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【最高位戦Classic】木原浩一の打牌には躊躇がない【敗戦記】




セリングクライマックス

あれだけ楽しみにしていたClassicベスト16。
なかなかトップがとれず、素点プラマイ0付近で推移していた5回戦目に放銃しまくって、私のポイントは先週の株価のように暴落した。

高志には先着

体がレベル差を感じる

その5回戦で木原さんと同卓した。

木原さんは2着だった。
華やかなアガリがあったわけでもなく、具体的にどういう打牌があった、とかいう話でもない。

それでも同卓して圧倒的なレベル差を感じた。
木原さんの打牌は、リズムが一定で、丁寧かつ早いのだ。

早く打つだけなら誰にでもできる。
でも木原さんのそれは違う。
陳腐な表現で申し訳ないが、魂がこもっているのだ。

プロ入り24年目の木原さんは、ほとんどのプロよりも1つの対局の重みを理解している。いや、24年目だからこそ、その重みは増す一方であることは想像に難くない。

あの時あれを打っていれば…

どれだけ負けを体に刻み込んだのか。
木原さんの体はおそらくバッファローマンのように傷だらけだろう。

眠れぬ夜をどれくらい過ごしてきたのか。
どれだけ涙を飲んできたのか。

美しき300/500

木原さんの早さは決して手拍子ではない。

雌雄を決する六回戦のシーンをみてもらおう。
まずは配牌。

第一ツモで6mをツモってイーシャンテン。
何を切る?

木原さんは1mを切った。
もちろんノータイムで。

すごくない?
何度も言うけど、ミスが許されない、人生をかけた大一番よ?

打1mのロスは1mの2枚だけ。
でも8pを残すに値する?
6sの横伸びを見るなら打6sという手もある。

迷うよね。
でもあらためてフラットな気持ちで考えてみると、やっぱり打1mが正解だと思う。
なぜなら打1mの先にはタンヤオがあるから。

私も1mを切る。
だが、きっとうんうん考えた後にエイヤッと前に出す感じで切るだろう。だせぇ。

すぐにカン2mが埋まってテンパイ。
6s切りはずしもあるけど、8pを残して嬉しい7pと同じ枚数だけひょっこりツモがある。

目的は三面張じゃなく、アガリだ。木原さんは8pを切ってトリダマに構えた。

今度は3pをツモって打6sでテンパイ外し。
ピンズ残しても1pと2pと8pを切っていてフリテンになっちゃうよ?

おそらく親(上家)の仕掛けの捨て牌が濃く、間四軒になっている36pは切れない、との判断だろう。

2pをツモってフリテンテンパイでダマテン。

3pをツモってシャンポン待ちに受けかえ。
やっぱり36pが打ちづらいんだね。

2人のテンパイをかいくぐってのツモアガリ。

さて。
いちいち書かなかったけど、当然全てノータイムである。
あのトリダマも、ハズシも、待ち変えも、一瞬の躊躇もなかった。
こんなに美しい300/500があるだろうか。

一つ一つの選択を深掘っていくと、全て当たり前のなんてことない打牌である。
でもその当たり前を、正確に、ノータイムでこなしてくる。

何をツモったら何を切るか。
そんなことは常に準備しているのだ。

何をツモったら何を切るか。
それを何十年と繰り返してきたのだ。

もはや体に刻み込まれているレベルだ。

「おやおや沖中さん、また考えるのかい?」
木原さんと打っていると、AIと対峙しているような、そんな感覚に陥る。

しかも見た目はもう仙人みたいなおじいちゃんなのに。

木原さんは自分で「僕は天才じゃない」という。
ただただ、何をツモったら何を切るかを積み重ねてきたのだ。
20年以上、コツコツと積み上げてきたのだ。

雀王決定時の忘れられないセリフ


木原さんが雀王を取ってから、もう10年近くの時が経つ。
戴冠した直後のインタビューを紹介しよう。

「勝ったのは偶然です。でも偶然の可能性を高めるために練習してきた量はこの4人の中で一番だと断言できます。それが実って良かったと思います。」

ともすれば他の3人に対し失礼にあたるように感じる人もいるかもしれない。
しかし私はこのセリフを聞いて震えた。未だに忘れられないくらいに、圧倒的にカッコよかった。

木原浩一はフロンティア

このnoteに一部始終が記されているが、木原さんがブロマガを初めてもう10年以上の時が経つ。
主に麻雀戦術を語ったブロマガだが
「僕はめんどくさがり屋だから」
という理由で毎日の更新を掲げ、以来たまの休みはあってもずっと更新され続けている。

ちなみに私も似たようなことをやってみたが、半年で挫折した。

文章を売る。
今でこそ当たり前の文化だが、11年前はそんな文化はない。
少なくとも麻雀界においては誰もやっていなかった。

だから月500円という圧倒的安値で始め、持ち前のコツコツとした努力を継続した。それが実を結び、今は多くの読者が存在する。

先行者利益…といえばそれまでだが、全く土壌のないジャンルで生計を立てようなんて、簡単にできることではない。

木原さんはミスを恐れない。
とにかくよかれと思ったことにはチャレンジする。

その一環として、私も一緒に「Mリーグマニア倶楽部」という動画をYouTube上で配信していたことがある。


どれもめちゃくちゃおもしろいからみて!

