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自分で捕まえた亀は、自分で食べよ

(全裸不動産 全裸幡随院)

ラテン語の諺に、‘Ipsi testudines edite, qui cepistis.’というものがあります。「自分で捕まえた亀は、自分で食べよ」という意味です。

その由来はこうです。ある時、漁師の集団が亀を山ほど捕まえました。亀を調理し、みんなで食べてみると、どうもまずい。そんな時、メリクリウスという女神がたまたまそこを通りがかりました。漁師たちは、メリクリウスを食事の席に招き、亀をふるまいました。

しかし、自分が残飯処理のためだけに招かれたことを悟ったメリクリウスは、漁師たちに亀を食べさせました。こうして、「人にふるまうものは自分も食べよ」という原則が生まれたとのことです。

この諺を目にした時、ふと思い出される最近の出来事があります。全国的に支店を出している大手不動産仲介会社であるT社(具体名は伏せます)の営業担当者が、不動産向け融資に積極的なH県A市を拠点にするA信用金庫(具体名は伏せます)の融資担当者と結託して、無知な不動産投資家に収益性に乏しい物件を何棟も紹介して買わせていた話です。

この不動産投資家をB氏としましょう。B氏は、既に2棟の収益不動産を所有しています。親の遺産があることから、もっと買わせようと、T社の営業担当者とA信用金庫の融資担当者が結託してB氏を誑かして、儲けが出ないこと必至の3棟目の物件を購入させようとしているところです。

前2棟は立地条件も悪く、空室も目立つ。赤字を垂れ流す物件と化していました。というよりも、契約後数年したらすぐさまデッドクロスを迎えるようなクソ物件と言ってもよい物件を買わされていました。

次に押し付けようとしていた3棟目の物件も同じく悪条件揃い。しかも、兄の自宅に抵当権を設定して物上保証人になるよう、わざわざこの担当者が説明に赴くなど、“詐欺行為”の準備に余念がありません。

契約間近となった段階で、「自分が嵌められているのではないか」と漸く思うように至ったB氏は、私の知人のコンサルタントに相談してきました。このコンサルタントをC氏としましょう。

C氏は、B氏が保有している物件の一覧と状況報告を目にして愕然としたと言います。「まさか、このような物件を大手不動産仲介会社として知られるT社と信用金庫が、ここまで露骨に騙しにかかるとは」と。

C氏は、あまりに不注意なB氏を助ける義理まではなかったのでしょうが、さすがに、何も事情を知らずに物上保証人にされたB氏の兄が気の毒に思い、大して利益にならないことだけど、相談に乗ろうと決したと言います。

C氏は、直前に迫っている3棟目の契約をB氏にキャンセルするよう説得し、その際、「T社の担当者が、怒りの電話を差し向けてくるかもしれないから、その際は、私の名前を出していいから、こちらに回して欲しい。前2棟の売却については、それが済んでから、その方法について検討しよう」と。

案の定、T社の営業担当者がB氏のもとに連絡してきたようで、その抗議の声に恐怖を覚えたのか、B氏はC氏の名前を出して、ぜひC氏の方に電話するようにT社担当者に電話連絡したそうです。

T社の担当者からすれば、契約直前にいわば“ドタキャン”されたわけだから、面白いはずありません。C氏の行動がT社から見て“営業妨害”に映ったのでしょう。猛烈な勢いでC氏に抗議してきたので、逆にC氏の怒りも沸点に。

「買った瞬間から事業として破綻しているような物件を買わせて、恥ずかしくないのか」と問い質すも、T社の営業担当者は、「そんなことはない」との一点張り。そこで、C氏が「それほど収益力に自信がある物件を紹介したとの自負があるのなら、自分で買えばよろしい」と切り出すと、予想通り「買いたいけど、買う資金がないし、僕には現時点では融資が下りない」だのと苦しい弁明を繰り返すばかり。

業を煮やしたC氏は、遂に「だったら、私があんたに貸してあげるから、買いなさいよ。但し、妻なり両親なり、あんたの親族を連帯保証人にするのが条件。必ず稼げるというならば、何も躊躇する必要はないのでは」と詰問したら、T社の担当者は尻尾まいて逃げて行きました。
「科学の世界では、この世のありようを理解しようとする。ビジネスの世界では、他人にこの世のありようを誤解させようとする」と言われることがあります。要は、数学や自然科学は、この世界がどのようなあり方をしているのかを追求する真理探求の営みだから、世界の見方については、それが「正しいか、正しくないか」が問題になります。

対して、ビジネスの世界では、「正しいか、正しくないか」は、悲しいかな、さほど問題にはならない。むしろ、「カモか、そうでないか」ということが眼目になることが多い。残念ながら、大手か中小かを問わず、多くの不動産会社に見られる実像です。

特に、金融業や保険業や不動産業は、そういう「ろくでなし」が最も多い。しかし、因果応報とはよく言ったもので、まわりまわって自分自身がカモにされてることに気がつかないという笑えるケースもあります。
高級車のディーラーやブランド品メーカーや保険会社にも山のようにいます。中には、怪しい投資話を持ってくる“なんちゃって投資家”もいます。

わかりやすい例が、ロレックスでした。数十年前は高級時計でも何でもなく、むしろ労働者向けの時計を製造していたロレックスは(年配の欧州人には、高級時計という認識はない)、金やらダイヤモンドなどの悪趣味な装飾を施すことでアジアの成金に大々的にセールスをかけて、そこに「極東の成金」が群がった。ロレックスはボロ儲け。メルセデス・ベンツも外資の保険屋も、そういうマーケティング戦略をとり暴利を得ていました。

今なら、さしずめ不動産テックをやりたいと思っている会社をカモにするビジネス。現に、大して役にも立たないちゃちなソフトをAIとして売り込んでいます。AIとは何かも知らない不動産会社が高額商品を買わされています。

いずれにせよ、儲けのカラクリがどうなっているのかを眼光紙背にして観察すると、誰がどういったところでカモにされるかがよくわかります。逆に、誰をカモにできるかもわかるわけで、そういう意味でも、「一歩引いて観察する」という視点が大事。
そういえば、YouTubeの世界も、カモとカモにしようとする者とが溢れていますよねぇ。顔を見ただけで詐欺師とわかるし、言ってることを聞くと、なおさら詐欺師という確信を抱くに至るようなYouTuberも氾濫しています。

やはり、「自分で捕まえた亀は、自分で食べよ」に徹しない者の言には懐疑的でないと、わが身を守れない世の中になっているのかもしれませんね。

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