見出し画像

富士五湖線

富士五湖線

月曜日早朝、長いトンネルをぬけて富士五湖へと高速が分岐する。上りも下りも、時に全く車が走っていない。私の車一台だけ。家を出てきたときにはまだ夜の終わりだったのだが、このあたりを走るときはもう朝がはじまっている。車線に沿ってずっと続いている稜線とまばらな集落。刺激がなく、睡魔がぴったりと目の回りに貼りつく。膜のように隙あらば目をふさごうとする。サービスエリアもパーキングもしばらくない。曲がりくねった下りの坂道より、単調な直線の方がよほど難所だとそのとき知った。一度記憶にそう認識されると、富士五湖道路を通るたびに激しい眠気に襲われることになり、実際、何度か、落ちた、かくんと。スピードは出すにつれ慣れてしまう。危険性を甘くみる。時速百キロで縁石に接触でもしようものなら、独楽のように車体が回転し、大破炎上も考えられる。早朝、単独で、燃え上がる自動車。東の空は朝焼け。黒煙が上がる。まだ、富士は見えない。一台も通りかからないままひとしきり燃えて、勝手に鎮火する。一瞬にそんな夢を。見れば話は出来すぎだが、何度か、片手で髪の毛をひと握り引っ張りながら執拗な眠気を引き剥がし、ようやく見えた谷村パーキングへと滑り込んでシートを倒した。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?