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第16回勉強会「食とゼロカーボン」

ゼロカーボン(脱炭素)に向けて一人ひとりが主役となるための勉強会。

第16回のテーマは、「畑と食卓をつなぐプロに聞く!食とゼロカーボン」。

前々回のソーラーパネルや前回のEVも身近な存在になってきていますが、今回のテーマである「食」はすべての人の日々の暮らしに無くてはならないものです。
安曇野市穂高の八百屋「よろづや いっかく」の崎元伸郎さんと崎元生歩子 さんをゲストにお招きして、食に関するお話を伺いました。

日時:2022年8月24日(水)19:00~20:15
場所:白馬ノルウェービレッジ or ZOOM
参加者:50名(会場13名、オンライン37名)

フードシステムが地球温暖化に与える影響

Protect Our Winters Japan 鈴木瞳さん

「食」といっても生産から食卓に並んで体内に入るまで、様々なプロセスがあります。
どの部分からCO2が多く排出されていると思いますか?

森林を切り拓いて農地に転換するところから、畜産・輸送・加工・輸送・販売・廃棄に至るまで、すべての過程で温室効果ガスが排出されています。

フードシステムから排出される温室効果ガスは、人為的に排出される温室効果ガスの3分の1に相当し、食関連で排出される温室効果ガスは、エネルギー供給分野と並んで第一位の排出量と言われています。
日々の食生活が地球温暖化の進行を進めてしまっているにもかかわらず、多くの人は食と気候変動の関係をあまり意識していません。

世界で生産される食品の3分の1が廃棄されていると言われ、フードシステムからの温室効果ガスの多くは食品ロスによるものと言われています。

2010-2016年に排出された温室効果ガスのうち、約8%が食品ロスによるものだと言われ、自動車からの排出に匹敵するほどの排出量となっています。

森林はCO2の吸収源となりますが、農地に転用され続けています。
利用可能な土地の50%が既に農地化されていて、そのうち77%が牧草地や家畜飼料の生産地に利用されています。
一方で、世界の食料供給(カロリー割合)を見ると、約80%以上が植物性食品であり、20%弱の動物性食品のために多くの土地が利用されていることがわかります。

家畜由来の温室効果ガス排出量は全体の18-20%と言われ、飼料の生産や輸送、ゲップで出るメタン、ふん尿処理など多くの過程から排出されています。それゆえに、代替肉や菜食が話題になっています。

フードシステムから排出されるCO2の20%を占めるのが「食材・食品の輸送」です。
日本はカロリーベースの食料自給率が40%以下と言われ、世界的にもフードマイレージが圧倒的に高い状況となっています。

残念なデータが並びますが、すべての人の毎日の生活に関わる分野であることから、食分野から地球温暖化の解決に大きく貢献できる可能性も秘めています。

「ドローダウン - 地球温暖化を逆転させる100の方法」でも上位25項目のうち食に関連する多くの解決策が示されています。
しかし、世界規模の話であったり、いきなり肉食を止めるというのもなかなか難しい面もあります。

長野県に移住して、新鮮な野菜が手に入ったり、旬を知ったり、生産者との距離が近かったり、シンプルなレシピでも食の素材を引き出して美味しく食べられることを知り、菜食ベースの暮らしに変化していきました。
気候変動を止めたいというよりは、身近な体験に基づいて自然と考えや行動が変わった印象があります。

世界の大きな話を考えることも大切ですが、目の前の食事を考える視点で、安曇野市穂高で八百屋「よろづやいっかく」を営む崎元さんのお話をお聞きしたいと思います。

畑と食卓をつなぐプロに聞く!食とゼロカーボン

ゲスト:よろづやいっかく 崎元伸郎さん・崎元生歩さん

崎元伸郎さん
神奈川県川崎市出身。高校卒業後、映像、音楽制作などに携わるが「食」にまつわる社会問題の多さを危惧し、その解決の一手段として料理人を志す。都内オーガニックレストラン、栃木県のフレンチレストラン「Otowa restaurant」の音羽和紀シェフがプロデュースする、 六本木のフランス料理店で修業後2007年に穂高に移住。シャロムレストランオーナーシェフを経て穂高駅前に2015年「glocal foods NAVEL」、2018年10月に穂高神社内に八百屋「よろづやいっかく」をオープン。食育指導士、マクロビオテックコーディネーター、ジビエマイスター、松本調理師製菓専門学校臨時講師

