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母体

水、それは、どんなに頑張ってもつかめない、あったかくも冷たくもなりうる。不思議な存在だ。
背中には浅い水、目前には、暗い星空が見える所にもう随分といる。
夢だろうと思い何度も眠って目を覚ましたが、どうやらこれは現実みたいだ。
何で私はこんな所にいるのだろう。
最近よく寝られてなかったけど、体にボロが出たわけでもない。
そんなことより星が綺麗だ。
まるで子供が真っ黒の板に白い絵の具を筆で飛ばしたみたいな模様だ。
そういえば目を覚ます度に星らしき白い点の位置は変わっている。
偶然できたにしては、綺麗すぎるほどだ。
でも、宇宙から見た地球も綺麗らしいな、ユーリガガーリンが「地球は青かった」って言っていた。
きっとそれにちかい事だろう。
こう言う時間を気にしない所にいると、尽きぬ探究心が湧いてくる。
普段は一瞬も考えないけど、寝られない夜に考える。
さて、この場所に関心はこのくらいにして
いつここからきたのか、ここはどこなのかそして最大の謎である私はなぜここにいるのか?
頑張って思い出そうかな。
あいにくここの水はぬるま湯で浸かっていて心地良い、あんまり他の事考えたくない。
ふと、水面上に波が小さな波が起きた。
私の足の裏に小さな波が押し寄せた。それで目を覚し波の来たほうを見つめる。
羊が数メートル先、私の足の方にいるのがわかる。
物語に出てくるような白い毛が渦を巻いて、肌色と黄色の間の色をしている角を二本携え黒目が人間のとは違う横長い長方形をしている。
羊は鳴きもせずただじっと私を見つめている。
私は少しずつ水面に波紋を出しながら、上半身を起こした。
羊と同じ目線になった。
羊の瞳を凝らして見ると左の瞳には筋肉質で今より背が高い大人っぽい自分が映っている。右の瞳には骨と皮だけ肋が浮き彫りになっている猫背で縮こまっている子供の自分が映っている。
今のこの状況に理解するのは厳しいみたいだ。
一体この羊は私に何を見せている、本当の私はどちらなのだ。
だが、ここで止まっていても何も変わらない
這いつくばって羊の方に向かった。
柔らかい床を細い腕で一歩ずつ着実に進んでいた。
数歩しないうちに羊の目に前についた。
羊が呼吸するたび、私の顔に鼻息がかかる。
羊は目の前に人間が居るのに反応せず、ただ静かに呼吸をしている。
今の私は羊には見えていないのか?
羊の瞳をもう一度見つめた、すると左の私も右の私もどちらも、こちらが見えるかのように
手を差し伸ばしている。
左の私は筋肉質が故かさし伸ばしている腕が微動だせず、心強く見える。
しかし、右の私は骨と皮しかない弱弱しく差し出している腕が少し震えているどうも信用にかける。
私は何度も羊の瞳を行ったり来たりしていた。
すると、段々と真っ黒だった空が日の出みたいに紅葉のような綺麗な色に染まり始めていた。なんだか私は空から威圧感を感じた。早く選ばなきゃ心の中でそう呟いた。
私は、左の瞳に手をかざした。
手が羊に触れると、羊は水になって溶けて行った。
あっけにとられていると、目の前が明るくなり白い光に包まれた。
目を開けると、見たことない天井があった。腕や胸にはコードがいっぱいコードを辿って行くとベッド左には少し大きいモニターに周波数みたいな線が映し出されている。
頭も腕も全てが酷く痛む、腕は包帯が巻き付いている、足は中吊りになっている。
ナースが私の事を見てコメディアンみたいな大袈裟に驚いて走って病室から出ていった。
少しすると何人ものナースと四十代の白衣をきた医者が私を見に来た。
医者は私にそっと声をかけてきた。
「君の未来は明るいよ。こうやって息を吹き返したのだから。」その温かい声は私の身体の奥深くまでにしみ込んだ。
全くそんな気はないのに、目から大粒の涙がぽつりぽつりと水色の患者衣に、水玉模様を着けていく。
目をこすっても涙が止まらない、ダムが決壊したみたいに、今は泣けるだけ泣いておこうと思った。
涙の間から窓の外を見る、外は日が昇り始めたころらしく、空が紅葉ように美しく染められていた。

                               甲骨仁

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