2022年 5月14日 高知ユナイテッドSC 0-1 奈良クラブ 感想


よく試合を開催してくれた…

この試合の感想を一言で表すとするならば、私はこの言葉しか思いつかない。高知の公式HPの発表を見ると、5/9から13日までの間に新型コロナウイルス陽性判定を受けたトップチームの選手が5名もいた。それだけでも高知にとってかなりの緊急事態であるはずなのに、そこへ5/8の天皇杯を戦ってから中2日で、JFL 第7節 三重戦の熱い大激戦を終え、またその中3日で迎えたのがこの試合である。選手のコンディションが万全であろうはずがない。高知の過去3試合を見た私にしてみれば、この試合での選手のパフォーマンスが格段に違って見えたのだから、高知のファンサポーターの方からしてみれば尚のことだろう。そのため、私がクラブの関係者であったなら、必ずこの試合の延期をJFLや対戦相手の奈良クラブへ我も忘れてまっさきに要望していただろう。しかし、高知はそんなことはせず正々堂々と戦いの場を用意してくれた。そして、この試合で奈良クラブは勝ち点3を獲得することができた。当たり前の話ではあるが、サッカーというスポーツは開催場所と対戦相手がいて初めて試合が成り立つ。当たり前のことは実は当たり前ではないことを、奈良クラブはこの勝ち点3の意味を今まで以上に深く噛み締めてこれからも戦っていく必要がある。それこそが高知から得た最大の教訓だろう。

それではこの試合を振り返ってみると、先述した通り高知はコンディション不足の影響を多大に受け、90分間終始我慢を強いられる試合となった。それは試合開始早々から明らかだった。ホイッスルの後、センターサークルから左CBへパスが出された後すぐにロングボールを左CBは蹴り上げ、そのボールは奈良陣内のゴールラインを割った。これがまさにこの試合を象徴されていた。高知の攻撃時のシステムは4日前の三重戦とほぼ同じの3-4-3。最終ラインの中央のCB10番が一歩前に出て正三角形を作る。そこへボランチの6番がビルドアップのフォローに入り、10番と並んで起点となる動きを見せていた。そこから速攻でサイドを攻略して質の高いクロスを上げゴールを奪う。それが高知のこの試合での攻撃のスタイルだった。ここで高知の攻撃の場面を挙げてみると…


7分、右CBがレイオフした右STとパス交換後に上がっていたボランチの20番へ速い縦パス ボランチ20番→右WBへと渡りダイレクトで中央へクロス こぼれ球にボランチ6番がアウトサイド気味で鋭いミドルシュートもGKキャッチ

17分、右CB→右WBと一旦右サイドへ広げてから上がっていたフリーのボランチ20番へ ボランチ20番→左ST→左WBへと逆サイド展開して少し運び豪快にミドルシュートもGKキャッチ

27分、左CBと左WBがパス交換後ペナ手前の中央へロングボール 右STが縦に走ってくさびとなってボールキープしCFへ CFペナ中央付近まで運びシュートを狙うもブロック こぼれ球に右WBが走り込んできた左WBへ合わさず右STへリターン 右ST回り込んでシュート打つも枠外へ 右WBが左WBへスルーパスを出せればフリーでシュートが打てた惜しい場面

53分、奈良陣内でリスタート後にお互いトランジションが行き交うなか、ボランチ13番が右WGの嫁阪選手からボールを奪い、そのままペナ外の中央まで運んでシュートを放つも、右SBの平松選手のスライディングで右枠外へ シュートの前にペナ前へループパスを出せればもっと高確率なシュートが打てた場面だった

54分、GK→右CBから後方に降りたボランチ6番がパスを受け素早く反転して右WBへロングパス 右WBが右サイド深くまで走りダイレクトで中央へクロス 飛び出した左ST17番がボレーシュートを狙うも右CB伊勢選手にブロックされタッチラインへ

59分、奈良陣内でボランチの森田選手からボランチの13番がマルセイユルーレットで華麗にかわした後にCFへスルーパスも右CBの伊勢選手にクリアされる こぼれ球をボランチの13番が回収する 左サイドへ入っていた左STの17番へパス 空いた右ポケットへ進入するチャンスもリターンもらえず その後右WGの長島選手にパスカットされカウンターを受ける

60分、右CBが左サイド深くの左WBへロングパス 左WBが左STへパスしてゴールライン際まで運ぶ 右WGの長島選手が寄せるもクロスを上げる 右CBの伊勢選手がクリアしボランチの6番のシュートをボランチの可児選手がクリアする

