「人とのつながりに対する関心から対話を研究する」前編 慶應義塾大学SFC研究所上席所員 長井雅史さん
●ご挨拶と出演者紹介
三木:マインドフルビジネスストーリー第192回材木座の和海庵よりお送りしております。本日は『対話のことば』の共著者であり
長井:SFC研究所の上席所員です。
三木:長井さんと対話をしていきたいと思います。
長井:はい。
●enmonoとの出会いについて
三木:長井さんと我々の出会いなんですけども、どういうところがきっかけでしたっけ?カマコンでしたっけ?
長井:たぶんそうですね。4年前とかに三木さんとカマコンでお会いしたのが初めてだったんじゃないかなと。
三木:ちょうどグローカルコーチングがスタートしたぐらいの時ですよね?
長井:そうかもしれないです。
三木:今もカマコンのメンバー?
長井:いや、メンバーじゃないです。最初は自分自身が大学生の時までメンバーで、途中から千葉県いすみに引っ越してそれで辞めた感じだったと思います。
三木:でもその頃から対話というものに注目して色々活動されていたのがすごい印象的だったんです。対話ってある程度年季がいるものなので、SFC出身の学生がやってるみたいなのが意外な感じだったので。
●慶應義塾大学SFCでのパターンランゲージの研究について
三木:元々大学ではどういう研究をされていたんですか?
長井:元々はSFCの井庭崇研究室っていうところにいて、パターンランゲージっていうある領域においてまだ言語化されていないうまくいく実践のコツを言葉にしてまとめる手法を扱ってる研究室にいて、そこですでに作られたコラボレーションパターンの活用をしたりとか、あとは自分自身が大学受験の時に進路選択に迷った体験があって、そういう体験から中高生に向けた自分らしさと向き合うようなワークショップをやったりとかそんなのが学部の頃でしたね。
三木:パターンランゲージっていうのはどういうことですか?
長井:定義としてはさっき言ったような感じなんですけど、『対話のことば』もパターンランゲージでまとまってるんですね。
宇都宮:定型文みたいなことではないんですか?決まり文句みたいなこと。
長井:パターンランゲージにおいて何のパターンをまとめるかというと、うまくいく実践のコツなんですね。例えばAさんがこういう具体的なことをしてうまくいってました、Bさんがこういう具体的なことをしてうまくいってましたっていうような、具体事例に共通するうまくいく実践のコツみたいなのをまとめるのがパターンランゲージ。
宇都宮:じゃあ面接に受かるコツみたいなものもあったりとか?
長井:そういうのもあるかもしれないです。本当に色んなジャンルのパターンランゲージがこれまで井庭研では作られてきていて、コラボレーションをうまくするためのパターンだったりとか、プレゼンテーションをうまくするためのパターンだったりとか、対話のパターンだったりとか、認知症を抱えながらもよりよく生きるためのパターンだったりとか、結構多岐にわたるジャンルでその領域において物事をうまくやっていくための実践の秘訣が、パターン化されているっていう感じなんです。
三木:言語化できないコツをあえて言語化するという?
長井:そうですね。パターンランゲージでの知恵のまとめ方って中空の言葉っていう言い方をするんですけど、マニュアルみたいに具体的すぎず、理念みたいに抽象的すぎない間の言葉を中空の言葉って呼んでいて、そのレイヤーで知恵をまとめるところに特徴がありますね。
宇都宮:日本語なんですよね?
長井:元々は海外の建築家の方が…
三木:アレキサンダーさんでしたっけ?
長井:そうです。クリストファー・アレグザンダーっていう方が建築の分野でよりよい建造物を作るための手法としてパターンランゲージを編み出した。
三木:都市設計みたいな、住民とどういう対話をしていったらいい建物、都市ができるかみたいなところからっていう感じですね?
長井:そうです。
三木:それがパターンランゲージで、それを色んな分野に展開してるのが井庭研究室?
長井:そうです。
三木:元々井庭先生って人工知能とかじゃなかったっけ?
長井:井庭先生は元々複雑系の分野だったりとかモデリングシミュレーションだったりとか。
三木:僕が大学院に行った時に先輩か同期かそれぐらいでしたね。その時からずば抜けた能力をお持ちで、僕はもうヘラヘラだった(笑)。
長井:複雑系の入門書みたいなのを彼は24ぐらいの時に書いてますね。
三木:複雑系からきてこっちのほうに?
長井:そうですね。
●共著書『対話のことば』について
三木:一緒にこの本を書かれたんですよね?
長井:はい。『対話のことば』。
三木:これは元々長井さんがリードしてた研究?それとも井庭先生の?
