2022年 奈良クラブ 1-0 ホンダロックSC 感想



勝って兜の緒を締めよ


意味:戦いに勝ったからといって油断してはいけない。いつ再び敵が現れないとも限らないのだから、兜の緒もきちんと締めておけ。成功したからといって、気を許してはならぬことをいう。(imidas参照)


月曜ナイターのカシリクに観客数2,011名が集まり、とてもエモーショナルな雰囲気のなかホーム初勝利を勝ち取った奈良クラブ。そのことがSNS上や地域マスコミでも大いに沸いている今だからこそ、読者にはおそらく好まれないであろう厳しい感想をここではあえて率直に述べなくてはなるまい、と、そのように私は考えている。それは、奈良クラブが今期の目標にJFL優勝とJリーグ昇格を第一に挙げている他ならない。それでは、この試合の何が課題だったかを5つ挙げてみたい。


課題1 CFのシュートが1本


16分、自陣カウンターからのクリアに近いロングボールにゾーン3でCFがミドルループシュートも決まらず(画角が見切れているため確認できず)

72分、左CKで左WG桑島選手がファーサイドへ蹴ったボールに上手く回り込んでフリーでシュートも枠外へ


公式記録では1本となっているが、ここでは2本としたい。前回に引き続きこれまでのシュート数を見てみると、滋賀5 Honda3 青森2 大分12 岡﨑2 三重12 新宿9 高知10 Honda4(3) 武蔵野11、FC大阪12で、この試合では7本とこれまでと決して多いとはいえない。40分+1分の右WG金子昌選手、48分、53分、74分のST山本選手、72分、90+3分の左WG桑島選手のシュートチャンスはとても素晴らしかった。しかし、肝心のCFのシュート数が1本では物足らないと感じるのは当然だろう。この主な原因はホンダロックの統率された3ラインの高い守備力が功を奏したからだ。ホンダロックは奈良クラブのサイドからの攻撃に対して、19分、21分、53分、67分と非常に強いインテンシティで2人が詰め寄りサイドラインへ追いやって未然に防いでいた。特に67分でもあったように、それまでホンダロックは前がかりになる展開が多かったにも関わらず、そんな状態でも守備時は選手全員がきっちりと帰陣してブロックを形成して構えていたからだ。そして、以前CFへの一本槍な単調なクロスだけではいけないとここで述べた。しかし、この試合のように先に先制点を早い時間帯で挙げたケースに置いては、相手は前がかりに攻撃してくることが往々にして起きるので、ここでは一本槍のカウンターも特に有効な戦術であるといえる。ここで大切なことは攻撃方法ではなく攻撃のタイミングが問題なのである。ホンダロックはオフサイドを巧みに使って防いできたとはいえ、私としてはロングカウンターでCFが打っていくシュートシーンをあともう少し見たかったのが本音だ。


課題2 セカンドボール


この試合では、19分、21分、39分、66分と、それ以外でもほとんどのセカンドボールをホンダロックに取られたのではないかという印象を待っている。もちろん奈良クラブが取ったケースもいくつもあった。そこからよい攻撃に繋げていったシーンもあった。しかし、このような印象を持つ原因となってしまったのは、おそらく重要なトランジションの球際の競り合いのなかで、ホンダロックからことごとくセカンドボールを失ってしまい、そこから押し込まれる時間が多かったからだろう。ホンダロックのプレッシングについては、先制されるまでの試合開始10分頃ぐらいまでは、大方の予想通りミドルゾーンで奈良クラブを待ち構えるところからスタートしていた。しかし、11分に先制されるや否や、ホンダロックはこれまでのスタンスをガラリと大きく変えて前がかりに押し込んできた。カウンタープレスとはいかないまでも、前線の3人が積極的にプレッシングを仕掛けて中盤でボールを奪い取り、そこから押し込むシーンがとても多かった。