60分、奈良陣内でセカンドボールをセンターサークル上部で中CBの10番→左CB→左サイド深くで左WBがパスを受け左ポケットを狙う左STの17番には合わせず ボランチの13番からリターンを貰うもワンタッチ目が合わず右SBの平松選手にカットされる そのこぼれ球をダイレクトで右STがシュートを打つもミートせずゴールラインを割る

67分、ペナ外中央付近で左STが直接FKも奈良の壁に当たる

69分、左CBから左サイドを上がっていたボランチの13番へ縦へ速いパス 中にいた左STの17番へ渡すも体勢崩しワンタッチがずれ右CBの伊勢選手がクリア ボランチの6番がセカンドボールを回収して右サイドにいる右WBへパス 右WBダイレクトでクロスを上げるも大きくそれそのままゴールラインを割る ペナに入っていたCFと左STの17番へクロスが合えばゴールもあった

70分、中CBの10番→ボランチ13番→左CBへと渡り素早く縦にいた左WBへ出すもスリップして体勢崩してタッチラインを割る 積極的な展開に吉本監督から拍手あり

72分、ペナ外右で右WBが直接FKもGKのアルナウ選手がバウンドボールを正面でキャッチ 

79分、センターライン左付近で左ST17番がFK 右CBが頭で合わすも右枠外へ

82分、右CBから左WBへ大きくサイドを変えるロングパス フリーの左WBが受け少し前へ運ぶ 右SBの平松選手が詰め寄るも左STの14番が縦へ走ってきて注意をそらした瞬間に中へ切り返し中央へクロス 左CBの寺村選手がボールウォッチャーになっている隙をつき、フリーに近い状態でCFの9番がヘディングでシュートを打つ しかし、GKアルナウ選手の目の前に飛びキャッチ 決定的なチャンスに頭を抱える吉本監督

84分、ペナ外中央付近で右ST17番が直接FKも左枠外へ

89分、右CBからペナ中央付近までロングボールを入れる CFの9番が87分に替わって入った右CBの小谷選手からボールを収めて左STの14番へパス 左ST14番が再度左CBの小谷選手を交わしてシュート打つも右枠外へ


このように切り抜いて見てみると、コンディション不足で選手の動きが普段とは違うなか、高知の攻撃では何度も得意の縦に早い速攻で、奈良クラブのプレッシングをかいくぐって素早く前進してシュートを打っていたのが分かるのではないだろうか。このなかにも幾つか決定的な場面もあった。しかし、コンディション不足から選手達が脳疲労を起こしていたのか、ポケットへ進入できる場面があっても、選手同士で上手く連動できずにチャンスを潰してしまうケースがあり、それを見ていて私は非常に歯がゆい思いをした。サッカーにおいてコンディション不足で1番怖いのは、体の動きが重たくなることではなく、サッカーでは欠かすことができない認知判断能力が、時間が経つに連れ著しく停滞することなのだということを、この試合を通じて改めて実感した。それでは守備についてだが…


9分、奈良陣内で左CBの寺村選手とボランチの可児選手と左SBの加藤選手のパス交換時に右STがプレス 左CBの寺村選手へボールが戻った時にCFが右切りプレスかける 右WGの嫁阪選手のレイオフに左WBがマークし左STとボランチ20番がパスコースへ入る 左CBの寺村選手の右WGから嫁阪選手へのパスも入らず 最終ライン左へずれ左CBがインターセプト 右STが縦へ走って左CBがロングボールで速攻を仕掛けるも奈良ボールへ

29分、奈良陣内で右CBの伊勢選手→ボランチの森田選手→左CBの寺村選手が2度回す CFと左右STがプレス 左CBの寺村選手→左SBの加藤選手へ渡たると右WBがプレスへ縦へ素早く入る 左SBの加藤選手→左CB寺村選手→右CBの伊勢選手へ 右CBの伊勢選手にはCFが中切りプレス 右CBの伊勢選手→右SBの平松選手へ渡るも左STがファーストタッチを狙いタッチラインへ割る ボランチの6番が後方でフォローに入る リスタート後に左CBの寺村選手→空いたスペースをフリーの左SBの加藤選手へ 右WBがプレスへ素早く縦へ入る 最終ライン右へずれると同時にCFの浅川選手のレイオフに左CBがマーク 左WGの森選手に中CBの10番がマークに外へ流れる 左SBの加藤選手→左WGの森選手へ渡るも中CBの10番と競り合いファールで高知ボールへ


