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村上、17歳

村上の高校生活の半分は『生徒A』であった。でもそれは今思えば宝物のような地獄であった。

17歳は自分の中にある、『あきらめ感』みたいなものを感じ始めた時期で、昼休みには教室の隅で僕を含めたメガネ3人で身を寄せ合って弁当を食っていた。はたから見たらメガネA,B,Cで、3人の区別なんてつかない。どれが村上でどれがA君でどれがH君なのか。

そして家に帰ればインターネットもしくはBOOKOFFの立ち読みに潜る。
インターネットは私にとって救いであり、あのアホ達がいない、素晴らしい世界への扉であった。インターネットには誰も知らない好奇心があり、インターネットには俺たちの集合場所があった。

「純情可憐な君と杏仁豆腐食べた〜い」

そこで出会ったのが『銀杏BOYZ』であり『くるり』であり『NUMBER GIRL』『毛皮のマリーズ』『ASIAN KUNG-FU GENERATION』、その他素晴らしい音楽達…!

村上は中学時代、弱小サッカー部のキャプテンで、なんとなくサッカー部に入る予定だった。しかし、高校に上がりライバル校が集い、「あのザコの中学校のキャプテン村上や」と嘲笑され、いわゆる『標的』にされてしまったのだ。

そして、サッカー部のクラブ説明会の終わり、別れ際に「一生バイバイ」と言われたその一言で人生が変わった。変わった音が聞こえた。『ポキン』という音だった。

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「いつかは想像を超える日が待っているのだろう」

その後『フォークソング部』という入れ物に入り、同じような人間と出会ってバンドを組むことになる。17歳の村上の目標は『売れて、ラジオやテレビでサッカー部のアイツに悪口を言う』であった。今でもそうだ。

本当に暗く、地味な青春で、特にみじめだったのが、トイレに行っている間に遠足の集合写真の撮影があり、村上だけ忘れられ、映れなかったことだ。後日、村上と別のクラスの二人と撮った写真が集合写真の横に張り出された時は、おかしな汗が出た。

しかし音楽は素晴らしく、みるみる内に人間を変えてくれた。
たくさんの素晴らしい人と出会い、どんどん明るくなっていき、ヘンになっていき、ロックバンドに憧れ、髪の毛を伸ばし、曲を作り、発表し、いつかこう思うようになった。

「誰かに褒められたい」

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劣等感に浸るのはとてつもなく気持ちが良い。
マイナスにマイナスをかけ、人と比べ、悲しみ、悦に浸る。
しかしそれじゃ空気で腹を満たしているようなもので、何も変わらないのだ。
(でも今だにしてしまうときがある。)

「僕は磯に住むタコだよ」

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サッカー部の説明会で言われた「一生バイバイ」は誰に、どこで、いつ、言われたか全て完璧に覚えている。忘れないように繰り返し思い出しているからだ。

しかしそれは憎悪の炎に薪をくべるためではなく、自分のあの頃の信念みたいなものを思い出すためだ。で、それからどうする。村上は幸せだ、歌にすることができる。

(全校集会で桂小枝のモノマネをし、みんなに好かれはじめるのはこの一年後くらいの話である。)


オマケ 17歳の歌たち

BiSH『本当本気』
これを書こうと思ったきっかけ。17歳の痛さから強さ弱さ、全部ここにある。
忘れたくない気持ちを思い出す曲と詞。

銀杏BOYZ『17歳』(1曲目、17才とは別曲)
破壊衝動、パンク、何にもできないくせに、なんでもできる気がした曲。

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