2022年4月3日 ヴェルスパ大分 2-3 奈良クラブ 感想

前節の青森戦とは全く違った印象の試合となった。ゴールが3点も入っているので違って当然ではあるが、それはシュートの数にも明確に現れている。前節の青森戦ではシュート数が2本だったのに対し、この試合では前半6本、後半6本の合計12本とその差は歴然としている。どうしてここまでの差が生まれたのか。それは選手全員のシュートや攻撃に対するモチベーションを上げるための練習が、フリアン監督のもとで熱くひたむきに行われていた結果に他ならない。

この試合で気になった選手の1人が右SBの田中選手。右サイドの攻撃参加をいくつか挙げてみると…


1分、GKから受け相手左WG11番に競り勝ち右サイドへロングパス

4分、右サイド深く侵入しクロス

12分、リスタート後に右CB→右IH→右SBへと繋がり右サイドを攻略。相手にロストされるも右SBネガトラ後即時プレスしボールサイドラインを割る

22分、相手左CBのロングパスを右SBが相手左WG11番に競り勝ち右IHへ繋げる。そこから右WGへリターン後クロスも相手に弾かれる。右IHペナへ入っている

41分、右SBから左IH→クリックでCFから右WGもタッチラインへ

42分、右ポケットへ一直線に進入して右サイドから右WGのクロスに合わすも相手に潰される


この42分の、一直線に右ポケットへ進入していく姿は、前節に引き続き本当に素晴らしいランニングだった、そして、特に田中選手の攻撃参加でよかったのが先制点を上げたシーン。


7分、相手プレスで一旦GKまでボールを下げる。そこから右サイドでCH→右CB→右SB(相手に競り勝ち倒れながらパス)→右IH→右WG→CFへグラウンダークロスも相手DFに当たり合わず。しかし、寄せていた左WGがゴール!


先制点を、GKから右サイドで繋いで相手を崩してからのゴールを奪えたことがとても素晴らしかった。この試合では大分の要注意選手の右SB14番を抑えるタスクが左サイドには課されていたかと思われるので、だからこそ余計に右サイドの攻撃がこの試合で機能してよかった。これで左右どちらでも相手に合わせてサイド攻略が可能となったのはJFLを優勝する上でとても心強い。もちろん攻撃参加だけでなく田中選手は守備面でも…


3分、相手左WG11番とマッチアップで競り勝ちタッチラインへ

19分、相手左CBロングボールに相手左WG11番とマッチアップで競り勝ちタッチラインへ

28分、相手CFのポストのセカンドボールを相手左WG11番とマッチアップで競り勝ちタッチラインへ

55分、左WG11番とマッチアップで競り勝つ


このように、ヴェルスパ大分の要注意選手であった、左WGの11番とのマッチアップで競り勝ち、彼からの進入を防いでいた。

そして、もう1人この試合で気になった選手がCFの浅川選手。スクアドラカップ戦以来の出場に期待をして見ていたが、予想する以上に素晴らしかった。もちろん2点目を奪ったCHの森田選手からのスルーパスを、冷静沈着にゴールを奪ったのは見事であったが、そのゴール以外にも…