38分、奈良陣内でGKのアルナウ選手にCFが右中切りプレス 左SBの加藤選手に右STがカバー ボランチの森田選手と可児選手にボランチの20番と左STがプレス GKのアルナウ選手→空いたスペースをフリーの右SBの平松選手へ渡るもボランチの6番がついてディレイにボランチの20番と左STも競り合う 右SBの平松選手が3人に囲まれ→左WGの森選手のパスも右WBがインターセプト その後左サイドを速攻へ

40分、奈良陣内で左CBの寺村選手にCFとボランチの6番と右STがパスコースを切る 左CBの寺村選手→右CBの伊勢選手へ渡りCFが右切りプレス 右CBの伊勢選手→ボランチの可児選手へ渡すもファーストタッチをボランチの6番が狙いボールは前へ CFこぼれ球に走り込む右STへスルーパスを狙うが左右のCBの伊勢選手と寺村選手にブロックされる

44分、奈良陣内でGKのアルナウ選手にCFと右STがパスコースを切る GKのアルナウ選手→左WGの森選手へのミドルパスを右WBがインターセプト 右WBとボランチの6番のリターン後にペナへ進入したボランチの20番へスルーパスも左CBの寺村選手がインターセプト

45分、センターサークルで左CBの寺村選手にボランチの20番が寄せる 左CBの寺村選手→少し降りたCFの浅川選手へ CFの浅川選手に右CBがマーク ボランチの6番がCFの浅川選手からボランチの森田選手へのパスをインターセプト ボランチの6番が裏を走るCFへパス CFクロスを上げるも左右のSTに合わずゴールラインを割る

55分、奈良陣内で左CBの寺村選手→ボランチの可児選手→右CBの伊勢選手へ CFと左STがプレス 右CBの伊勢選手→右SBの平松選手へ渡るもファーストタッチを左WGが狙う こぼれ球を詰めた左STがキープしボランチの13番が持ちサイドラインを運ぶ ボランチの可児選手がスライディングでタッチラインを割る


このように奈良クラブの最終ラインに対して、高知は5-4-1もしくは5-3-2をミドルゾーンでしっかりと形成して、前の5人がコンディション不足のなか効率的に連動して走行距離を上げ、奈良クラブの前進の進入を防いでいた。そして、そこから幾つかカウンターを狙う積極的な攻撃も見せてくれた。高知の最終ラインも5バックの特性を選手がよく熟知しているので、CBの10番を中心に前後左右のスライドやカバーも安定してできていたので、奈良クラブから追加点は奪われなかった。前半に対して後半の守備の切り抜きが少ないのは、前半に比べて後半は高知のボールポゼッション率が上がったためと、奈良クラブが最終ラインからロングボールを入れてくるのが増えたためだ。

一方で奈良クラブとしては、31分にCFの浅川選手が本当によくあそこの1本を決めてくれた。先述しているように高知の5-4-1の守備からゴールを奪うのはそう容易ではない。あの好機を外していれば、おそらく高知が後半で勢いを増して前がかりとなり先制されて勝っていたのは間違いない。そのぐらい価値のある貴重なゴールだった。もちろんあのゴールを導いてくれたのは、左CBの寺村選手の判断力と突破力、左WGの森選手のワイド展開で高知の狭い最終ラインにスペースを空けたこと、左SBの加藤選手があのコントロール抜群のアーリーミドルクロスを見事に上げたからこそなのは言うまでもない。

そして、先述した切り抜きでも分かると思うが、この試合では好守に渡って大活躍したのは右SBの平松選手ではないだろうか。この試合では右SBだったがCBもできる彼だからこそ、特に終盤では奈良クラブの2CBの右側に入って高知のチャンスをことごとく潰してくれていた。攻撃でも奈良クラブのビルドアップによく絡んで前進の手助けを担ってくれた。フリアン監督が言うように頼もしい選手がケガから戻ってきてくれて本当にありがたい。他のポジションより薄いと若干の不安材料だったSBのポジションが、これでさらに分厚くなるのはチームにとってはこの上ないプラス材料だ。これからの活躍に期待したい。

最後に、高知のファンサポーターの方はこの試合を見てSNSなどで落胆したり卑下したりするのをぜひとも避けてほしい。この試合でも選手全員がこの厳しい状況のなか誰一人として勝利を諦めていなかっただろうし、勝つために全力で走って熱い気持ちを持ってゴールを奪うために、またゴールを死守するために彼らは戦ってくれていた。こんな彼らを高知のファンサポーター皆さんでこれからも変わることなく支えて頂きたい。そして、7/31㈰のロートフィールド奈良では、お互い万全のコンディションのなか全力で戦えることを切に願いたい。

高知ユナイテッドSCの関係者各位の皆さま、この度は延期などせずに予定通り開催して頂き、本当にありがとうございました。


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