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猫を見ていただけの話

仕事をやめて暇とおもわれたか
実家から
物置ががさがさすると電話がかかる
父かこしらえた
元禽舎
ではなく物置ほどの鳥小屋
親父も鳥もいなくなって
鳥小屋は大きい物置となって
庭の角に立っている
鉄筋で

まず思いついたのは鼠
雨つゆがしのげる古い炊飯器や
着古しの中で
鼠算しているかと思ったら違った
猫だった

庭を猫が横切っていくといっていた
掃き出し窓から
何をするでもなく老母は眺める
こたつに座って
湯呑と手元にみかんをおいて
とらが堂々と過ぎていく
横切るには狭すぎる庭

ひょこと木箱の奥から顔が出た
薬入れのような木箱
懐かしい
ここにあったのか
ここにいたのか
茶と白のとらねこ子猫
ほかにも
棚の二段目の丸めたビニールの蔭
濃い灰色に砂色の子猫
その二匹は確実にいた
ほかに黒がいたか
白がいたか
何匹いたか
見分けがつかない
気配だけで恐らく三匹
親猫は留守のようだった

そのまま息を殺していると
茶虎の子猫と目が合った
スマホで写真を撮ってみた
黒っぽいのも
写すことが出来た
猫とふいに出会ったら
どうするべきか
混乱した

猫がいる
と母に言うと
そうかと一言帰ってきた
農家の出の母は
猫と親しい
いつも鼠除けの
働き猫が土間や縁側に
丸まっていた
飼える
ときくと
まさか
という
もう八十を過ぎているのだ

猫は
猫の形になるまでが
大変だという
子猫たちは
それをくぐって
勝手に猫になったのだ
手がかかるところを飛ばして
目の前に現れた
もしかしたら
死んでしまった兄弟がいたかもしれない

マンションで猫は飼えない
悩む
仕事をやめて
子と妻と猫養えるか
病気をしたら
人も猫も
エサはどうする
飯はどうする
猫も人も

わずか50メートルの道を
特に用なく訪ねなかった私が
猫はどうか
と実家に通う
猫はいたりいなかったり
いても出てこなかったり
母にカツ丼など差し入れて
猫に足しげく実家へ通う

ハローワークの
認定日帰り
実家によると
猫は消えていた

エサをやりたかった
ミルクを飲ませたかった
そのとたんに
責が生じる
その覚悟は初なからなかった
ただ
小さくて丸い毛のものを
いやされたくて見ていただけた
これからの十幾年など
約束出来はしなかった
どうしても

エサがもらえないとわかると
猫の親子ははなれていく
母からそう聞いていた
母も責を負えなかった
だからなにもしなかった
小さな穴から入り込んで
その穴から言ってしまった
親父の作った物置の隅に
わざとか
ミスか
空いた穴
半年たってからそれを見つけた

猫たちがいなくなって
改めて物置を
整理する
春になるまえ
まだ汗をかかないうちに

もしかして
干からびた猫のむくろが
あるかとも恐れたが
それはなかった
そのかわり
置き土産があった

黒い汚れが
ビニールに垂れている
元をたどると
一枚の床板
そこに
大量の子猫の糞
こんもりと山もりで
匂いもなく固まっていた
トイレは取り決めていたのだった
子猫のくせに
どこかに
すとすと
すとすと

いくつかの
子猫のなりで

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覚悟できませんでした

里親のしくみも知りませんでした

結果的に見逃しました

今でも思い出しています

ヘッダはその子猫です



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