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【ブックレット】米国の対中国戦略と辺野古・自衛隊配備の役割

【ブックレット】米国の対中国戦略と辺野古・自衛隊配備の役割

 このほど、ジグザグ会でブックレッ卜を発刊しました。これは米軍が構想する世界戦略(極東安保)についての客観的な解説です。なので「沖縄に対して没主体的」というご意見もいただきました。

 ですが、沖縄の米軍・辺野古新基地建設や、自衛隊・南西諸島配備を、なんとなく「日本を守るものなんでしょ?」程度に思っている一般の人々にとって、これが軍事戦略的にどういうことなのか正確に知ることは、いずれにせよ自分の態度を決定する上でぜひ必要なことです。本ブックレットはその点を解説することを目的にしたものです。

 世界最大の覇権国家アメリカはなにを考えているのか、日本はそれにどうかかわろうとしているのかを知り、日本の私たちはそれに対してどう対処してゆくべきなのかをお考えいただくための資料として本ブックレットを制作しました。どうぞご活用ください。

※ブックレット(パイロット版)のダウンロードはこちら
※ここにあるのはパイロット版を文字起こししたものです

目次
1.新しい時代が始まろうとしている
2.米軍には「対中国戦争横想』がある
3.アメリカと中国の戦争は起きるの?
4.それなら戦争は絶対に起きないの?
5.戦争が起きるとすればどんな理由で?
6.アメリカは日本を守ってくれるの?
7.先島諸島自衛隊配備の本当の目的
8.なぜ政府は辺野古にこだわるの?
9.「アジアの風」が沖縄に吹いている
10.未来へ開かれた沖縄と日本の可能性

1.新しい時代が始まろうとしている


 内闍府が2010年に「世界経済の潮流」と題する報告書を発表しました。 そこでは、中国経済が大きく発展し、まもなくアメリカを追い越して世界 一の経済大国になると予測されています。(下図参照)

内閣府が2010年に発表した「世界経済の潮流」の予測 ↑
2030年には中国が世界一の経済大国となりその経済力はアメリカの約2.6倍、
日本の約9倍になるとした

 各国GDP(国内総生産)の世界経済に占める割合を比較すると2009年には20.5%を占めていたアメリカは2030年には11.7%に後退しているだろう。日本も同じく 6.0%か ら3.3 %へと後退。それに対して中国は12.5%から30.2 %へ急成長です。つまりあと10数年経つと、日本とアメリカのGDPを合計しても中国はその2倍になると内閣府は予測しているわけです。また2030年にはインドや東南アジアもふくめたアジア経済全体は世界のほぼ半分を占めることになります。

 中国はバブル崩壊による経済恐慌の危険も見えてきていますから、この予測が必ずしも当たるとは思えませんが、アメリカ経済の減速は今も続いています。また人口の上でもアジア人はすでに地球人口の6割近くを占めています。軍事の面でも、世界の軍事力の半分を独占してきたアメリカは現在では 世界の3分の1になり、今も削減し続けています。

2015年にはオバマ大統領が「アメリカは世界の警察官ではない」と宣言しました。私たちもアメリカの一方的な軍事覇権による支配を前提とした発想から抜け出し、もはや世界の国々が対等平等に平和を求めて努力しあわなくてはならない時代になっていることを知らなくてはなりません。

2.米軍には「対中国戦争構想」がある


しかし米国は「アメリカ一強体制」を維持すべく、今も中国を敵視し、「対中国戦争」のシナリオを持っています。 これは海上自衛隊幹部学校が発行する『海幹校戦略研究』に随時、翻訳掲載されています。

 かつて「エアシーバ卜ル」と呼ばれた米軍の対中国戦争構想は、中国に対する空と海からの攻撃の構想として組み立てられてきましたが、中国は近年、目覚しい経済発展によって軍事力も飛躍的に高めてきたため、米軍は米連邦議会国防委員会からの要請で戦略の練り直しを迫られました。それが「アメリカ流非対象戦争」戦略および「オフショアコン卜ロール」と呼ばれる構想です。

 米軍は「アメリカ流非対象戦争」戦略によって、今まで世界中に 散在してきた各部隊を特定の地域に集中して効率を高めようとしています。 沖縄海兵隊のグアムへの移転はその一環です。
 また米軍はアメリカ議会の決定により軍事予算を削減し、世界中に展開する50万の兵力のうち8万人以上も縮小することになったため、いままで米軍が全て担ってきた軍事的任務を、米軍の指揮のもとで同盟各国の軍隊にも分担させることになりました。 これが「オフショアコン卜ロール」の内容です。

 このアメリカの方針にしたがって、日本は今、沖縄とその周へんの島々に自衛隊基地建設を進めています。今自衛隊が進めている南西諸島各地の ミサイル基地やレーダー基地は、日本独自の方針ではなくアメリカの方針に従って行われています。ゆえに私たちはこのアメリカの方針の内容をよく知っておく必要があります。以下、アメリカの戦略と自衛隊の役割をさらに詳しく見ていきましょう。

海上自衛隊幹部学校ホームページ

3.アメリカと中国の戦争は起きるの?


