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ミャンマーからみる民主化の難しさ

軍によるクーデターが起きたミャンマーでは、市民による抗議デモが全国的に展開されています。事態収束の見通しはまだ見えていません。

2月10日現在の状況をまとめたNHKの記事がありました。NHKはこういう記事を出してくれるのでありがたいです。

今回のミャンマーの状況をみて、国が民主化するということの難しさを改めて感じています。

民主化は、うまくいくことの方が珍しいです。民主化しようと思ってもなかなかうまくいかず、独裁への揺り戻しがあったり、民主化と独裁が幾度となく繰り返されたりすることが多いです。

ミャンマーのお隣のタイはまさにそうです。民政移管したかと思えば、与野党対立で混乱が生じて軍政に戻る、これを何度も繰り返しています。

2010年から2012年にかけて起きた「アラブの春」では、複数の国で独裁政権が崩壊しましたが、多くの国が独裁に戻ったり、内戦状態に陥ったりしており、民主化がうまくいっている国は少ないです。

民主主義が定着したかのように思われていたトルコでも、独裁とは言わないまでも、強権政治への揺り戻しが起きていると言われています。

歴史を振り返れば、民主革命の代名詞であるフランス革命も、ロベスピエールの恐怖政治が起きたり、ナポレオンによる帝政になったりと、複雑なプロセスを経ています。

少し話が脱線しますが、独裁への揺り戻しを経ずに民主主義が定着した国(地域)としてパッと思いつくのは、日本・韓国・台湾ぐらいでしょうか。もちろん単純な話ではないですし、これらの国(地域)でも民主化の過程では様々なせめぎ合いがありました。ただ、比較的民主化に成功した国(地域)が東アジアに集中しているのは注目に値すると思いますし、東アジアの日本に住む私としては、大きな可能性を感じるところでもあります。

話を戻します。なぜ民主化はこうもうまくいかないのでしょうか。このテーマについては、政治学や国際政治学の世界で山ほど研究がなされていることでしょう。

私が耳にしたことがあるのは、まず民主化のプロセスが急進的すぎるとうまくいかないという考え方です。極端にいえば、昨日まである人が独裁政治をしていたのに、今日から欧米のような民主的な憲法で国を統治するというのは急進的な民主化です。この場合、昨日までとルールがあまりにも違いすぎて、国民は何がOKで何がダメなのか、にっちもさっちもいかなくなります。結果、社会の混乱や治安の悪化を招き、再び強いリーダーが求められることになります。そして、昨日まで独裁政治の下で既得権益を持っていた人たちは、今度は自分たちが迫害されるのではないか、利益を脅かされるのではないかという不安から、民主化に反発する行動を起こすこともあります。

この考え方に立つと、民主化は漸進的に進めた方がうまくいくということになりそうです。例えばイギリスでは、数十年という時間をかけて選挙法を改正し、選挙権を持つ国民の範囲を徐々に拡大していきました。

また、民主主義が定着するためには、一定の経済的な豊かさや教育水準が必要という考え方もあります。民主主義は、個人が好き勝手に振る舞っていいというわけではありません。個人の権利は重要ですが、同時に他者の権利や社会全体の利益についても考えることが求められます。その土壌として、自分の生活に困らない程度の経済的な豊かさや民主主義についての教育が必要だというのは一理あると思います。

話をミャンマーに戻したいと思います。近年のミャンマーは、漸進的な民主化の過程にあったと私は考えています。アウン・サン・スー・チー氏の自宅軟禁解除に始まり、NLD(国民民主連盟)の政党登録、総選挙でのNLD勝利による政権交代と、少しずつ民主化プロセスを進めてきました。

一方で、議会における議席の4分の1は軍人に割り当てると規定する憲法は維持し、アウン・サン・スー・チー氏自身も憲法上の制約から、大統領ではなく、国家顧問という立場で政治を行うなど、国軍との折り合いをつけつつ政治運営を行ってきました。

そんな中で、さらに民主化を進めたいスー・チー氏率いるNLDは、憲法の改正に向けて動いていたわけですが、それに対する国軍の反発から、クーデターという形で独裁への揺り戻しが起きているという状況です。

民主化プロセスの途上とはいえ、軍事独裁政権が崩壊し、ミャンマー国民の政治的自由が拡大したことは間違いありません。一度経験した政治的自由を失うことは恐怖ですし、多くのミャンマー国民にとって受け入れがたいことでしょう。

日本にいると民主主義がスタンダードであり、無条件にあるべき政治体制と考えてしまいがちです。しかし、世界中を見渡せば、むしろ民主主義でない国の方が多いですし、民主主義も数ある政治体制のひとつにすぎません。どんな政治体制にも、良い側面と悪い側面があり、民主主義がベストなどということはないと思います。

最近は、ポピュリズムの台頭などで欧米型民主主義が後退しているともいわれています。一方、主に中国の台頭に伴い、経済成長や国内の安定という観点からは、強権政治の方が効率的なのではないかという考えも拡大しつつあります。東南アジアの開発途上国が独裁の下で経済成長を成し遂げた歴史からみても、この主張に真っ向から反論するのは難しいのではないでしょうか。

ここまで、私が思う民主化の難しさを綴ってきました。
それでも、今この瞬間も民主化を求めて闘っているミャンマーの方々の気持ちに思いをはせれば、なおも民主主義の可能性を追求したいという思いがこみ上げてきます。

そして、アジアで最も早く民主化を果たし、東アジアの民主主義大国である日本がミャンマーに対して今できることは何なのでしょうか。
厳しい情勢が続いていますが、ミャンマーの方々にとって良い方向に進むことを願ってやみません。

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