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森羅万象の摂理により

オートバイという乗り物、好きなんですよね。ものすごく好き。楽しいし、東京では最高に便利だし、集中して乗っていると独特の高揚感もあり、ですよ。すんばらしい。にもかかわらず、乗らなくなったのは、澤穂希選手と同じ良性発作性頭位めまい症なんてなものにみまわれたからです。実際問題として、運転しているときに急に発症したりはしないんじゃないかなとは思うんですよ。なんだけれども、もし、あれが運転中に起きたら、確実にひっくり返りましょう。私の命に関しては、自業自得ってなもんで致し方ないとしても、万が一、単車が吹っ飛んでいったさきで、余所様に迷惑をかけたりしたら困るよなあ、と思うわけで、何はともあれ、手放した次第。とはいえ、あの感覚を思い出すと今でも乗りたくなりますなあ。
で、ですね、そうなると、電車やバスに乗らにゃあならん、ということになったわけです。本来、私の生活圏なんて、自転車移動でなんとかなるようなごく狭い範囲でしかない。自転車での距離って言ってもまちまちですよね。熊本先輩のように日に100km以上走ってしまうような、ものすごい人もいらっしゃるわけですが、私の場合、まあ、せいぜい一駅分ぐらい。スーパー頑張っても二駅かそこらでしょう。実際問題、そんなもんで私の生活の大半はカヴァできるわけで。
ところが、別の条件が発生しました。生まれ育った団地が建て直しになり、しばし離れる必要ができてしまったんですな。猫2匹とオートバイ置き場という条件を満たし、そして、もちろん、お安いところってな感じで探していったところ近所ではみつからず、とうとう今やセカンド地元と呼んで憚らない久我山って町に辿りついたのでした。井の頭線ねえ。バスの親分みたいなちょいしょぼの路線だよなあ、ぐらいな失礼な印象でいたわけですが、いまはすっかり改心しました。井の頭線大好き。あの鈍くさいのんびり感が最高……って、おい、おまえ、ばかにしてんのか、と誤解されそうですが、いや、本当に好きなんですよ。ああいうのんびりした電車はいい。すぎ丸と井の頭線の組み合わせ。このローカル感は東京では特に貴重だよね。
めまいのせいで、というか、引越しのせいでというか、とにもかくにも、電車やバスに乗る必要性がぐっと上がった。それまでほとんど徒歩・自転車・単車でしか移動していなかったわけで、バス・電車経験がゼロに近かったから、ちょっと自分でも感動するぐらいの転換だったんです……って、大袈裟? いや、本当に私自身の中では大々変化なんだよ。

ここんところ、所用でバスに乗る機会が連発しているんですが、空いていれば、かならず先頭の高い席に座る私です。あそこいいですよ。試しに座ってみてくださいな。あの独特の感じがわかると思います。ちょっとした(お子様向けの?)特等席感とでも申しましょうか。
先日もちょっくら用事があって、荻窪から青梅街道を西へと向かうバスの、その特等席に腰掛けました。誰しも場所場所に思い出があるでしょうね。「次は八丁、八丁、婦人科・内科・泌尿器科の~」なんてなアナウンスを聞くと、そう言えば、昔は単車でバーっと吹っ飛んできてここを右折して、仲のいい友だちんちに遊びにいったもんだよなあ、と毎回思い出します。本当に頻繁にお世話になっていた。
そんなちょっとした回想に浸りつつぼんやりと町を眺めていました、ぼんやりと記憶をゆらめかせながら。そしたらですね、その交差点のすぐ先に「森羅万象」という喫茶店があるのが目に入ったんです。変わった名まえの店だよね。それがひきがねになって思い出したのが、先に書いた友だちの結婚式のこと。私は司会を仰せつかったのですね。否はない。うむ。喜んでやらせていただきました。で、その時のお父さんのスピーチが「森羅万象の摂理により」って始まったんですよ。ちょいびっくり。ほほぉ、そう来るのか、ってなもんでした。なかなか日常的には出会さない表現なので、列席のみなさんも、えっ、みたいな顔をしている人が多かったな。それが猛烈に印象的で40年ほどたった今でもくっきりと残っています。
森羅万象の摂理により若い二人が結び合うこととなった、というような文言だったわけですが、森羅万象といえば、地球に限らず、全宇宙に存する全てのことをさすわけで、その摂理といわれたら、もう何にでもあてはまると言ってよろしかろうと思うわけです。森羅万象の摂理によりこうなったんじゃよ、と言われれば、そりゃもう返す言葉もない。ごもっとも、としか言いようがない……かな。
響きもいいし、字面にも迫力があるし、この言いまわしはいつか使いたいものであると思っているんだけれども、いまだにその機会はやってきておりません。佐藤さんちは長生き家系とは言えないし、あちこちがたのきているぽんこつボディでよろけた日々を送っている身。早いとこ使わないと森羅万象の摂理により世を去りかねないよね。ああ、そうか、じゃあ、自分がくたばった時の挨拶文の冒頭に使うことにすればいいのか、なんて思ったりして。

*追記
……なんて書いたけれど、ふと考えるに、あさがやんずで森羅万象なんちゃらって曲を書いたような気がしてきた。なんだけれども、ううむ、ひとかけらのフレーズすら思い出せない。記憶ちがいかなあ。


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