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続・竹藪にて

水のつめたさ 水の冷たさ 萌しているとはいえ
春はまだ先 タナゴ釣りはオンシーズンと真冬
だけれど シーズンなのではなくて他の鯉鮒
その他川魚が喰い悪い時期だから 結果として
冬でも釣れるからシーズンと言われるのではな
いかと思う 本当は春先から夏前位までがいち
ばん数だけで言えば出る 何束も数を競うなら
ば桜の頃が盛りで その頃にはいい色に化粧
した大き目の雄も混じり 釣り上げた時の桃 青
黄緑に銀を混ぜて 金属質に釣りあがるさまが
やはりタナゴの醍醐味で 入れば釣れる難しく
ない時が素人にはやはり一番で 水の冷たい
今などはそもそも釣りの真似事をわざわざ寒い
中酔狂な だが他に特段用事もなくて

繊細な釣りと言えば聞こえはいいがもともとは
雑魚釣りで ちまちまと細かい 武士の暇つぶし
から始まってお大尽が道楽尽くして 遊女の
髪の長いのを釣り糸に 竿に金銀の飾りを施し
見栄で小さい魚を競う めだか釣りあたりが最
も道楽とされて 一円玉以下の大きさの新子を
競うような倒錯したあすびで 今も黒いナイロン
を使うのはその当時の名残だとか 本来は
神経質な老人が自らの空虚を埋めるありふれた
情熱であって 暇つぶしそのもの より上でも
未満でもない ジャスト

で二つ目の竹やぶにいる 笹竹は拾えるだけ
拾ったから今度は布袋竹のささやかでまばらな
藪にそろそろと降りていく 街路樹ののりしろの
ようなやや低くなったあまり布のような形をした
狭地に 若竹のまばらな土手藪があって 誰か
行政か 竿師か 切り落とした竹の枝葉がから
からと枯草の地面に切り捨てられている それ
ほど太くならないうちに途中で切られて すっか
り水気が出きった枝葉を折ったり切ったりで材料
に持ち帰る メートル半程度の土坂をそろりと
下りれば都道は恐らく西に在り 藪の下から
見上げれば葉透かしの薄い緑と もう弱くなり
かけた冬の日差しが 見上げて眩しく 藪と言う
ほどの密集なしに布袋竹は生えていて ともす
ればもしか剪定されているのかもしれない まだ
らな明るさと弱い影の 降りてすぐ向こうはフェンス
越しの通学路らしく下町の学童が寄り合ってとお
っていく

布袋の腹のように節が出張るからなのだろうか
布袋竹の根元はつながっただるまのように膨れ
るのだが そこまで育ったものは背もここには
邪魔なほど伸びるから その前に誰かが切った
多分 いくつか 太い根元の切れ端が といって
切れ端というにはたっぷり大きい ちょうどばら
した釣り竿をまとめて収めるによさそうな太さ
長さの 枯れ竹を拾いに来て 捨てられた竹の
長さはいいようにのこぎりで のこぎりと金属
切断鋏を持って降りた のこを藪の枯れ草に
しゃごんで挽いて 回り一周 切れ目を付ける
ように手を抜いて回し挽き 足踏みすればあっ
という脆さで切断される 少し疚しく しかし疚しさ
など感じる必要もなく 捨てものが都合とたま
たま合致しただけで 捨てられた男は別の合致
を見てこうして竹藪の中にいる

わずかに汗ばみ 左手の皮手袋のプロテクト
右は素手で真新しいのこぎり 何か悪事めいた
心地に手を止めて藪の果て と言ってほんの
四五メートルの事ではある まばらな細竹の
見通しに椅子が一つ 置かれていて不意を
突かれた 古くて小さめの 食卓セットにある
ような茶色い椅子が藪の中 防虫ネットか薄い
ネットが破れて廃れた本陣の緞帳みたいに
フェンスにゆっくりはためいている 単に考えれ
ば粗大廃棄かと思うが誰かがずっと見ていた
ように向こうにあった 

見回して杖になりそうな太竹の 杖には寸足ら
ずを持ち帰りに二分して 布袋竹の布袋たる節
短く入れ組んでふっくらした根元の切れ端を二つ
これは一輪挿しにでも 竹竿をしまうに竹筒の
適当な直径を選んで藪から登り出た時には陽
はすでに暮れ方に落ちつつあって 都県境の
大橋を渡っていくときにかこかこトートの中で
かち合う 水門が開いての流れか水は順当に
河口へへし合う

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