洋館の中で見つけた日記 59 【とある駅の商業施設】
20☓☓年。
研究所にて自分らしさを忘れてしまうP-ウイルスが流出した。
瞬く間にウイルスは蔓延。
世界はポカンハザードに陥る。
ポカンから逃れるため古い洋館に駆け込んだ。
そこである日記を見つけた。
◆とある駅の商業施設
四半世紀の間に何度名称が変わっただろう。
とある駅の商業施設。
25年前に通った入口は見つからなかった。
中心には4階吹き抜けの光の広場。
吹き抜け1階の紀伊國屋で『小学1年生』の付録を確認する私。
飽きると広場のベンチでゲームボーイをやったり、暮しの手帖やクロワッサンを立ち読みしている母に声をかけた。
姉は隣のヤマハにいてピアノ教室で使う楽譜を真剣な顔で品定めしている。
インフォメーションセンターに山本リンダが立っていたのは記憶の屈折か。
屋上駐車場への出口付近にひっそりとあるクレープ屋。
カウンターには樹脂で作られたサンプルが並び、様々な味のクレープが視界に広がる。
アクリル板の向こうで薄く生地を焼く姿を見つめた。
「何がいい?」
「チョコバナナ生クリーム。」
いつも同じ答えだった。
屋上の駐車場でプロジェクションマッピングをつかって映画が上映された。
わくわくして眠気が覚めた夜のイベント。
黒いホンダ・シビック・フェリオ1995の窓を全開にして父がくつろいでいる。
屋号を示す看板の裏に『バック・トゥ・ザ・フューチャー』が映される。
百貨店の中心にある蕎麦屋。
周りには婦人服コーナー、時計屋、宮越屋が並ぶ。
隣の店舗との隙間に簾がかかった入口。
看板は立っていない。
そこは多くの人が気づかずに通り過ぎる隠れ家のような場所だった。
中はやけに暗く、縦長の空間にテーブル席が3つ。
母と私はそこに入り、母が選んでくれた海老天そばを食べた。
25年前に蕎麦屋があった場所で過去を振り返った。
とある駅の商業施設。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?