汚れた壁

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キッチンのリフォーム。剥き出しになった壁は汚れに汚れて汚れきっていた。
彼女は汚れを隠すため、空色のペンキで塗りこめた。空色が淀んできたら、クリーム色で上塗りした。それも汚染されて、彼女はもうあきらめたようだった。
覆い隠して、また覆い隠す。手に負えなければあきらめる。まるで彼女そのもののようだった。私はその汚れがとても嫌だったけれども、無いものとして目を覆っていた。それは彼女の問題で、私とは関係ないと思いたかった。
キッチンが、彼女の手を離れることになった。私は、嫌でたまらなかった汚れをペンキごと削り落とすことに躍起になった。塗り重なった汚れが、彼女そのものの様でうんざりした。長い年月を経て凝り固まった汚れは、簡単には剥がれていかない。黙々と削り続けた。私は彼女とは違う、少しも似ていたくない。彼女を自分の中から追い出すように汚れを削った。
腕が痛んでも落ちていかない汚れ。それでも削ることをやめられない。意地なのか、執着なのか。そのうち自分が何をしているのかわからなくなった。ふと、削りかけの汚れた壁を引き目で見ると、そこには絵が浮かび上がっていた。なんだかカッコ良いじゃないか。アートやん。などと思ったところでピンときた。ああそうか、そっちねー。そういうことか、と。汚れを削り落とすのをやめた。なんか、カッコ良いからこのままでいいか。と。
そうして彼女のことなど、どうでもよくなっていた。

god bless u