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居候

居候


居候も明日には終わる。中学の同級生の家に私、子二人、妻、老母、死んだ父、叔父で世話になり数日。別居の同級生が家主に呼び戻されたので、こちらはすぐさま叔父を呼んだのだ。何を対抗しているのか。居候の分際で。家主、つまり同級生の母親と生活の時間帯を完全に違え、極力顔を合わせないようにはしている。困ったときはお互い様だから、とか、遠慮はなしで、など扉の向こうで大声で呼びかけられるが、怒声に近く、死んだ父と叔父は向かい合わせにトランプに熱中するふりをしてやり過ごし、私の子二人は二段ベッドの上から半身をぴんと乗り出している。トイレと風呂が一苦労で、深夜、息を殺して古い板張りの廊下をすりあしに歩く。月明かりが差して、生け垣が闇に浮かぶ。風呂のまどから玄関口を見ると(どのような作りの家なのだろうか)こんな夜更けに来客があって、聞こえてくるところによればどうやらテレビの取材のようだ。そのとき、同級生だった娘のシルエットが見えたが幾人かの人達の中にあって頭二つ分くらい大きく、そして見る影もなく老けていた。母娘ともどもの取材らしく、風呂から上がったばかりの私と廊下ですれ違いざまにインタビューを受けていた。私は、どうもすみません、本当にありがとうございます、お世話様です、明日には車が来てどうにかなりそうです、とひどく卑屈に申し訳をしていたが、まったく無視して家主の声は歌うようにインタビューに答え、娘の月に照らされた顔にはわずかに同級だったころの面影が見て取れた。


10月にまとめた作品集「ドラムス少女」のなかの一篇です

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