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向田邦子さんに恋している。

今、秘かに向田邦子さんに恋している。
正しくは、向田邦子さんの文章に。

去年10月に、初めて向田邦子さんの本を買った。
『新装版 父の詫び状』。

脚本家としての向田邦子さんの名前だけは知っている程度。
向田邦子さんが脚本されたドラマを観た記憶はない。
なので、去年10月までは興味も関心も全くなかった。

なのに、なぜ恋をしたのか。
いや、恋する前に、なぜ本を読もうと思ったかが先だ。

好きな文章を綴る酒井若菜さんが、『うたかたのエッセイ集』で向田邦子さんのことをふれていて、気になって読んでみた。

そういえば、彼女の『心がおぼつかない夜に』を読むまでは、俳優として名前を知っていた程度。
俳優さんなのに、出演作品を観た記憶がない。
ただ、本を読んで好きになると、彼女の出演作品を観るように。

10月以降、『無名仮名人名簿』と『霊長類ヒト科動物図鑑』を読んだ。

言葉の選び方や律動などが、すごく心地いい。
青い海ではなく、新緑の森の中で本を読んでいるような感じがする。

本を読んでいるようで音楽を聴いている、そんな不思議な感覚。
そう、言葉を読んでいるようで、音符を辿っているような。

と書きながら、何か楽器をしていたことはない。
幼稚園の時に、ピアニカをしていた程度。
音楽の成績は、忘れたいぐらい。

普段音楽聞かないのに、音の調べを感じたことに驚いた。
小気味いいといえばいいのだろうか。
本を読みながらリズムを刻んでいく、不思議な感じ。

波長が合う、といえばいいのかもしれない。
今まで900冊近く本を読んだけれど、ここまで波長が合う本はない。
だから、恋しているのかもしれない。

あと、文章の構成がいい。
脈絡のないようにみえて、そこにはやさしい世界観がある。
最後まで読んで、はじめて物語が浮かんでくる。
向田邦子さんの綴る世界観にさわりたくて、一気に読んでしまう。

始めにも書いたけれど、向田邦子さんが脚本したドラマは観たことはない。
しかし恋してから、ドラマを観る機会が連続してあった。

BS12でほぼ毎週火曜日「向田邦子 ドラマ傑作選」が始まった。
これまた大好きな俳優の田中裕子さんが主演の作品が、2週続けてあった。大好きな作家の言葉を、大好きな俳優さんが語る。
何とも贅沢な時間だ。

本を読んでいるリズムと、田中裕子さんが声に発するリズムが同じ。
ますます好きになった、二人とも。

好きかも?と思い始め、ドラマが観たいと思ったらドラマが始まる。
これを、偶然と呼べるだろうか。

実際は偶然、恋すると盲目になる、いくつになっても。
そういえば、もう一人恋している作家さんがいた。

先週末NHKで、作家というより染織家の志村ふくみさんと石牟礼道子さんのドキュメント番組があった。
ちょうど、持っている本『遺言』とも深く関係する番組。
実は、今日23日にNHK Eテレで再放送があるみたい。
これも偶然と呼んでいいのだろうか。

志村ふくみさんと向田邦子さんの文章は、心地いい。
開けた窓から和かい風が耳の横を吹き抜けていく、そんな感じがする。

ただ、向田邦子さんの方が、優しいかもしれない。

ふくみさんの文章からは、強さを感じる。
向田邦子さんの文章からは、強さをあまり感じない。

ふくみさんの文章に感じる強さは、人としての強さ。
向田邦子さんの文章から感じる強さは、女性としての強さ。

ドラマでも田中裕子さんが時にみせる強さには、ドキッとする。

何よりも、向田邦子さんの文章にはユーモラスがある。
それも日常の暮らしの中にあるユーモラスが言葉に込められている。
時々、微笑ましくなる。

以前、向田邦子さんの本の感想で次のように書いた。
「美しい日本語にふれると、幸せになれる」

今は少しだけ変わった。
「好きな作家の美しい日本語にふれると、幸せになれる」

容姿、性格から、人に恋することはある。
言葉遣いから恋することもあるんだと、最近感じている。
この年齢(40代後半)になったからの、恋かもしれない。

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