 今でもその関係は続いています。中国には、世界シェア1位の米国デル• コンピューターなど外国企業の工場群がたくさん立ち並んでいます。また先進国の投資家への利益の供給は続いています。だからもしもアメリカが 中国と戦争をすれば、アメリ力の投資家や企業が莫大な損害をこうむることになるでしよう。もちろんヨーロッパや日本の企業も。

 また中国の軍事力は軍事費ではロシアの2倍を超え、アメリカの約3分の 1で世界第二位になっています。大型大陸間弾道ミサイルち核弾頭も多数保有し、アメリカと戦争になれば、それがワシントンやニューヨークに飛んでゆくでしよう。当然アメリカも北京や上海を攻撃するでしよう。そうなれば米中両国ともあまりにち被害甚大です。だから、アメリカも中国も互いに本格的な戦争を起こすことはできなくなっているのです。

4.それなら戦争は絶対に起きないの?


 米中の直接の全面戦争は、双方ともあまりにち被害が大きくなるのでできません。そこで「アメリカ流非対象戦争」戦略では、アメリカ本土が攻撃されない ようにアメリカ側も中国本土を攻撃せず、「特定の場所」で核兵器を使わない 「限定戦争」を行なうという戦略構想になっています。

 なんと!その「特定の場所」として米軍が想定しているのは日本です。米軍が作成した地図には沖縄は「壊滅地帯(Disruption Zone)」、日本本土は「戦場(Battle Zone)」と書かれています。つまり米中戦争の時には、アメリカと中国はお互いに安全なままで、日本を戦場にして「勝ち負け」を決めようというのです。

日本を主戦場に米本土を守る米軍の対中戦略。
戦争になればその帰趨にかかわらず沖縄は真っ先に草一本残らず壊滅する。
この沖縄の危機感が本土に伝わらない。

米中戦争が始まれば、中国は日本の米軍基地にミサイルを何百発も撃ち込んでくるでしよう。敵の軍事拠点をたたくのは戦争の常識です。たたかないはずがない。また敵の弱点を狙うのも戦争の常識です。ダムや発電所などは破壊目標となります。全国に50力所もある原子力発電所がミサイルで破壊されれば、もはや日本は、人が住める国ではなくなるでしょう。

 なぜそうなるのでしょうか。それは日本と沖縄に米軍基地が集中している からです。なぜ日本に米軍基地集中しているかといえば、日本はアメリカと日米安保条約(安保)を結んでいるからです。つまり「日本には安保があるから米軍基地があり、米軍基地があるから攻撃される」わけです。

↑仮想敵国が山陰地方に上陸し近畿,中部や東京へ進撃してくる事を想定した日米合同の図上軍事演習。作戦名は「ヤマサクラ」(CS幹校戦略研究より)。しかしこの作戦には重大な欠陥がある。 敵が原子力発電所を占拠や攻撃することをまったく想定していない。

5.戦争が起きるとすればどんな理由で?


 これについてアメリカが想定しているのは「中国が台湾に進撃してくる場合」です。 中国は「台湾は中国の領土」と言い続けています。台湾が中国の領有となるのか独立するのかは、台湾の人々が決めるべき問題です。その場合も戦争による決着ではなく外交手段によって解決するべきですが、アメリカは対中戦による武力解決を想定しています。

 その場合、台湾の中国側に向いた西海岸は非常に強固な防衛対策がほどこされていますから、中国は黄海から出て南西諸島を越え、台湾の東へ回り込んで東海岸側から攻撃しなければなりません。その中国軍の進路の途中に宮古島 や石垣島などの先島諸島があります。

 いま宮古島、石垣島、与那国島に自衛隊がミサイル基地を建設しているのは、もしも米中戦争になったら中国軍を迎撃するのが目的です。つまりこれらのミサイル基地は「日本防衛」 ではなく、米軍支援の「台湾防衛」のために建設されているのです。

 もしも自衛隊が米軍を支援して中国軍をミサイル攻撃すれば、当然に中国側だってだまっていません。ミサイルを撃ち返してくるでしよう。その時、はたしてわずか1500人の自衛隊は、宮古・石垣合計10万人以上の住民を、そして146万人の沖縄県民を、本当に米中軍への対応よりも最優先で「守る」のでしょうか?