長井:井庭先生はもちろんメンターとしているんですけれども、僕自身がプロジェクトリーダーとして大学院の時に学部生と共に取り組んでいた研究がこういった形になっている感じです。
三木:これは僕らもzenschoolでずっと対話をしていく中で「ああ、そうそう。こういうことなんだよな」っていうのがちゃんとランゲージになってたので。
宇都宮:僕らは体験的にやってたことを小畑さんが卒業後に対話とかって言い始めて、「あ、そっか」って僕らは受け売りで今対話って言ってるんですよ。
長井:元々対話をしようと思ってやってたわけじゃないっていうことですね。
宇都宮:体験的にそうするといい感じっていうのがあって。1対1よりも複数人いたほうがいいっていうのもあったんです。それからリフレクティングでっていうのも受け売りで。
三木:僕はこれで勉強になったのは沈黙みたいなのがあったじゃないですか。
長井:言葉にする時間ですね。
三木:僕らは受講生と対話していく中で3分ぐらいの沈黙とか、それが10分になろうが20分になろうがいいんですけど、そこを待てるかどうかでいい言葉が出てくるのかっていうのがあって。
宇都宮:結構沈黙が好きだったりするので。
三木:どっちが先に口火を切るかみたいな。
宇都宮:こっちは言わないですもんね。
三木:そういうのがまとめられていたりとか、実践してからこっちを見ると腑に落ちるんです。こっちを見てまねごとをするとたぶん「う~ん」みたいな形になるのである程度両方必要ですよね。
宇都宮:フォーマット化しやすくはなったんです。体験的にやってきたことで何となくだったので「そういうことか」っていう。そういう知識も入れながら『トゥルー・イノベーション』を書いたので。
三木:どういう風なプロセスでこの研究をまとめていったんですか?たくさんの実践が必要になると思うんですけど。
長井:そうですね。今の問いに対する答えはパターンランゲージ全般がどういうプロセスで作られてくるのかみたいな話にもつながるんですけれども、基本的にはパターンランゲージを作りたい領域を定めて、その領域においてこれはすごい主観的にならざるを得ないと思うんですけど、ある種熟達者的なその領域でうまくやっている人にインタビューをしてその人がどういうことを意識しながらやっているのかとか、逆にそれを意識しないとどんな問題が起きてしまうと感じているのかをバーッてインタビューして、1つのエッセンスにつき1ポスト・イットみたいな感じで書いていって、そうすると300~400枚ぐらいのポスト・イットが複数人にインタビューするとできたりするんですけど、その物をKJ法っていって1つ1つを…
三木:KJ法。懐かしいですね。SFCで結構初期の頃にやってたね。今ではもう超古典みたいな。
長井:めちゃめちゃアナログに1個1個のポスト・イットを見合わながら「これとこれは似てるよね」とか「違う」とかって…
宇都宮:川喜田さんの本を読んだ時ぶっ飛びますよね。
長井:そうですね(笑)。川喜田二郎さんもまた深いです。
三木:何人ぐらいの研究生と一緒にやってたんですか?
長井:『対話のことば』は5人ぐらいです。大体パターンランゲージを作る時は1人だとなかなか難しいので3~5人ぐらいになることが多いと思います。色々要素を出してグルーピングして、パターンランゲージのフォーマットで書き起こすみたいなプロセスなんですけど、この『対話のことば』に関しては、当時はまだ日本でそこまでオープンダイアローグの実践事例が多くなくて、筑波大学の斎藤環先生が自分の現場でやっていたのとあとは彼自身がその概念を広めていたみたいなフェーズでもあったので、ちょっとインタビューを通じてみたいなことができなかったんですね。
なので、この本に関してはオープンダイアローグの創設者の1人であるヤーコ・セイックラさんが書いている英語の論文とか書籍からそこで書かれている、主にdoingに関しての記述を片っ端から集めてきて、結果的にそれも400ぐらいのポスト・イットにまとまってそれをグルーピングして編み上げていった感じです。
三木:そういう先行研究から?
長井:そうですね。
三木:でもある程度実践もしてたわけですよね?
長井:オープンダイアローグっていう型ではないんですけど、対話の実践はしてました。
三木:若いのに結構まとまってるなって思ったのは、そういう先行研究からの編み上げというか集積?
長井:そうですね。
三木:先ほどの創始者のセイックラさんはこのパターンとは違うパターンをおっしゃってたりするんですか?この中でまとめられているものとは。
長井:セイックラさんのオープンダイアローグの話に関しては、元々オープンダイアローグが精神医療における家族療法の一種として作られてるものなので、その舞台の文脈で手順を書かれているのがセイックラさん…
三木:治療的な側面からね。
長井:そうですね。この研究に関しては僕は医療の現場の人間ではないので、オープンダイアローグというものについての特別な何かがあったっていうよりも、対話っていうものがすごく大事だっていう体験とか知識がありました。ただ対話のパターンランゲージを作ろうってなった時に大元のリソースみたいなところに関して対話って結構関わり合いとか目に見えないところの話なので、対話がいいっていう効果が出ている事例ってそんなに多くなくて。そういう分脈の時にたまたまオープンダイアローグに出会って、オープンダイアローグの場合は、すごい簡単に言うと患者さんとの関わり合いのあり方を変えることで、患者さんの心にいい影響が表れているっていうことがすでに目に見えている事例だったので、それを参考に対話の秘訣を抽出しようといった発想でした。この『対話のことば』に関しては対話一般に関する知恵を、オープンダイアローグを参考に抽出してるので、オープンダイアローグとは違って精神医療の舞台の文脈に限らないというか、僕の研究の意図も教育だったりとか家族だったりとか組織の文脈で生かされるといいなっていう観点で、パターンランゲージっていう手法でまとめたっていう感じがあります。
宇都宮:日本語で対話っていう言葉は概念としては人と人が話してるニュアンスじゃないですか。会話(conversation)っていうのがあるじゃないですか。どういう違いというか捉え方がされるんですか?