崎元生歩子さん
大分県出身。東京都自由学園高等科、最高学部卒。高校生時代にヨーロッパを訪れ、カフェや食文化、芸術の世界に関心を抱き、レストランサービスを志す。22歳でワインエキスパート取得。ホテルオークラ東京、都内フレンチレストラン、長野に移住後は飲食店とクライミングジムに勤務しつつアウトドアにも親しむ。2011年からは夫の独立をサポート。接客を専門としていたが、妊娠、出産を機に食と向き合い、元々好きだった料理を、野菜を中心に研究。八百屋よろづやいっかくの店長兼ケータリングフード、発信担当。NAVEL子ども料理塾チーフ。「レシピとともに野菜販売」「食べ方コンシェルジュ」「給食弁当」を実践中。趣味はランニングと登山、クライミング。二児の母。

よろづやいっかく
穂高神社の北側鳥居すぐに位置する八百屋。
作り手(農家、料理をする人)を日々のチャレンジを応援すべく、2018年にスタート。つくり手とのつながりを大切に畑の様子と連携した、野菜の仕入れを心がけ、よい作物を作り続けられるように、パートナー農家さんとのコミュニケーションを大切にしている。また、2019年より小学生を対象とした五感の料理塾「こども料理塾」をスタート。調理実習だけでなく、料理にまつわる五感の原体験を大切に、トレーサビリティや、多様な食文化にも触れながら、毎月テーマに沿ったカリキュラムを組んでいる。

フードシステムに大きな課題を感じている人も多いと思いますが、規模が大きすぎて途方もない無力感を抱く人も多いのではないでしょうか。
私たちは、世界規模の大きなシステムよりも「小さな地域循環」を大切にしたいと考えてお店を経営しています、

安曇野市穂高で地域の有機や無農薬の野菜などを取り扱っている八百屋「よろづやいっかく」を運営しています。
「glocal foods NAVEL」は3年前に飲食店の役目を終えましたが、子どもたちの五感を豊かにする食育の場として「こども料理塾」を開催しています。

(崎元伸郎さん)
神奈川県出身で、映画や音楽を作っていましたが、社会の仕組みを調べるうちに食に関する危機感を抱き、一生の仕事としてシェフを目指しました。オーガニックレストランや六本木のフランス料理店で働いた後、安曇野市に移住してマクロビオティックの飲食店・宿、自然農の畑、パーマカルチャー、野外保育園などを学び、2015年にジビエや自然栽培野菜などのレストラン「glocal foods NAVEL」を開店し、2018年によろづやいっかくをオープンしました。

(崎元生歩子さん)
東京の学校に通っていましたが、高校時代にヨーロッパを旅行し、カフェやレストランに興味を持ち、ワインサービスを志してホテルに就職しました。
フレンチレストランで夫と出会い、安曇野市に移住してアウトドアを楽しみながら夫の仕事をサポートしています。
妊娠をきっかけに食に興味関心を持ち、レストランや家庭の料理でレシピを研究するようになりました。
八百屋の店長として、主婦の目線で食べ方の提案などをしながらお店に立っています。

質の良い野菜を並べるだけでなく、「いかに手に取ってもらうか」を意識して、食べ方や作り方を伝えることを大切にしています。
「魚を与えるのではなく、釣り方を教える」という考えで、事業を通じてお客様のQOL(Quality of life=生活の質)を高めたいと思っています。

少量多品目栽培の地域の有機農家さんなど約30事業者から野菜を仕入れていますが、「生産者の環境や言語感覚と、消費者の暮らしの世界線が離れすぎている」という実感があり、それを翻訳してお客様に届けたいと思っています。
そのためにも「言語」を学ぶ必要があり、自分たちでも野菜やお米などを栽培しながら、農家さんの想いや背景・ストーリーをお客様に伝えることを心がけています。

