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美術館

美術館

美術館はどうなっているのだろう。

竹橋の国立近代美術館ぐらいしか行ったことがない。しかも、数回行っただけだがいつも雨が降っていたり、夜だったりした。小倉遊亀の「浴女(その1)」という日本画が確か所蔵されていた。エメラルドグリーンの湯が浴槽のタイルを歪ませて妙に印象に残った。ほかには萬鉄五郎という人の赤黒い絵(なんと乱暴なものいいだろうか)や戦争画などをみた記憶がある。

私の見た戦争画は南方戦線のもので、素晴らしく晴れた空と青く透き通った海のさなかで戦闘が行われているという絵だ。マリンブルー調のキャンバスに墜落する戦闘機の黒い煙や、戦艦の爆発の赤が点在する、のどかな楽園での殺戮シーンを描いたそれは、戦争というのは場所と天候を選ばないのだな、というあたりまえのことを改めて認識させた。戦時下では雨でも戦争、夜でも戦争、寒くても戦争、春でも戦争、終わるまで戦争。戦争という日常。経験したくはない。

学生時代、美術館に行った。おそらく、シュルレアリスム関係の展示だったと思う。平日。静かだった。小雨が降っていた。写実的な物や、リアリズムより訳の分からない夢や現実にはあり得ないものを描写した物が昔から好きだった。静かな館内で、どこをどう味わうのかよくわからない作品群をゆっくりと見て回った。がらんとした展示室。白い壁。ガラス。明かり。作品。時には足を止め、しばらくたたずむ。私が足をとめたり、連れだった人が足を止めたりした。そのポイントは一致したりしなかったりした。一通り見終わると上階に休憩コーナーがあった。うっすらと明るい雨天の日だった。はめこみの窓(建築用語的には「はめごろし」という)には樹木のてっぺんの方が見えて、葉が雨に打たれてかすかに震えていた。のぞき込むと高速道路がトンネルに入っていくところが見えた。

コーヒーを買った。なぜか紙コップに入った飲み物をふたつ持って行くのも、持ってくるのを見るのも妙に気はずかしかった。それは今でもかすかにはずかしい。おそらく、鑑賞した時間より長い間そこに座っていたような記憶がある。人を違えて何度か、行った。

今、平日、美術館はどうなっているのだろう。

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