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アブナイパフェ

お腹を空かしすぎたかもしれないと一抹の不安を抱えながら、緩く勾配のついた坂を登っていった。
鼻先のひりつく感覚が風の温度を教えてくれる。

ソレが視界に入った瞬間、目が離せなくなった。
抗えない呪文のようなもので、目線が波打ちながらぐるぐると回り、気がつけば魔力を放つ“山菜”が手の中にあった。異常なほどに空腹が刺激される。初めて見たのになぜか食べられると確信が持てた。

バナナリキュールの効いたパルフェをひとすくい。甘み、深み、渋み、そしてまた甘み。この世にあるすべての味が含まれているんじゃないかというくらい、厚みのある味の和音が脳に響いてクラクラする。

チョコのアイスは軽やかな食感だった。オーバーランが高めなのか、それとも香りが鋭く鼻を抜けていく感覚がそう感じさせるのか。涙袋がキュッと動いたことは自覚していたが、そのくらいの違和感では手は止まらない。

ここも食べられるに違いない。自分に言い訳をしながら、少し毒々しい見た目の部位も口に運んでいった。
琥珀色に輝く輪切りのバナナを一口で。ねっとりとした食感と共鳴するように視界がグニャンとうねった。
バナナがいけなかったのか、それとも遅効性の麻痺毒が今やっと効き始めたなのか、それは判断できなかった。

ゴリゴリとした粗さの目立つカカオニブメレンゲは、地面のメタファーに思えた。自分の身体が地面に横たわったことをうっすらと感じ、意識だけがその地面の下へと抜けていった。

真っ白で明るい空間の中に、鮮やかな色をした球体が2つ、ふわふわと浮かんでいる。間を縫うように飛び回りながら、その空間を堪能した。
ざらざらとしたせとかソルベとほくほくの山椒ミルクアイス。今回のアイスは質感が三者三様に際立っているなどと考えていたら、痺れの大波が襲ってきた。さっきと同系統の痺れだ。やはり柑橘の麻痺はあのときから始まっていたらしい。
お迎えのシャンティに包まれてフィナーレかと思いきや、まだ下に何かある。

何だ、これは。舌が表面に触れただけでビリビリと痙攣する。しかし、このねっとり感は知っている。その食感が序盤のキャラメリゼバナナを思い出させてくれた。はるか昔のことのように感じるが、そうだ、僕はチョコバナナパフェを食べていたんだ。
粘り気の強いショコラクリームをすくうと、WASARAまでひっついて台座から浮き上がりグランと揺れた。
揺すられる身体。Gを感じるほどのスピードで意識が引っ張られた。白衣を着た人が覗き込んでいる。どうやら戻ってこられたらしい。
いや、正確には前と同じには戻れない。僕はこのパフェを知ってしまったから。一度麻痺したら完全には戻らない。

いつから麻痺していたのか。いつ麻痺を自覚したのか。そもそも麻痺した感覚が普通になってはいないか。
決してそれが悪いわけではないが、
「起きてしまったあとに、次は何をベーシックにしていくか」という問いを自覚的に持ち続けたいと思った。

強制的なトリップを引き起こす一本だった。
パフェが違法になる日も近い。


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