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早期退職の話

早期退職を決意した時 元〇〇で仕事をしてい
た自分 という考えを棄てようと思った 実のと
ころ 自分が勤め人として何かを成し遂げられ
たかと言えば 特に思いつくところがない おそ
らく無能ではなかったと思うが 有能という事
でもなかったのだろう 何かと言えば上司に
かみついたり そういうのが社会に染まらず
かっこいい生き方だなどと勘違いして心の底で
そのような気持ちをずっと飼い続けていたので
当然上司からはよく思われず またあるいは
実力以上に買ってくれている上司もいて お前
の評判は人によって真っ二つに分かれるんだ
けれど 一体お前はどういう人間なんだ と転任
してきた支社長から酒に酔って言われたことが
ある 今から考えたら もっとうまくやれたことが
沢山あっただろうと思う

もう40歳くらいからいつか仕事をやめようとお
もっていたので 早期退職の話は50を超えた
私には猫に毬というか 一もにもなく飛びつける
いい話だったのだが 仕事に対する野心も幾分
残っていたし事実それほど高くない役位にも鬱屈
していたので もう一仕事残したいなどとも考え
て手放しでひょいとその話に乗る という訳でも
なかった 当時は上司にも恵まれていたし 多分
件の支社長にも期待されていたと思う 子供の
事情で三つに分かれていた職制の一番下の
職位に変えてもらっていたが 高等学園への
進学も果たしていたので職位を戻してもらった
ばかりだった それで早期退職に乗ったのだか
ら味方を裏切ったような形で そればかりが
心残りだったが 組織というのは出て行く人間
には目もくれないもので 所詮はその程度の
私は組織人だったのだろうと思う

それからもうじき六年経つ 今私はほとんど組織
人だったときの記憶や考え方 組織に於いての
あれやこれや 根回し寝技 それらの大人と称す
るやり取りについてほぼ捨て去ることが出来た
と思う それらを取り去った世界というのは自然
で静かなものだ それでも長年の習慣
考え方 あるかないか自分ではいささかはある
と思っている功績 また 勤め人としての苦い思
い または悦び そういったものを無に帰すのに
はこれだけの時間がかかった 別に捨て去る
必要などないのだけれど 生きなおす というか
心を新たに暮らそうと思ったときに 私はそれら
のあれこれを捨て去らなければならないと思った
多分 幸福な勤め人生活でいい思い出だったなら
そう考えなかっただろう しかしながら 特にひど
い生活だったとか人生を変えるような体験が
あったとか そういう訳でもなかった ある程度の
長さの労務を経て それらを捨て去ることのできる
経済的褒美があったという事は非常に幸運だ
ったとは思っている

勤めていれば多分 役職定年を経てあと数年
本物の定年を迎える前の 鬱屈した毎日を送っ
ていたのだろうなと思う 鬱屈しているというの
は度合いは違えどまあ今でもそうだ 見知った
先輩たちももう定年を迎えて きっぱり勤めを
辞めているか 再雇用で残っているのか その
あたりはさっぱりわからない 同期ももう定年だ
特に連絡を取る気もない ほぼ30年の職業人
生をようやくこの頃捨てられた気がしている ひ
んぱんに見ていた仕事の夢もこの頃はまばらに
しか見なくなった 私はどうして生きているのだろ
う 冷静に考えると 一体何をしているんだろう
何かのために生きている というだけが生きる
事なんかではないともこの頃思う それでいい
かどうかと言えばどうとも断言はできないがそ
れが決して不幸ではないとは今 言える

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