長井:会話と対話の違い。
三木:微妙なところを突いてきましたね。
宇都宮:僕らも『トゥルー・イノベーション』を書いた時にzenschoolの中で起きてる対話って、僕らがイメージしてる会話とか世間の人がいう対話とは違うようなことが起きてるなと思ったので、取りあえずその時は禅的対話みたいな「禅問答」みたいな表現にちょっと置き換えたんです。話してる言葉の内容よりも僕らはボディサインを見てるので、言葉と体の反応の違いを追いかけていって、それが一致する時に表情も声のトーンも変わったりするのを見てるっていう意味だったので、僕らはそういうイメージで捉えてたんです。
長井:個人的な考えになるんですけど、一応『対話のことば』においての対話の定義に関してお伝えすると、そもそもこの『対話のことば』自体は対話の知恵を30個のパターンでまとめていて、その30個が3つの柱に分かれてるんですね。1個目が体験してる世界、2つ目が多様な声、3つ目が新たな理解で、それぞれの柱に具体的な実践的なコツみたいなのが9つずつ紐づいていて合計30個っていう形なんです。『対話のことば』において対話っていうものをどう定義してるかというと、体験してる世界、各々同じ現実を共有していても内側で起こってる体験してる世界っていうのは違うよねっていうところに対しての、ある種のリスペクトみたいなところと、あとは何かその場からすでに存在してる多様な声があるからこそ、言葉で出てくることもあるし、ボディサインとして出てくることもあるけれども、そこに多様な声があるっていうことを大切にするということ、そこの関わり合いから新たな理解が生まれていくっていう、そこの可能性みたいなところに開かれていること、その3つのスタンスと言えばいいのかあり方と言えばいいのか、それがそこにおいて起こっているコミュニケーションに含まれていたら、対話っていう呼び方をするみたいな定義を持ってますね。
宇都宮:コミュニケーションのあり方みたいな、言語だけではないっていうことなんですか?
長井:個人的にはそうなんじゃないかなと思っています。
三木:3つのカテゴリーに分けたのは何か意図があるんですか?
長井:それはパターンランゲージを作っていったらそうなったっていう。最初は全体像が全く見えないままボトムから始めるのがパターンランゲージのやり方なので。
三木:これがまとまっている30個の一覧になります。
長井:そもそもKJ法自体が新しい概念を生み出すための分類法なので…
宇都宮:イノベーションの文脈ですよね。創造系の。
三木:この本とかカードを出した社会の反応はどうでした?
長井:そうだな…。改めてそう問われると何だろう。
三木:だってそれで小畑さんとも知り合ったんでしょ?
長井:そうですね。大体今1年半強ぐらい経っていて…
三木:分かる人には分かるみたいな感じ(笑)?
長井:社会の反応としては今パッと出てくるのは何種類かあるなと思っていて、元々対人支援に従事してたりとか関心があって、何かしらの経験があったりとか何かしらすでにそこまでで学んでる知識がある人達に出会うことが多いなっていうのは肌感覚としてあって、そういった人達が改めてより良い関わり合い、つながり合いみたいな意味での対話を捉え直す時にすごい役立ててもらってたりとか、あとは深める時に活用してもらってるみたいな感覚があって、そこに今はメインで届いてる感じがするんです。同時に難しいみたいな声をたまに聞くことがあって、呼ばれて研修の場に行ってやった時に「ちょっと表現が難しくて分かんなかったです」みたいな声とかあったりしていて、ちょっと踏み込んだことがある人だったりとか経験したことがある人は逆に分かりやすいっていう反応になるんだけれども…
三木:実践がないと頭ではなかなか難しい。
長井:そうなのかもしれないなっていうのはちょっと感じていたりしますね。あとはこれを今どう活用してるかみたいな話にもつながる部分なのかもしれないですけど、自分にとっての対話を考え直したかったり見つめ直したかったり、あとは自分自身の対話のスキルを育みたかったりとか、一方で誰か他者に対して対話について学べる場を作りたかったりとかそういったシーンではすごい機能するなみたいな感覚があるんですけど、1個これはまた違うサポートが必要かもなって思うのは、自分自身が困難な状況を抱えているシステムの一部として存在していながら、同時に対話をしたいみたいに思っている人達に対してのサポートみたいな観点では、まだちょっとどれぐらい響いてるのか分かんないところがありますね。本当に困難な状況での対話の実践、支援をどれぐらいできてるかがちょっと分かんないみたいな。
三木:なるほどね。
後編に続く
対談動画
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