野菜は栄養素もたくさんありますが、慣行栽培(従来型の栽培)のものと私たちが仕入れている農家さんの野菜では、味もエネルギーも全く違います。
カロリーや味も大切ですが、食べたときの「満たされている」という感覚を大切にしています。

生産者と消費者を繋ぐ翻訳家(フードハブ)としての役割を大切にしながら、お客様をパーソナライズ化して、個々に処方箋を出すイメージでレシピと共に野菜をおすすめしています。

「野菜は全量買取」というのも大きなポイントで、直売所などでは委託販売(売れ残った分は生産者が持ち帰る)が一般的で、農家さんにとって時間的にも精神的にも負担が大きくなっています。出口を作るための戦略も大切ですが、全量を買取ることで「絶対に売り切る」という気持ちを持つことも重要です。
どうしても売れ残りは生じてしまいますが、それを活かす取り組みとして「ZERO WASTE PARTY」や「子ども料理塾」を開催して活用しています。
天候等によって余剰野菜が生じた場合は、「シェフズネットワーク」で情報共有して需要と供給をマッチングしています。
「消費=消す・費やす」という言葉に表れているとおり、「消費者」は面白味があまり感じられないように思われるため、学びや成長を提供したいと思っています。
グローバルなフードシステムは自分ごと化しにくいという問題がありますが、畑で野菜を栽培してみるなど、消費者が当事者意識を持つことも大切です。
農家さんの現状や四季の移り変わりなど、様々な情報も共有するよう心がけています。生産者の顔が見えず、消費者の当事者意識が低いと、野菜もぞんざいに扱われがちです。信用や愛情がベースにあると、「もったいない、使い切らなければ」という想いで経済を回したいと考えていて、小さい規模だからできることもあります。
料理教室は、受講希望者が学びたいテーマを決めて参加者を募る「課題先行型」で開催しています。パーソナライズ化の一つでもありますが、スパイス料理、パーティ料理、作り置き料理など5〜6クラスあり、長く続くほど課題のレベルも高くなりますが、楽しく続けています。

質問や課題を持った者勝ちで、質問を出した方が納得感も高まります。
出張シェフなどでもできるだけ双方向で、オーダーを取るようなイメージで対応しています。

商品開発にも取り組んでいますが、消費するだけではなく、体験をベースにした商品を作ろうと心がけています。

こども料理塾は、約30人の子どもたちを対象に2ヵ月に1回程度開催しています。コロナ禍もあって嗅覚が特に退化していると感じていて、生命を守ることにもつながるので、料理技術の向上だけでなく「五感の感受性の幅を拡げる原体験」を大切にしています。

その他にも、田んぼでお茶会をしたり、学校で食育の授業を行ったりもしています。

ここからは、崎元さんと事務局の波多野仁晴さんと取り組みや考え方を深掘りしてきます。

庭の片隅で野菜を作っていますが、料理は妻に任せてしまっています…。
知人が自然食品を扱う八百屋さんだったこともあり、身近な存在でしたが、知らぬ間に八百屋さんが無くなっていることに気づきました。
料理を提供する立場から、野菜を売る立場に転換したきっかけや当初の思いなどをお聞かせいただきたいです。

知り合いの農家さんが増えていきましたが、レストランで使う量は僅かで、店先や店頭で販売してもそれほど多くは取り扱えず、「良いものがあるのに余っている」という現状を変えるために、販売の循環を作り出したいと考えました。
シェフも「消費の促進」という役割を担っていますが、家庭料理の食文化のボトムアップをしないと飲食店も含めて食文化全体がレベルアップしないという想いや、「働き方改革」と言われ始めた頃で、飲食店と子育ての相性が良くないということもありました。
飲食店と八百屋の両輪で経営している時期もありましたが、よりやりたいことに近い八百屋に移行していきました。
飲食店ではお客様のために料理を作っていましたが、家族のために夕食を作って一緒に食べるようになり、家庭の雰囲気も変わりました。
飲食店で農家さんから良い野菜を仕入れて、自宅の食卓が豪華になりましたが、多くの家庭の食卓をより良くしたり、地域の子どもたちにもシェアしたいと思ったことも八百屋に転換した理由の一つでした。
定休日前に残った野菜を使って、ワンコインで集まってみんなで交流する「Zero Waste Party」や「こども料理塾」などを始めました。
物だけでなく気持ちの循環も大事にするようにしていて、詰まりや滞りのあるところの手助けをするためにも、体力と余白が必要だと感じて八百屋に転換しました。

