るまでのプロセスが、完全に鈴鹿を崩しきったゴールであったことが分かるのではないか。サッカーでは相手にとって勝ち気を消失させることでもっとも重要な3点差となる3点目を、このような素晴らしい展開でゴールを奪えたことがとても素晴らしいと今また感動している。奈良クラブがここで見せたインテリジェンスの高いプレーもまた複数得点を上げたポイントでもあるだろう。そして、この3点目を奪ったところで、この試合の勝敗は決したと考えている。

後半では、鈴鹿はコンディションの問題だったのか、ボランチ7番が交代してコンパクトな陣形を再編して挑んできたために、55分ではかなり危ない場面も見られた。しかし、73分にまたしても長島が右サイドから入れた綺麗なクロスボールに、左サイドの森がペナ内まで進入して見事な頭で4得点目を上げたことに関しては、たまらなく嬉しかった。とはいえ、奈良クラブとしてはとても喜ばしい結果となったこの試合ではあったが、もし4:30のあの時間でオフサイドによりノーゴール判定となっていれば、その後どうなっていたかは全く分からなかっただろう。それだけJFLで勝つことが難しいことである、ということを最後に付け加えて今回は終わりにしよう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?