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高嶺の花

そこは暗く湿気ていた。
日の光なんて浴びれない。
まるで太陽が嫌ってそっぽを向いているみたいだ。
湿気も多くかみなら濡れてしまうくらい、しかし珍しく太陽がこちらを向いてくれたとき坂道の上に一際背が高く綺麗な桜色の花が太陽を目指して咲いていた。
いつ思い出しても、あの花は地面しか向かない私に太陽いや、空の素晴らしさを教えてくれた。
もう一度でいいからお目にかかりたい。だが、あの煌びやかな花は空を見ている。
さらに坂の上に咲いている。私が綺麗な紫の花を咲かせても来るのは蜂だけだ。
あの花は私の存在に気づくことなく日の光を浴びている。
せめてどうにかしてあの花と同じ場所で咲日の光を浴びてみたい。
そこから私は葡萄の如く茎を伸ばし他の植物に寄生し繰り返し続けた。
坂の下にある花は全て私の身体であるといっても過言ではない。
ここまで随分と苦労した。
太陽の機嫌がよくこちらに微笑んでいる間でしか行動することができないからだ。
太陽も気難しく毎日機嫌がいいわけではない。最近は特に分厚い雲とのお話が盛り上がりを見せているらしく、こちらには後ろ姿も見せてくれない。
唯一あるとしたら、雲からの憐みの雫だ。
だがここまで来たんだ。後はこの坂を超えるだけだ。そしたらあの桜色の花が待っている。
坂、緩やかな坂、傾斜はさほどきつくはないが気が遠くなる程距離がある。
坂自体が土ではない。
太陽がこちらを向いていると、湯気が見えるくらい熱くなる。
太陽が帰ってしまうと、霜柱より冷たくなる。
これは困ったことだ。
私の活動には太陽が必要なのに太陽があるってなくても坂を進むことはできない。
三日三晩熟議したがこれといった案がなかった。
そんな時に、私の足元を働き蟻が行列を作り行進していた。
彼らは太陽が出ているのに、坂を上っていた。
彼らの小さいながら気力に満ち溢れている姿を刮目して、私の頭に一つだけ案が浮かんだ。
このアリたちの巣はどうやら坂の上にあるようだ。
巣に戻るのを言い方は悪いが利用されてもらおう。
私の黒い種を一枚の花に包んで土に落とす彼らは、何でもいいから運ぶんだ。
拾ったものが、巣に合わないと巣の近くに棄ててしまう、私の種を彼らに運んでもらう。
ただの花の種など彼らには不必要だ、だから巣の近くに捨ててくれる。
そうすれば最近は雲からの憐みのしずくを全身で受け成長し、あの花の隣に咲くことができる。
早速、私は種を花に包み彼らの前に落した。彼らは断るそぶりも見せずに拾ってくれた。
小さな彼らの背中に私の花が運ばれて行った。
彼らの後ろ姿を見送ると私の体は根元から土に倒れ込んだ。
最近は、太陽の機嫌が悪くこちらに振り向いてくれなかった為、私には気力も活力も雀の涙も残っていなかった。
彼らがもし坂を上りことをしなかったら終わりだ。もし、坂を上りきっても巣に必要だと思われてしまったらそこで終わりだ。
完全に賭けだ。土に寝たきりの私には願うことしかできない、周りの花が私を気遣ってくれてもどうにもならないみたいだ。もう一度腰を上げることは難しい。
少し経った太陽がこちらに最高の微笑みを見せてくれる時だ。
坂の上に綺麗な桜色の花とシネラリアみたいな鮮やかで透明感のある紫色の花が肩を並べて天に向かって咲いていた。
私は、坂の下の暗くてジメジメした場所から見上げて誇らしい気分になった。
安堵した、それと同時に土からそろそろ寝る時間だと話された。
少し前の私だったら寝るのが怖くなりどうにか逃げおおせる方法を考えるかもしれないが今の私には何も思い残すことがなかった。
ただ坂の上に綺麗な二輪の花が夫婦のように風になびかれ揺れているのを見るだけで十分だった。
もう何も思い起こすことなんかない。

                               甲骨仁


いかかがでしたか?今回は私なりに高嶺の花を想像して綴ってみました。         かなり短いですが、少しは暇つぶしになったかと思います。       よろしければご感想お聞かせください。

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