多くの農家さんとつながっていますが、実際に農園に足を運んで関係を築いているのでしょうか。

農家さんの手が回らないときに草刈りを手伝ったりするなど、丁寧なコミュニケーションを心がけています。
季節的にも今は大変な時期で、疲れが溜まると野菜の質も下がってしまうため、良い野菜を作ってもらうためにもできるだけ農家さんをサポートしています。
シェフの時は自分たちのお店を回すことで精一杯でしたが、今はお店を生歩子さんに任せて、片足だけお店に残して片足は農家さんを訪ねるなど外に出回るピボットスタイルで運営しています。

直接足を運んで感じたことをお店で話されtたりしていますか?

農家さんと話すことで、今年の野菜の出来具合や旬の話をお客様にもお伝えできるようになりますし、そうすることでお客様の味の記憶も明確になり、良い循環が生まれていると感じています。
地域内のものしか取り扱っていないため、基本的には旬のものしか扱わず、「いつでもなんでもある」という状態を作らないようにしています。
不便な状態ではありますが、そこをクリエーションでクリアしていくことに楽し身を感じていて、その術を伝えることが大切な役割だと思っています。

旬だけでなく栽培方法など店頭に並ぶまでのプロセスにも面白さがあると思いますが、お客様の変化なども感じられますか?

最初の頃は珍しい野菜が売れ残ってしまうことが多くありましたが、売れないからといって作るのをやめてしまうのはもったいないので、おいしく簡単に食べられる方法を丁寧に伝えることで、お客様に手に取ってもらい、リピーターになってもらえることが多くあります。
「一言添えれば買ってもらえる」というのが八百屋の良さで、大手のスーパーなどではレシピを置くくらいしかできないと思いますが、野菜を手にして話すことができるのは八百屋ならではだと思います。
また、野菜の多様性を守ることも大切にしています。

グローバリゼーションが進み、どこの食材でも手に入るようになっている一方で、フードマイレージや地産地消に目を向ける方も増えていますが、そのあたりはどういったお考えをお持ちですか?

小さい規模であれば、グローバリゼーションのフードシステムではできない個別対応型の愛情をベースにした循環ができると思います。
大きなシステムは便利でインセンティブもありますが、違う選択肢・サブシステムとして持っておくことが、幸福度・QOL(Quality of life=生活の質)になど大きく関係すると思います。
大きなフードシステムは問題として捉えづらく自分ごと化しにくいですが、小さいサイクルは関係・関与できるという実感が湧きやすく、そういった体験を重視しています。

生産の現場の近くにいると、四季を感じたり、土地や地域への想いが生まれたり、豊かな気持ちが生まれるのでしょうか。

子どもと一緒に畑に行って旬の野菜を採るのは、とても健康的で大切なことであると思います。
野菜は生鮮食品で長持ちしませんが、お米などの穀物は長持ちするし、収穫できると安心感も生まれます。
農業や収穫を体験する場があれば積極的に参加してほしいです。

質疑応答

  • よろづやいっかくさんのお野菜便を時々利用していますが、埼玉県に住んでいて、配送による温室効果ガスの排出に加担している後ろめたさを感じています。でも、頼みたい…。このジレンマはどうすれば良いでしょうか。

    私は都市のあり方が循環の観点から偏っていると感じて長野県に移住しました。「買い物」にはたくさんの選択肢が詰まっていますが、その中でも私たちが大事にしている野菜を選んでいただいたというのはありがたいです。実際にお店に来ていただいて、野菜を見て楽しんだり手に取ってもらえたりすると、とても嬉しく思います。
    お店に来るのが難しい方に対しても、発送を単なる作業として行うのではなく、双方向的なコミュニケーションを意識して、レシピを添えて食べ方を伝えたり、気になることがあればメッセージを送ってもらうなど、アフターケアを大切にしています。

  • フードロスはゼロにはならないと思いますが、防ぐために取り組んでいることはありますか?