16分の押し込まれたシーン

これは16分、自陣右サイドでの奈良クラブのスローインの後、ホンダロックからセカンドボールを奪われてしまい、そこから右サイドを進入され、右SB都並選手と右CB伊勢選手が引っ張り出された上にファーサイドへクロスを入れられ、相手にフリーでシュートを打たれるシーンを不慣れな戦術ボードアプリで再現(誤差あり)してみた。左SB加藤選手が何とかシュートブロックしたので事なきを得たが、非常に危ないシーンであったのは間違いない。右サイドで都並選手と伊勢選手の2人が対峙しているのであればまずは優先事項としてクロスを上げさせてはいけないシーンであったことと、やはりセカンドボールを奪われた後からこのピンチを招いている、ということが課題であろう。この試合では球際でセカンドボールを奪えなかったのはボランチ森田選手が、イエローカード累積により出場できなかったことが原因が大きかったかと思われる。彼のこれまでの活躍で奈良クラブの守備が安定していたのは言うまでもない。しかし、70分から交代して入ったJFL初出場のボランチ國領選手は、そんな奈良クラブにとってこれから大いに期待が持てる活躍だった。彼は73分、(80分)、81分、85分、86分と、相手の選手をことごとく潰してボール奪取していた。いわゆる掃除屋的な彼のような選手は、これから中盤〜終盤にかけてかなり重要なポジションとなるので、彼の存在は貴重となるだろう。その他に、GKアルナウ選手からのロングボールが多かったことを気になっている。そこからホンダロックにセカンドボールをかなり奪われていたからだ。それは、おそらくホンダロックから押し込まれる展開が増えたことによるものだと思われる。しかし、そんなときだからこそ後方からボールを前進をさせることによって、簡単に相手からボールを失なわないことが大切だったのではないかと考える。


課題3 低い最終ライン

29分に押し込まれたシーン

これは29分、奈良クラブがビルドアップ時に最終ラインでホンダロックの前線からインターセプトされてしまい、その後押し込まれてしまい、ボランチ2人が左サイドへ食いつかれて戻るものの、その空いたスペースを見事にホンダロックに使われてしまったシーン(誤差あり)をこれも不慣れな戦術ボードアプリで再現してみた。この後、相手のボール保持者は前へ少し運んでシュートを打ったが右CB伊勢選手がブロックをして何とか難を逃れた。このようにネガティブトランジション時に最終ラインがずるずると下がってしまい、セカンドラインとの間に距離が生まれ、そこを相手が割って入って起点を作られるケースを今までで何度も見てきた。過去にもここでも指摘している。そして、最終ラインが下がってしまった時間が長引いた結果、苦し紛れに出したクリアボールはホンダロックにことごとく回収されてしまい、そこから波状攻撃を繰り返し受ける、そんな負のスパイラルが続いたのはこのことが原因だろう。79分、80分、81分、82分×2 84分、にホンダロックの18番から立て続けにロングスローからのピンチを招いてしまったことも同様だ。これは早急に解決しなければいけない課題だろう。


課題4 リスタートからの得点


この試合では72分に、桑島選手の直接FKがあともう少しのところでゴールネットを揺らすところまでいった。そして、続けてCKでもゴールを奪うチャンスを作って見せてくれてはいたが、結局はリスタートから得点を取ることはできなかった。公式記録ではCK2本、直接FK9本とある。このことは日々の練習の積み重ねしか解決策を生み出すことができない。リスタートからのゴールは次節以降の楽しみとして持っていよう。


課題5 試合の終わらせ方


87分、GKアルナウ選手のロングボールから、相手陣内でホンダロックにセカンドボールを奪われ、そこから一気にカウンターを受けてしまい、あわや同点ゴールを取られるという、かなり危ないシーンがあった。現状のJFLは首位との勝ち点差は僅かに3と非常に密集している。このことから分かるように、これからも勝ち点3を取るには容易ではないことを如実に表されている。勝っている試合の終盤で一体何が1番の最優先事項なのかを、ピッチにいる選手だけではなく、控え選手や監督、コーチ全員が共有して時間のマネジメントを行う必要があるのではないかと、この試合の終了間際をみて改めて痛感した。しかし、これは奈良クラブが勝ち続ければ身につく筈だと思われるので、この課題については勝ち癖が物を言うと楽観視している。

このように、この試合では勝ち点3を取ったこと以外は、決して、浮かれていいような内容ではないということが分かるのではないだろうか。おそらくアウェーでこの試合の内容では勝ち点3を取ることは難しかったのではないかと感じている。よくてせいぜい勝ち点1か、もしくはそれ以下か…しかし、それを可能にしたのは紛れもなく観客数2,011人のホームの後押しがあったからだと確信して言える。プロスポーツである以上これはとてつもなく大切なことだ。これに勝るものは何一つない。その熱い応援があるからこそ選手たちはそれぞれの限界を一段づつ超えられる。その選手のクラブの成長を可能な限りこれからも私は見守っていきたい。そう感じてここで終わりにしよう。

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