新築ワンルーム投資が、なぜダメだと言われるのか?
(全裸不動産 全裸幡随院)
不動産投資は、金融機関の融資姿勢の変化など様々な要因によって、以前のような過熱ぶりこそないけれど、しかし不動産投資に関心を持つ層は依然として少なくありません。不動産価格はボラティリティが比較的小さい、また急激な変化に晒されるようなこともない、事前の準備さえ怠らなければある程度のリスクを回避すること可能な投資です。しかし同時に、業者に勧められるがまま物件を購入して事足れりというほど甘いものでもありません。
“不労所得”だの、“FIRE”だのといった言葉に魅惑されて冷静に分析する作業を怠ったのかわかりませんが、「なぜ、こんな物件を買ったんだろうか?」という、最初から投資として失敗が決定づけられているような物件に手を出している投資家をよく目にします。そして、そのかなりの割合が、新築ワンルームマンションに手を出してしまったケースです。以下のような条件で、収益目的に新築ワンルームマンションを購入してしまった会社員がいます。
(物件):新築ワンルームマンション
(価格):1,890万円
(賃料):相場賃料…85,000円(表面利回り…5.4%)
:保証賃料…76,500円(相場賃料の90%。4年)
(管理費・修繕積立金):9,000円/月
(立地):東京23区内、最寄駅徒歩6分。
(面積):22㎡(1Kタイプ)
(融資条件):期間…35年
年利…3.775%(元利均等返済)
借入比率…90%
(頭金)…190万円
(ローン借入)…1700万円(1890万円-190万円)
仮に、空室が生じたとしても、月額保証家賃が76,500円あることになりますが、その時、既に5,500円の持ち出しが発生していることがわかります。つまり、月額保証家賃から管理費・修繕積立金と月額ローン支払いを差引くと、手残りはマイナスになってしまいます。
月額保証家賃…76,500円
-)管理費・修繕積立金…9,000円
-)月額ローン支払い…73,000円
=)月額自己負担…▲5,500円
典型的な失敗例です。ここまでひどい投資家がいるのかと思う人もいるでしょうが、残念ながら、悪徳不動産業者の口車に乗って不動産投資を始めた人の中には、この手の杜撰な業者提案を鵜呑みにしている人が多いというのが実情で、この現状は今もさほど変わりません。そもそも、4年間の借上保証期間終了後の空室率が見込まれていないですし、運営費の一部しか触れられていませんし、ローン金利の設定がごく短期間のものでしかありませんし、持ち出しになったら、そもそも投資にならないという視点が欠如しています。
高所得で税率の高い個人の“節税対策”商品として販売されることの多い新築区分マンションですが、初期費用がかかる初年度以外は、経費化できる金利の額や減価償却できる額が大幅に縮小し、“節税効果”なるものを大幅に上回る赤字を発生させるだけになってしまいます。賢明な人は最初からこうなることを予想できるわけですが、賢明でない人は購入後に漸く気がつくことになります。どんな人でも、翌々年の確定申告時期には目が覚めるはずです。
再度、この物件に目をやりましょう。まず、物件価格に諸費用を乗せた総投資額から考えなければなりません。諸費用が70万円だとすれば、総投資額は、
1,890万円+70万円=1,960万円
このうち、自己資本を260万円投下するとすれば、ローン借入は、
1960万円-260万円=1700万円(年利3.775%、35年返済)
となります。これは言わずもがなとして、次に進みます。
相場賃料が85000円ですから、潜在総収入は、
85,000円×12か月…1,020,000円
となります。
もちろん常時満室であればそれにこしたことはありませんが、実際は数か月間空室が存在したり、入居者が退居して、新しい入居者が入居するまでには一定の間がありますから、どうしても潜在総収入だけみても“捕らぬ狸の皮算用”になりかねません。そこで、空室により生じる損失や、あるいは滞納が起きた際の損失をある程度見込んで計算しないといけません。そこで、
△空室損・滞納損(借上げ保証差額10%)…102,000円
を計算に入れた実効総収入を出すと、
1,020,000円-102,000円…918,000円
となります。
さらに、ここから運営費や管理費または固定資産税などの費用を差引かなければなりませんので、この費用をここでは仮に201,700円とすると、営業純利益は、
918000円-201700円=716,300円
となります。年間負債支払額が875,900円ですから、税引前キャッシュフローは
△159,600円となり、年間約16万円の持ち出しという結果になるおそれがあります。
この時点で投資不適格が決定づけられるはずですが、必要最小限の投資の効率性を見るための指標を用いて、改めて検討してみましょう。ここでは、①ローン定数(K%)、②総収益率(FCR)、③自己資本配当率(CCR)、④ローン支払安全率(DCR)、⑤損益分岐点(BE%)、⑥自己資本回収期間(PB)を使います。
① のローン定数(K%)は、
年間負債支払額(ADS)÷ローン借入額(LB)×100
で求めます。そうすると、
875,900円÷17000000×100≒5.15%
ローン定数は返済初期ほど低く、返済後期ほど高くなる傾向にあります。そして、ローン定数は、返済初期の段階で5%超えているとなると、初めから厳しいと言わざるを得ません。
次に②の総収益率(FCR)ですが、これは、
営業純利益(NOI)÷(自己資本(E)+ローン借入(LB))
で求めるもので、借金の返済負担率よりも投資利回りがあるか否かを見るための指標です。そうすると、
716,300÷(2,600,000+17,000,000)×100=3.65%
いくら東京23区内とはいえ、このFCRだと、ほとんどお話になりません。ここでも、投資不適格だということがわかります。
次に③の自己資本配当率(CCR)ですが、これは
税引前キャッシュフロー(BTCF)÷自己資本(E)
で、そもそも税引前キャッシュフローがマイナスになっていますので、CCRもマイナスになり、ここでも投資としては論外という結論に至るでしょう。
次に、④ローン支払安全率(DCR)ですが、これは
営業純利益(NOI)÷年間返済額(ADS)
で求まりますが、
716,300÷875,900≒0.82
で、1.0未満はデフォルトを意味しますので、投資として破綻しています。
次に、⑤の損益分岐点(BE%)ですが、これは、
{運営費(Opex)+年間返済額(ADS)}÷潜在総収入(GPI)×100
で求められます。
(201,700+875,900)÷1,020,000×100=105.6%
会社経営に引き戻して考えると、固定・変動経費が売上げの約1.05倍あるということです。これがどういう意味か、お分かりになるでしょう。収益不動産に引き戻した場合、満室でも赤字であるということです。
最後に、⑥の自己資本回収期間(PB)ですが、これは、
自己資本(E)÷税引前キャッシュフロー(BTCF)
で求めることができます。ローン期間は35年だから、
△159,600円×35年≒560万円
の持ち出しが発生します(それも、金利・賃料・空室率に変動がないとの前提。しかも、ここでは税金について勘案していない)。持出分560万円と自己資金260万円を回収するためには、ローン終了後のキャッシュフロー716,300円を充当することになりますから、
(560万円+260万円)÷71.63万円≒11.5年
の期間を必要とします。つまり、キャッシュフロー的には、35年+11年半=46年半で漸く元に戻るという計算になります。
以上、様々な投資指標から見ても、投資不適格であることがわかります。「新築ワンルーム投資だけはやめとけ!」と言われるのも、それなりの訳があってのことなのです。