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外港と回廊は高いのか


ロシアによるウクライナ進攻からおよそ4ヶ月が経つ。
その中で行われてきた様々な各国の軍事行動や経済行動に伴う結果が、ロシアが経済制裁を掻い潜って軍による完全掌握に至らず戦闘が長引いている現状である。時として愚かしくも震え上がるような恐怖政治により成り立つロシア内政を敷きながら尚も撤退もせず戦闘を続けるのは何故か。
それを外港と回廊というキーワードから読み解いてみたいと思う。

1.外港と回廊の価値
2.ウクライナ侵攻の着地点


1.外港と回廊の価値

「外港」 聞きなれない言葉ではないだろうか。
輸送に使う港は諸外国との交易に際し最も流通の経路として重要視されており、海洋に面していることが望ましい。内陸国の場合はライン川のような国際河川を用いて港を設けたりトラック輸送によって河口の国際的な港湾にて貨物を運び込む。それが外港である。国土が広大で陸上交通に輸送を頼る場合も、国土内にある港もしくは国際港湾を利用する。この場合における国土内の港湾も内陸地方から見ると外港と言える。具体的に言うと、原油・石炭などのエネルギー資源や小麦・大豆などの穀物 他によく用いられる貿易港である。
本日(2022.6.21)付の産経新聞に掲載されていた、ウクライナがマリウポリやミコライウなどの外港を使えずに起こった穀倉地帯からアフリカへの小麦の輸送が不十分になっている現状について、この外港というものがいかに重要であるかを示している。

この外港を使う以上は道路・鉄道網などのインフラ整備が欠かせない。
その整備されたインフラとその一帯を含めた地域がいわゆる「回廊」である。
回廊はインフラを施政下に置く土地が必要であるからだ。

さてこのウクライナ侵攻に当たってロシア国家の意図は見えてくる。
国家そのものを統治下に置くということが根幹ではないように思われる。確かに国土を完全掌握してしまえば手っ取り早くはあったであろう。だから進攻当初は首都や各拠点都市へ激しい攻撃を仕掛けていたのではないだろうか。
しかしながら、それでは戦力が分散して重要目標である外港と回廊の確保が出来ない。そこで西部は住民避難のためのルート確保として戦力及び戦闘を縮小、そして中央穀倉地帯を残して残る住民をある程度生かすべく動いたのではと推測される。その一方で外港及びクリミア半島と回廊となる東部に戦力を集中させ、掌握に努めたのであろう。その事実が下記参照記事として取り上げさせていただいた日経新聞の記事に掲載されている地図の通りである。

外港と回廊については上記にて書いたが、一方でクリミア半島は何故必要であったのであろうか。
それは、外港の船舶の航行の安全を図る灯台の役目も大いにあろうが、何といっても黒海を挟んで向かいや東隣はイスラム圏の国家であり、西隣は東ヨーロッパ諸国であるため見張りが欠かせず、そして大事な黒海の出口イスタンブールから地中海へ抜けるルートの確保のためにもイスタンブールへ目が届く位置付けのこの半島の重要性は非常に高い。それは軍事としての意味合いも多分に込められる。

ということで、プーチン政権が指揮するところのロシア軍は、戦勝宣言後も単なる勝利では肝心な目的も果たせずして多くの犠牲の元に戦争終結してしまうために先のG7の制裁にも関わらず攻撃の手を休めることがない訳である。

ここで一つ疑問符が湧き起こる。
この外港及びクリミア半島と回廊は高いと言えるのか?

短期的な経済的効果や軍事的効果面ではNOと言える。
この4ヶ月間にわたる消耗戦によりインフラは壊滅的に破壊されており、新造はおろか復旧もままならぬ状態であるからだ。そして、インフラほどではないが、兵士や兵器の補充もつぎ込む資金と軍費の捻出に苦慮するであろう。

しかし、それだけのものを犠牲にしてロシアの完全制圧が成り立ったあかつきには長期的に見て外港及びクリミア半島と回廊のもたらす恩恵は大きいと意味ではこれら地域の価値は高いと言える。
まさにハイリスク・ハイリターンであり、それがプーチン政権の士気を支えているところであろう。


2.ウクライナ侵攻の着地点

さて、他方、ウクライナと西側諸国についてはどうであろうか。

侵攻直後から今日に至るまで様々な和平協定や軍事的・人道的支援がなされてきた訳であるが、一進一退の歩みを遂げており未だ難民受け入れといった面でしか効果を上げずにいる。

当事者であるウクライナもそうであろうが、支援する側も疲弊感が拭えずにいるのは侵攻に伴う制裁などにより新たな枠組みが必要に迫られ各国軍事や世界的な経済へのダメージが大きいからであろう。

そういった中で和平交渉の切り札と言って差し支えないのがこの外港と回廊だ。
国際法的な違反行為に対する要求としては領土全土の返還及び補償金に値するものであろうが、それを丸ごとぶつけてしまっては和平交渉そのものが頓挫する可能性が大である。そこで妥協案としてこの切り札を用いて両国をソフトランディングへと導くのがいいのではなかろうか。

確かに下記の日経新聞の記事の中で論説いただいているリケッツ氏もおっしゃる通り、和平交渉を試みながらの戦闘は数ヶ月はかかるであろうから、その中で互いの国家が外港と回廊というキーワードを元に不時着でもいいから着地点としてほしいものである。
無事着地が出来たその先にはこの外港と回廊がウクライナと西側諸国にとっても高い価値を持つまさにハイリスク・ハイリターンの象徴といえよう。

リケッツ氏の高説についても是非一読されることをお薦めしたい。

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