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灰色

くもり空の下
散歩をしていたら
灰色の猫とすれ違ったので
やあ、きみすてきな毛の色だね
と声をかけた
灰色の猫は
こちらを見もせずに
さもあたりまえという顔で
さっさとゆき過ぎた

風が少し冷たくていいにおい
焦げたような甘いような
好きなにおいだ
足がもつれて転びそうになった
ははっ
ひとり声に出して照れてみる
イヤホンから弾かれるリズムに
ステップ踏み気味に歩く

枯葉を踏んだ感触がして
足元を見たら
朽ちた虫だった
元のかたちはどんなだったんだろう
こうなってはもうわからない

アスファルトの渇いた冷たい上を
やわらかいスニーカーで踏みしめる
歩いて歩いた
曇っていて今が何時かわからない
どれくらい歩いたのかも
すれ違うひともいない
後ろにも前にも

イヤホンから楽しげなリズム
曇り空
冷えた空気
渇いたアスファルト
少しだけ上がった体温
晴れかけた頭で歩きながら

灰色の猫とすれ違ったので
やあ、きみすてきな毛の色だね
と声をかけたが
あたりまえにゆき過ぎた

god bless u