防衛省が開発中の超高速滑空弾による攻撃の模式図↑このような高速のミサイルが開発されれば迎撃はもはや不可能となる。中国も同種の高速滑空弾を開発すれば撃ち合いとなり、互いに甚大な被害が想定される。その被害は南西諸島住民が受けることになる。

6.アメリカは日本を守ってくれるの?


 日本に米軍基地があるのは日米安全保障条約(安保条約)が結ばれているからです。でも安保条約のどこにも「米軍は日本を守る」などとは書いてありません。しかし「極東の安全を守る」とは書いてあり、極東にいくつもの米軍基地があるので、結果としてそれが日本を守ることにつながるかもしれません。

 しかし米軍は、日本をはじめ世界中の米軍基地、洋上の空母や潜水艦、宇宙衛星を組み合わせたネッ卜ワークなどで、地球全体を包括する世界戦略のもとで軍事行動を行なっています。たとえば湾岸戦争の時には、米兵が沖縄で軍事訓練を受けて中東へと出撃していきました。つまり安保条約はこの米軍の世界戦略の一部として日本を利用するのが目的なのです。

 もしも米中戦争になった場合、米軍基地がある日本や沖縄に何百発ものミサイルが一斉に飛んできます。いったん戦争がはじまってしまったら、もうこれらのミサイルを防ぎきることは絶対にできません

 そこで米中戦争構想では、戦争が始まったら米軍はいったん基地を捨てて (つまり日本を見捨てて)テニアンやサイパンなどに退避することになっています。そして次の第二段階で制空権を奪い返し、中国の艦船や飛行機を攻撃する。そして第三段階が日本本土での戦争です。日米合同の「ヤマサクラ」作戦は、日本だけを戦場として行われる戦争を想定しています。

 つまり現在の日米安保体制は「米軍による日本の安全保障」ではなく、逆に「日本を犠牲にしてアメリカの安全を保障」することが主目的となっています。

7.先島諸島自衛隊配備の目的


 日本政府は宮古島、石垣島、与那国島など(先島諸島)に自衛隊を配備しよ うとしています。配備されるのは、警備部隊のほか、地対空ミサイル部隊、地対艦ミサイル部隊、そしてレーダー部隊です。

 政府は配備の理由を「中国の脅威から日本の国土を守るため」といっています。しかし現地の人は「そんな脅威は全然感じない」と言っています。 実際は政府も「中国が尖闇諸島や宮古島に攻めてくる」とは思っていません。5.でもお話ししたように、このミサイル基地は中国の攻撃から台湾を守るために設置されるのです。しかも今までなら米軍が守るところを、 同盟国軍隊に米軍の役割を肩代わりさせる、アメリカの「オフショアコン卜ロール構想」によって自衛隊が派遣されたのです。

 つまり派遣された自衛隊は日本の防衛方針によってではなぐ「台湾防衛」 という米軍の構想にもとづいて米軍の「下請け」を引き受けているということです。そのために「集団的自衛権」容認や安保法制が必要になったわけです。

 この現実をどう見るのか?「米軍のコマ」として米軍の下で使われ、米兵の代わりに人を殺し、米兵の代わりに戦死する、そんなことがあっていいのでしようか?

8.なぜ政府は辺野古にこだわるの?


 米軍普天間基地は、2003年にラムズフェルド米国防長官が「世界一危険な米軍施設」と指摘したように、周辺市街地や学校への飛行機の墜落の危険や、騒音被害、駐屯する米兵の犯罪も含めてたいへん危険な基地ですが、米兵による少女暴行事件をきっかけに沖縄県民が抗議し、基地を撤去することが決まりました。

 しかしそのあと、日米政府のあいだで撤去ではなく「基地を別の場所に移転する」と話が変わり、その候補地として名護市辺野古沖合とされてしまいました。しかし辺野古に建設が予定されている基地の機能は、 それまでの普天間基地よりもはるかに拡充されます。1800メー卜ルの滑走路を2本備え、岸壁には大型艦船が停泊できるようになります。これは「移転」ではありません。