全て木原さん1人で編集し、サムネイルを作っている。
ときとしてラノベっぽいタイトルにしたり、時事を取り入れたり、あーでもないこーでもないと、試行錯誤していたのが印象的である。

最近お呼びがかからなくなったということは、労力に対し収益が見合わないと判断したのかもしれない。

それでいい。
うまくいかなかったらやめる。
トライアンドエラーだ。

ブロマガはいろいろチャレンジしてきたうちの1つが当たったにすぎないのだ。

今調べてみたら私より5つ年上の52歳らしいが、信じられる?
この若々しいクリエイティビティは誰しも見習うところががあるのではないだろうか。

木原浩一はエンターテイナー

木原さんが雀王をとる2期前、こんなことがあった。

約束でもしていたのであろうか。
雀王になったたろうの前で某ドラマのワンシーンの如くうなだれる寸劇があったのだ。

進行の桃ちゃんかわいそう。

見たい方はコチラ↓

(後で笑っているのやじー?)

どこでスイッチが入るのかわからないけど、この男はやると決まったら徹底してやる。

某林さんの結婚式ではももくろに扮して踊り狂ったと思えば…

これも探せば動画があります。某見さんもいますね。

天鳳で十段から九段に降段したときにはサライを全力で歌っていた。

麻雀にまっすぐで
新しいものに貪欲で
何事にも全力投球。

Mリーグが発足した時、私は木原さんこそがMリーガーにふさわしいと思っていた。
プロを含む多くの麻雀打ちに影響を与え、プロとしての見せ方にも余念がない。
ただタイミングが少しばかり悪かったようだ。

木原さんの生き方を心底カッコいいと思っている。
私にとって木原さんは戦友であり、師でもあるのだ。

こないだ会った時、木原さんはすこしだけ弱音を漏らした。
noteにもこんなことを書いている。

しかし50を過ぎた今、深刻な問題なのですが、
急速に認知機能の衰えを感じています。
自分よりも年配のプレイヤーが、放送対局で信じられないミスをするのを目の当たりにした時。
全く笑えない。

あれは間違いなく未来の自分でしょう。
少し前までは競技麻雀人生の
終わりを意識したことはありませんでしたが
今となってはその未来が
現実的に近づいているのをひしひしと感じています。

https://note.com/k_kihara/n/n51bb94a34a18「思考の変化と終わりの兆候」より抜粋

終わりが見えてくる…5歳しか変わらない私も深刻な問題である。

そんな木原さんが誰よりも早く正確に打牌できるのは、長年の鍛錬以外の何物でもない。

当日、毒舌で有名?な田内プロと協会グランドスラムを達成した矢島プロも言っていた。
「木原さんやっぱつえーよな」
「うん、いつもいるもん」

(「いる」というのは、オリずに場に残っているという意味)

予感

本当は、木原さんと決勝に残れたらどこまでエモいんだろうとワクワクしていた。でもその夢は儚く散ってしまった。

まぁそれは私の実力不足だから仕方ない。

決勝は素晴らしいメンツが揃ったと思う。

一馬さんに新Mリーガーの浅井さん。
決勝どころか配信対局が初めてだったというフレッシュな川岸さんと玉村さん。

昨年、決勝で伊藤高志と戦い「こいつはつええわ」と差を感じた。
そのまま伊藤高志が優勝し、一年間差を埋めたつもりで挑んだら、さらに先を木原さんが走っていた…そんな印象を受ける。

手役大好きな浅井さんはClassicルールが合っている気がするし、本来は最高位戦の3人を応援すべきなのかもしれない。

でもなんとなく木原さんが勝つような気がする。
いや、勝ってほしい。

いろんな人が亡くなるのが続き、木原さんの麻雀を見ながら応援できる時間が有限であることを実感する。

敗者として、戦友として、師として、最大限のエールを送りたい。

人間は麻雀の神になることはできない。
神にしかわからない答えを追い求めながら、少しでも近づけるように一生試行錯誤するものでしょう。
もう過去に戻ることはできません。
昔のような打ち方は今となっては出来ないけれど
「麻雀人生で今の自分が一番強い」と思えなければ、競技麻雀プロなんて引退した方がよいだろう。

木原浩一

https://note.com/k_kihara/n/n49b9ac7aac4c「結局麻雀は、一生試行錯誤するものだから」より

木原浩一の打牌には躊躇がない。
今まで自分がやってきたことを、誰よりも自分が信じているから。


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