6分、左サイドからのクロスを、上手い動き出しでフリーの局面を作り出し、頭に合わせようとするもミートせず

19分、左サイドからロングパスも相手CBに一瞬ラインを上げられオフサイド

34分、GKロングボールに左IHが頭で前へ出し、相手DF2人が中を締められるが、CF右へ周り込み相手GKへ迫るも、先にGKがタッチラインへ

37分、右IHスライディングのこぼれからミドルシュート

40分、GKロングボールに競って左WGへ。1人剥がしクロスもCFに少し高く合わせられず

46分、左ポケットから左SBのクロスに合わせ相手DFの裏入るがボール来ず

60分、左サイドで左IHがインターセプト。DF裏狙うも通らず

61分、左リスタートから流れて右IHが前へ出したスルーパスに、CFが右ポケットからシュートもGKにギリギリ手で弾かれ相手にクリア


このように、浅川選手は相手GKと最終ラインの駆け引きを常に行っており、いつでもその裏のスペースを狙っているのがよく分かる。この動きはかつてのイタリア代表でもあったインザーギを彷彿とさせる。この試合が初出場のため、彼に合わせる連携がまだ取れていないのは致し方ない。それでも、1ゴール結果を残すのはさすがゴールハンターといえる。彼との連携がもっと上手く絡む機会が増えれば増えるほど、今後も彼のゴールラッシュの勢いは止まらないと予想する。そして、夏場を迎える頃には、運動量が落ちる時間帯に彼のゴールで勝点を積み重ねていくことこそが、奈良クラブがJFL優勝する上で最大の鍵となるだろう。

そして、浅川選手はゴールを奪うだけではなく…


49分、味方クリアボールにプレスバックして相手右SB14番に渡さず、大勢崩しながらも前方へパス

52分、左サイド攻略にCF降りてビルドアップを繋げる

71分、右SBのロングボールのセカンドボールに相手GKと競り勝ち右WGへ決定的なスルーパスを出す


裏のスペースを常に狙いながらも、ある時はレイオフをしてビルドアップに参加し、またある時は味方のシュートチャンスにも多数貢献している。この動きに合わせて、その空いたスペースに両WGが入って貪欲にシュートするシーンが増えていくことをこれからもっと期待したい。

浅川選手はプレッシングについても…


4分、相手CHのパスコースを切りながら左CBプレスしそのパスを引っかける

19分、相手右CBに対しプレスをした結果ボールはタッチラインへ

62分、相手CHと左CBにもプレスをし相手のロングボードはタッチラインへ

77分、相手左CBプレス後リターン回収


山本選手と前線で相手CHをカバーしつつ、左CBのパスの出しどころを狙ったり、パスコースにタイミングを合わせて上手く入っていってのパスカットやパスミスを誘発させるなど、初出場とは到底想像つかない見事なプレッシングも見せてくれた。開幕当初から、正直私は奈良クラブのプレッシングに少し物足りなさや迫力の無さを指摘していたのだが、この試合を見て、このプレッシングはおそらくは浅川選手に過度なプレッシングで運動量を落とさず、攻撃に集中できるようにするフリアン監督の当初からの戦略なのかと考えるに至った。

そして、最後に気になった選手が右IHの可児選手。この試合でもロングボールの回収や守備面はもちろん、ビルドアップを繋げるためにポジションを降りて参加したかと思えば…


13分、センターサークル付近でポジトラ後右IHミドルシュート

40分、CF相手GKロングにせって左WGへ。1人剥がしクロスもCFに少し高く合わせられず。その後右IHシュート


と、遠めからでも積極的にシュートを打ったり、ペナの内側までどんどん進入していき、決定機の起点となる動きやスペースを空ける動きを、90分間絶え間なく上下運動を行って奈良クラブを活性化させていた。この試合では、可児選手の活躍なくしてはアウェイでの勝利はなかったのは誰の目にも明らかだろう。

最後に、この試合でも大分のプレッシングに苦しめられ、奈良クラブのビルドアップから相手を押し込むような形を見せる時間は少なかったかと思う。正式なボール保持率は分からないが、おそらくは大分に負けているのではないかと思う。このことは2失点したこと以上に残念な結果と私は考える。奈良クラブが縦に速い攻撃を最優先としているなら、この試合で2得点上げられたのは満足できるのかもしれない。しかし、私がフリアン監督に、奈良クラブに期待したいのは、ボール保持率でも相手を上回って勝つというものだ。この理想を求めてこそ、他のJリーグを目指すクラブとの一番の違いであって、エコノメソッドを用いる奈良クラブ最大の特徴なのだと私は思いたい。


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