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「ハモニカ工場」私の推薦図書

また、この本の事か、と思われるかもしれない、いつか「私の本棚」というような企画の時も書いた気がする。

この本にひかれる理由は単純だ。

物語は工場で働く若者の淡い恋愛の話。

工場で働かれている方がいたら気を悪くするかも知れないけど、今から40年も前、高校時代の気持ちを正直に書く。

夢は映画監督だったが、それは本当に夢の夢で、将来の事を想像するなら、工場で、なんか、流れ作業的な事なら出来るかなと、漠然と考えていた。

僕は成績も悪く、人見知りで、人付き合いも悪く、格好悪いというコンプレックスもあった。

そんな人間だったので、大学に行って、会社員として働くなんて事は想像すら出来なかった。

だから、機械あいてに黙々と働くような工場が似合ってるのではないか。

ナニ工場という事ではなく、漠然とそう思っていた。

そんなとき「ハモニカ工場」という小説を見つけたのだと思う。

一気に読んだ。

気持ちは工員寄りだったので感情移入も早かった、主人公の正一は、同じ工場で働くチヨエの誕生日にオルゴールをプレゼントしようと思うのだが、家も貧しく、わずかな給料も、全部家に入れていて、とても好きな子にオルゴールを贈るために千円欲しいなんて言えない・・・

舞台は昭和29年で、時給は35円だ、不況の時代で残業もままならないが、なんとか一日一時間の残業が許され、一ヶ月先のチヨエの誕生日までにどうにか千円を貯める目標が出来るのだが・・・

その一ヶ月のあいだにさまざまな事件が起きる・・・

ハモニカ泥棒が現れ・・・
仲間のひとりは結核になる・・・
身売りをせざる得ない少女が・・・
工場のプレス機で事故・・・
戦争なんて二度とゴメンなのに、給料のいい自衛隊に行こうとする仲間が・・・

本の帯にはこう書かれている。

昭和29年、まだ戦争が終って10年も経っていない、当然、ハモニカ工場で働く誰もが戦争の記憶を背負っている、日本そのものが貧しい時代だが、そこから脱したいというエネルギーがある。

貧しい中のエネルギーが眩しく光る・・・

自分も工場で働いて、こんな爽やかな恋愛が出来たら、{青春}がおくれたら、それが自分にとって一番の幸せなんじゃないか・・・

そう思わせてくれる小説だった。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

この本の初版が出たのは1956年だが、僕が読んだのは1975年ぐらいだと思う。

僕は高校を卒業して工場で働くことなく、専門学校に行かせてもらい、ボンヤリと生きていた。

それから15年近くたった1991年、高校時代の夢の夢だった映画監督になって、映画を作るなら、どんな映画を作ろうか??? 真剣に考えた時、頭の中に「ハモニカ工場」が浮かんだ。

ずーとハモニカ工場の事は忘れていなかった、心のどこかに、もうひとつの人生としてハモニカ工場の世界があった。

そうだ「ハモニカ工場」を映画化しよう!

しかし、「ハモニカ工場」はまだ映画になっていない。

それはまた、別の話。

1991年頃、この小説のシナリオを書き上げた頃に、僕は仕事で北海道の旭川にいた。

その旭川の古本屋さんで、偶然、この本の作者である早乙女勝元さんのサイン色紙を発見した。

そこには、こう書かれていた
     「その火を消すな、焚き木をくべろ 早乙女勝元」

この言葉が「ハモニカ工場」の映画化をあきらめない理由だ。

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