洋館の中で見つけた日記 107 【帰るところ】
20☓☓年。
研究所にて自分らしさを忘れてしまうP-ウイルスが流出した。
瞬く間にウイルスは蔓延。
世界はポカンハザードに陥る。
ポカンから逃れるため古い洋館に駆け込んだ。
そこである日記を見つけた。
◆帰るところ
先日地上波で放送された『耳をすませば』を観ました。
小学生の頃から何度か観た映画ですが、じっくりと観賞したのは今回が初めてだったようです。
不思議ですが最後のシーンなどは全く見覚えがありません。
ストーリーの主軸は恋愛で少し大人向けなので、最後まで起きられなかったのかもしれません。
雫の母が大学院に通っているということも複雑ですよね。
野球部の子と雫の親友と雫が三角関係になっていたことも理解していなかったようです。
また雫の父が図書館で働いているということも初めて知りました。
要するにいろいろ新鮮でした。
雫家族は団地に4人で住んでいます。
間取りは2LDKほどでしょうか。
子供部屋は真ん中に2段ベッドを置いて、雫と姉が半分ずつ使っていたようです。
私も団地で生まれ育ちました。
小学校の途中で引っ越さなければ、姉と一つの部屋を仕切って使っていたかもしれません。
少し前になりますが『となりのトトロ』も地上波で放送されていましたね。
こちらはVHSビデオテープに録画して何度も観ていたので話の筋は頭に入っています。
VHSのラベルシールには姉の書いたまっくろくろすけがひっそりと描かれていました。
私はメイの気持ちがよく分かります。
姉はサツキに自分を投影して観ていたかもしれません。
昔は5歳上の姉があまり遊んでくれなかったことに不満でしたが、姉はサツキのように私のわがままをいつも我慢していたし、十分面倒をみてくれたと思います。
今回はメイのいないところでサツキがお母さんの病状の悪化を恐れて泣くシーンが心に響きました。
ところで祖父母の古い家にまっくろくろすけがいました。
1.5センチほどの黒く緑の苔がついた、丸いまりものようなものです。
車庫上部の隅にいたのですが、次に見に行ったときはいなくなっていました。
これは夢だけど夢じゃない。
週末になると家族4人でよく行った場所を思い出しました。
そこは丸太小屋のようなお店です。
鉄網のスロープを登り店内に入ると、店内はランタンの光に照らされています。天井を見上げると剥き出しになった黒い梁。
節のある一枚板のテーブルにはヨーロッパ建築の二重窓のような扉のついたメニュー表と4人分のナイフとフォーク。
フリスビーのような大きさの木製のディッシュ皿にはハンバーグが乗り、真ん中にミニトマトが乗った大根のサラダが添えられています。
店員さんに声をかけ親指ほどの銀の器に入ったハンバーグソースを持ってきてもらいます。
母はこのソースが好きで、サラダに嬉しそうにかけていました。
食後にデザートが運ばれてきます。
私はチョコレートパフェで姉はメリーゴーランド。
細くて長いスプーンで底から取り出して食べるチョコレートソースの染みたコーンフレークが美味しかった。
最後にレジの横にある棚から紫のバブルテープガムを買ってもらいました。
そして父の運転する黒いホンダ・シビック・フェリオ1995に乗って、4人で家に帰りました。
さて最近 “帰る場所” がないことに気づきました。
つまり実家にもう自分の部屋がないということです。
母と父が別れてから一軒家を手放したので、両親の家に行っても自分の部屋がない。
また中学校のときに家出して住ませてもらった祖母の家にはもう誰も住んでいない。
もちろん両親に会いに行くと気持ちは安心します。
しかし物理的な私の部屋、居場所が恋しいです。
帰る場所は大人になるとなくなるのでしょうか。
きっと大人になると今度は自分でつくらなければいけないのでしょう。
簡単じゃないですが、いつまでも子供でいられないですよね。
すぐにとはいきませんが家族をもって、大切な人が安心して帰れる場所をつくりたいと思いました。
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