 実は辺野古への基地建設は50年も前のベトナム戦争の時から、米軍の出撃拠点として計画されていました。今回はその「本当の目的」のために「普天間基地撤去」を口実に使っただけの沖縄への新たな米軍基地の建設なのです。

 辺野古に新しい基地が完成すれば、西太平洋全域への最前線基地となる でしよう。それは、もしも戦争や紛争が起きれば真っ先に攻撃される、辺野古周辺一帯が一番危険なところになるということです。

 日本は米軍のこの目論みにしたがって沖縄をいけにえに捧げようとして います。断じてそれを許してはなりません。

9.「アジアの風」が沖縄に吹いている 


沖縄は本土よりも25年も長く米軍に占領支配されて戦後復興が遅れたため、今でも経済はよくありません。全国でも貧困率が最も高く平均所得も低い県です。しかし、その沖縄に今、「アジアの風」が吹き、多くの観光客が押し寄せています。
 昨年は717万人の観光客が沖縄を訪れました。ハワイの800万人を上回るのも遠いことではありません。

 米軍基地からの収入は72年の返還前には沖縄経済全体の約15%でしたが、いまでは5%程度に過ぎません。ところが観光収入は沖縄経済で倍の10%を占めています。翁長県知事は「米軍基地は沖縄経済発展の阻害要因」ときっばりと述べ、県知事選挙に当選しました。翁長知事のあとを継いで、基地建設反対を公約に掲げた玉城デニーさんは40万票近くの高得票で知事に当選しました。もはや米軍基地は危険で迷惑であるだけでなく、沖縄経済の発展にとって邪魔ものなのです。

 そのため、今までは平和を求めて基地に反対する人々と、経済的理由で基地にたよる人々とに分かれていた沖縄は、今では大部分の人々が基地に反対するようになりました。なのにその沖縄の自立的な発展を踏みにじり、貴重な観光資源でもある美しい珊湖の海を破壊することは断じて許せません。

 沖縄はアジアに最も近く、石垣島は台湾のすぐそばです。中国や大陸と近いということは、戦争になれば最も危険である反面、私たちが平和外交を求めれば、最も友好親善の役割を発揮し経済も発展できる地でもあります。今や沖縄はアジアを結ぶ平和のかけはしとして平和外交を進めることを望んでいます。私たちは戦争のない平和な日本を沖縄とともに築いてゆくことができます。

10.未来へ開かれた沖縄と日本の可能性



 琉球王国時代、沖縄は日本や中国とも交易が盛んで、日本に支配されるまでは独立国家としての独自のアジア外交を続けてきた歴史があります。

 また沖縄からは19世紀末ごろから、多くの国々への移民がありました。ハワイ、ペルー、ブラジル、ボリビア、アルゼンチン、メキシコ、フイリピンなど。それは日本の支配下で貧困が広がったからでもありますが、移民先での苦労も量り知れないものがありました。その苦労もあって、今では世界中に多くの沖縄移民が根づき、1990年からはそれらの人々が沖縄に集まって5年ごとに「世界ウチナーンチュ大会」を開催するほどになっています。

世界ウチナーンチュ大会(出典:沖縄タイムス

 2018年、大韓民国(韓国)と朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)が、その年の冬季オリンピックに合同チームを作って一緒に出場しました。応援団も南北合同の応援団が結成され、これまで敵対関係の続いてきた朝鮮半島に「南北統一」への希望が芽生えました。これは平和なアジアを建設するまたとないチヤンスでした。

平昌冬季五輪・南北統一選手団

 この機運は、アメリ力や中国にも大きな影響を及ぼし、永く断絶していた米朝会談や南北会談を成功させました。これまで敵対関係にあったアジアに平和の機運が訪れました。もちろん今後も紆余曲折の困難な道が予想されますが、歴史上から言っても、地理的位置からも、 沖縄県こそがこの平和の機運を高める可能性を持っています。

 日本とアメリ力は日米安保=日米軍事同盟を通じて永らく中国・朝鮮への敵対関係を続けてきました。それによって米軍基地が日本と沖縄に置かれてきました。しかしアジアに平和が訪れれば、そのような軍事同盟は必要なくなり、米軍基地もいらなくなります。沖縄の進む道は、その可能性を示しています。

 私たちは沖縄の願いに応えなくてはなりません。決して沖縄を孤立させることなく、アジアの平和を実現しましょう。日本と沖縄から全ての米軍基地を撤去し、平和な日本と沖縄を建設してゆきましよう。私たちが、そしてあなたが、沖縄の声に応える気持ちを持つならば、それは可能です!

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