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イラストの原風景

誰しもが持つであろう原風景は、実は、経験したことのない風景、例えばずっと都会で育った人が田園を見て懐かしさを感じるように、人が共通して抱く印象に委ねられることが多い。

小さい頃に私たちが共有したものの一つに、絵本がある。
数多くの絵本が存在する中、絵本と聞いて想像するのはどのような頁だろうか。温かい色彩に花、動物、子ども・・・といったところだろうか。
大人になると思いだすことはないが、絵本もまた原風景のような哲学を持っている。

遠い絵本の記憶を搔き集めたようなイラストを描く人がいる。アニメーション作家・イラストレーターの大桃洋祐さんだ。
私が見たのは、「Good Neighbor」というイラスト集と、「本屋のあるクリスマスの街」というファブリックポスターの二つ。満たされた日々の幸せや心を動かす時間、愛おしさが滲むクリスマスは、一つ一つ眺めると気持ちが弾み、懐かしい気持ちにさせてくれた。
それらは、私にとって原風景だった。

日本人であれば、田舎の風景を原風景と捉えることが多いが、一方でそれとは異なる趣の楽しさや懐かしさをもたらしてくれるもの、これが絵本で見たイラストなのではないかと思う。
すっかり美化された幾多の絵の記憶は、記憶の中で見ようとする方が懐かしさを伴う気がするが、大桃さんのイラストは初めて見るのに誰にとっても懐かしく思えるもので、つまり原風景のようなのだ。

SNSに掲載されている動きだす絵やピープショー(のぞきからくり)もどこか懐かしく、加えてロマンティックな作品で、曇った窓や雨の日が恋しくなる。いや、冬や雨を恋しく思う感覚を思い出させてくれる。

それにしても、暫く扉が開けられた様子のない本棚にはいくつか絵本があるのに、小さい頃に好んでいたはずの絵本は一冊も見当たらない。




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