    定休日前に「こども料理塾」で多くの野菜を使っています。
    また、出口を先に作ることも大切にしていて、売ることは簡単なことではありませんが、全量買取で「売り切る」という想いも大切だと思います。
    「ぞんざいに扱わない」ということも大事で、生産者の気持ちを理解したり自分ごととして考えるなど、時間をかけて関係性を育むことで意識が芽生えてきます。
    少し時間が経ってしまい割引しているものなども、食べ方や保存の方法などを伝えることで、「買って試してみる」という行動につながることもあります。

  • ゼロカーボン勉強会でもコンポストをテーマにしましたが、そういった取り組みもされていますか?

    様々な工夫により使い切ることがほとんどで、端材などは畑にそのまま返しています。
    隣の穂高神社が落ち葉に困っていると聞いているので、野菜の皮の部分や傷んでしまったものなどと一緒に堆肥化することも取り組んでみたいです。

  • こども料理教室に参加する子どもの雰囲気はどのような感じですか?

    10歳くらいまでに五感の感受性が育つと言われているため、それまでにできるだけ原体験を増やしたいと思っていて、子どもの将来に響くようなインプットやリテラシー(情報の咀嚼力)を大切にしています。
    初めは興味を持っているか不安に感じることもありますが、回数を重ねることで自宅の食卓で学んだことを家族に話したりしてくれるようになります。成長のスピードは子どもによって異なりますが、子どもの変化は家族にも影響するため、親に伝えるよりも早く変化を生み出したり、子どもが料理を作り始めることで「ありがとう」が溢れて家庭が上手く回り始めたりします。依存関係にあると文句が出やすいため、できるだけ自立した関係性を作りたいと思っています。
    世代によって価値観の違いはありますが、今の20代以下は男女の役割などもフラットに考えています。
    習慣は「偏屈のコレクション」であり、知らぬ間に思考や行動の幅を狭めてしまいがちですが、例えば苦手な野菜でも調理法を変えるなど「食べよくする」ことで「偏屈なコレクション」を減らせると思います。食べづらいものを食べやすくすることが料理であり、美味しくするモチベーションでもあります。
    旬を過ぎて種を取る時期になると硬くなったり筋張ったりしますが、ちょっと工夫をすることで美味しく食べることができます。
    多様性に対する寛容性が重要で、国内外にたくさんの食文化があることを知るだけで自分の習慣をメタ認知することができます。
    役を演じてみたり、学校給食のメニューを作ってみたり、いろいろと挑戦してみることで、幅広い視点を持てるようになりました。
    音楽配信サービスやECサイトのレコメンド機能など、自分の好みに近いものに囲まれて生きることは便利かもしれませんが、ある種危険性もあると感じています。自分で選択することの楽しさを大切にしてほしいし、その方が充実度が高まると思います。

  • 多様性という観点では、食の分野に限らず白黒つけたがることが多くありますが、グレーの部分も大切にする必要があると感じます。「こうあるべき」というよりも多様なあり方を認めて関心を持つことが大切だと思いますが、いかがでしょうか。

    マクロビオティックや自然農、パーマカルチャーなど、それぞれ興味を持って学んだり実践したりしてきましたが、垣根は設けずに選択したり関わったりしてきました。
    ビーガンも重要な選択肢だと思いますが、お肉を食べたいという人もいますし、グローバルの視点で見ても宗教的なものも含めてグラデーションはあります。
    大豆ミートは輸入品が多いですが、地域の大豆を使ってみたり、ビーガン料理では旨みを出すために油が使われることが多くありますが、油を搾り出すために廃棄物も多く出てしまうので、揚げるのではなく蒸す調理法を考えるなど、ビーガンの中でも調理方法を選択したり変化させることができます。
    できるだけ地元の食材を使いながら、エッセンスとして海外のものなども楽しみとして取り入れながら続けられるスタイルを探り、自分が納得することも大切だと思います。
    レストランに「Glocal Foods」という名前を付けたのも、できるだけ地元の素材を使いながらグローバルな視点を入れてボーダレスな料理を提供したいという想いがあったからです。
    郷土食や伝統食ももちろん大事にしていますが、外からの風と地元の土が合わさって風土ができるので、風通しやスタンスといったものを大切にしています。

  • アパート暮らしのため、プランターでルッコラなどのハーブを育てていますが、土は一度使ったら栄養がなくなるのでしょうか。再利用できますか?

