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寺へ行く前に

女性二人を従えてサイゼリヤの県道に面した
窓際の薄ら明るいテーブルにいた 寺へ行く
前に昼食をとるために 女性二人は妻と娘で
娘は来週から大学二年の前期が始まる 春の
休みは一月の終わりごろから始まって 退屈し
切っているのかと思えば休みが足りないという
この間 本は三冊程度 しかも外国作家のも
のなどばかりで どうして日本文学科なのかと
おもえば 特に志もなく といって別に学問へ
進むわけでもないのでそんなものかとせめて
谷崎潤一郎でも読んだら と投げかけても返答
はなく 羊をモチーフとしたイラストなど描いてい
る 

ランチセットの目玉焼きは卵価高騰に従いほう
れんそうのソテーに変更となって 誰かが ハン
バーグには目玉焼きが添えられてしかるべき
と言ったような言葉に日ごろから同感で 卵を
使ったメニュー全滅かと見たところ 青豆の
温玉サラダは健在だったからランチに追加して
注文し ほぼ開店時間に入店したところ十分も
経たないうちに次々と客が押し寄せて来て いわ
ゆるワンオペというのか 一人の女性店員が
あちこちの呼び出しボタンに追われ 厨房の
方なのか正解音のような減衰音が連続して
鳴り続けていた

年頃が娘と同様 または少し下かと思われる
若い女性 多分未成年かと思われ 呼称として
少女といえるか そういえば娘も十代がまもな
く終わるがそれまでは少女か などと思いつつ
少女たちが私たちのテーブルの直行する並びの
テーブル群の 私たちの一番近くに着座して
もしかして後輩かも と娘に問いかけるもとくに
興味を娘は示さず 漏れ聞こえた軽音というこ
とばから娘の高校では軽音とは言わない しか
しながら軽音とは言わない軽音に娘は入部
していたと思い出しながら後輩でないことが
あっさりと判明する

ランチセットのデミグラスハンバーグセットが
運ばれてきた時に 何だか メインのハンバーグ
のみならず 付け合わせの野菜類の盛り付けが
僅かにダウンサイジングされているように思え
それでもこの内容で人件費を含めて 温かく
食事を済ませられるのは素晴らしい事だなどと
マスコミの言説に影響された月並みな感想を
持ちながら 他の店ではそうしないのが何故か
ゼリヤだけではハンバーグをあらかじめ細片に
ばらして その一片を白い鉋屑のようなチーズ
に隠された青豆の下の卵黄に 雪に竹竿を突
くようにすると黄色くて愛おしいとろみにくるまれ
た肉片 それを更に融合させまとまりに焼いた
ものをさらに再度分離させた肉片の集合の一片
がフォークの先に刺さっていて 口に入れた時の
思わず笑みが零れるその一口に 悲しいほど
子供舌の単純な大男とも言えない小太りの身体
は微妙に震えた その一口から誘発されて な
らば この青豆の皿の中全て メインの方へと
ぶちまけてしまったら如何なものか とあられも
無く思いつき 品がどうこう言うよりもそもそも
そのように高みする柄かと とは言いつつ行儀
云々言う母の幼い頃に聞いた小言を振り切るよ
うに取り返しのつかなさみたいなものを感じつつ
ばさりと青豆を その意外な粒数の多量を つ
けあわせすら覆いつくすようなたくらみであけ
移してしまう

青豆とポテトやコーン 卵黄と肉とソース 混然
としたひと匙 もはや匙で臆面もなく掬って 口に
頬張ると青豆やポテトの粒子感に肉とコーンの
咀嚼で被膜を突き破る感覚が脳に官能として
伝達され 火照りとなった快楽が顔面に赤くさ
してくる それをろくに噛みもせずつぎつぎに
口腔に詰め込んでいく利き手の勝手な動力に
身を委ね 思わず 夢のようにうまい と姉が
SNSでコンビニスイーツを食べた感想と同様の
文字が漏れてくるように感じて 世の中には
ゼリアに駄目を出す高級な舌と思考の持ち主が
数多く 自らの安上がりと直截な思考回路を
低劣なもののように思えたりしかねないが
それでは勝負で言えば負けの部類に傾くと感じ
られ せっかくの手軽な官能を阻害する尿意
のようにも思えるのできっぱりシャットアウトし
て 妻と娘の 魚介を用いたワンディッシュをさ
らに弱者のように憐れみを感じながらその
淡々とした食事運びを色なく盗み見つつ先に最後の
一口を閉じた

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