見出し画像

城山文庫の書棚から031『中村屋のボース』中島岳志 白水社 2005

およそ100年前、日本に亡命したインド人革命家ボース。彼は大物ナショナリスト頭山満の計らいで新宿中村屋に匿われ、対英独立運動の指揮を執る。そこで中村屋に残したのが今に伝わる「印度カリー」であった。ボースは日本に帰化し、日本語で演説し論文も書くまでになる。

東京でボースは孫文や大川周明、同郷のナイル(彼も日本でインド独立運動を率い、カレーを伝えた)らと交わり、西欧帝国主義からのアジアの解放をめざす。当初彼は日本の中国に対する膨張主義を批判していたが、次第にそれを看過し、同調していく。

中島さんはボースの思想に共鳴しながらも、彼が日本の軍事力を利用してインド独立を成し遂げようとした点に引っかかりをおぼえる。彼にとって帝国主義的傾向を強める日本は、インドを苦しめるイギリスと同じ穴の狢だったはずだ。ボースには目的を達成するために手段を選ばないところがあり、そのアポリア=逆説を主体的に引き受けた。

本書は中島さんが29歳の時に書き上げ、高い評価を受けた作品だ。同じ歳で日本に亡命しインド独立の革命を夢見たボースを常に意識しながら書いたという。ボースが中村屋の娘と結婚したことから、当時売り出された印度カリーは「革命と恋の味」と謳われた。

12/15に開催するオンライン国際シンポジウムに中島岳志さんがパネリストとして登壇します。下記よりお申込み・ご参加ください。

「ムハマド・ユヌス氏と創る3つのゼロの世界」

https://peatix.com/event/3381322