    土を足すこともありますが、荒めのザルなどで根っこなどを取るくらいで、基本的には再利用して問題ないと思います。落ちた種から芽が出てくることもあります。乾燥さえしなければ大丈夫だと思います。ルッコラは花も美味しいので食べてみてください。

  • 気候変動が深刻になってくる中で、漁業は大きく影響を受けていると聞きます。農業についてはどのような影響があると考えられますか?

    大規模に栽培していると打撃も大きくなりますが、少量多品目栽培であれば適応しやすいと思います。
    極端な気候が増えていることに対するリスク対策として、種を直接畑に蒔くのではなく、苗にしてから畑に植える方式に変えている農家さんもいます。
    少しの変化であればそういった対応で済むかもしれませんが、平均気温が2℃上昇するような大きな変化の場合には、作付けから根本的に変える必要があり、産地や品目などにも変化が生じると思います。
    雹や豪雨などで路地栽培のリスクが高くなると、ハウスや水耕栽培の野菜が増えてくるかもしれません。
    今の時点でも質の良い野菜が不足していて、学校給食などでも十分に提供できていないと感じています。少ないものを奪い合うのは嫌なので、質の良い野菜を作れる農家さんを増やしたいと思っています。農家さんも1年に1作であるため、大きく転換するのも難しい現状があります。
    安曇野市では農薬や肥料等による地下水の汚染なども議論され始めていて、自治体も含めて農法についても考えていく必要があると思います。

  • 八百屋さんがある地域は素敵だと感じますが、作り手・売り手・買い手などそれぞれのハードルがあると思います。よろづやいっかくさんのような八百屋さんを各地域に増やしていくためにはどうすれば良いでしょうか。

    他の地域にも展開しませんか?と言われることはありますが、自分たちが進出することはあまり考えていません。
    野菜の説明や調理法など暗黙知のノウハウが多く、お客様に伝えることが簡単ではないため横展開しづらいというのも理由の一つです。
    これまでの経歴で多様な方々を接客してきたことや地域への想い、農家さんとの関係性も重要な要素になっています。
    気分が乗らない時でも、顔の見える生産者の野菜に触れることで気持ちを切り替えることができます。
    研修やインターンでお店に来てくれる人には、料理法なども含めて様々な情報を伝えるようにはしていて、人を育てなければ展開はできないと考えています。
    それぞれの個性を活かして、八百屋さんにいろいろなキャラクターの人が居て楽しくお店を運営できれば良いと思います。
    白馬にも八百屋さんができそうな方はたくさんいるのではないでしょうか。

  • 作り手・使い手・売り手など生産から消費まで一貫して関わっていて、調理して売ったり、素材として売ったり様々な経験があるからこそ今のスタイルになったのではないでしょうか。

    専門的になり過ぎないように気をつけていて、包括的・ファシリテーター的に社会を見て、滞りを感知することを意識しています。
    いろいろな取り組みを行って複数のコミュニティと関わることで、間口が広がり、接点がたくさん持てるので簡単に越境できるようになります。
    最終的には、コミュニケーションスキルと体力も大切です。

レシピはインスタグラムWebサイトで公開しています。
ぜひお店に足を運んで実体験してみてください。

お知らせ

次回は、9月7日(水)19:00〜
「白馬村の宿泊とゼロカーボン」をテーマに、宿泊産業イノベーション研修による「とりま歯ブラシプロジェクト」や持続可能な観光の動き(事例紹介)などを取り上げます。
ぜひご参加ください。

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