"経営者が知らないエクセル・メールの隠れた影響" - アナログな貿易サプライチェーン業務が引き起こす財務インパクト

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貿易サプライチェーンにおける関係者間のコミュニケーションには、膨大な数のエクセル・Eメール・電話のやり取りで、年間一人当たり約500時間程の時間を費やしています。このようなアナログな業務は、単純に労力や時間を奪うだけでは無く、年商数千億円の企業であれば、年間約100億円規模のキャッシュフローが影響をうける原因となりえます。サプライチェーンにおけるリアルな業務に迫り、そこに潜む課題について解説してゆきます。

前回の記事では、貿易サプライチェーンにおける、関係者間のコミュニケーションが発生するメカニズムについてご説明しました。今回は、コミュニケーションを複雑にしている従来からのコミュニケーション方法と、それに伴う手作業に焦点をあて、その「深刻さ」と「引き起こされる問題」について考えてみたいと思います。なかなか語られることのない、サプライチェーンにおけるリアルな業務の姿に迫ります。
前回の記事をまだ読んでいないからはこちらから。→https://note.com/zenport/n/n932fa3ed2559

貿易サプライチェーンのコミュニケーションが煩雑な4つの理由
前回の記事でご説明した通り、サプライチェーンのコミュニケーションが複雑になる理由は、以下の4つの点にまとめられます。

- 発注・生産・輸送の各工程で、輸入者・輸出者・物流会社がそれぞれのデータを作成する
- 最終的に商品を届けるために、それぞれが作成したデータを結びつける必要がある
- 各関係者はデータを独自のフォーマットで管理している
- 生産スケジュールなどの変更がある度に、データの更新と結び付けの業務が発生する

これらの原因を踏まえて、コミュニケーションをより複雑にするアナログな業務について、実際の例を交えながらより詳しく見てゆきます。

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年間一人当たり500時間を費やすアナログ業務とは
まず前提として、私たちがアナログな業務と呼んでいるものは、エクセルやメール、電話などでコミュニケーションし、それに伴い発生する手作業のことを指します。データがつながっていないことによって起きる業務です。貿易サプライチェーンの世界では、通常は取引先との基幹システムは連携しておらず、企業間の連携やコミュニケーションはこうしたアナログな方法で行われており、これが大きな労力を引き起こしています。

この「アナログな業務」の中身について、実際の例を挙げて見てみましょう。

船積みのスケジュールや、最終的に出荷される商品の数量など、データの更新を行う際には、必ずほかの関係者、取引先に確認が必要です。たとえば、輸入者は輸出者に商品の最新の数量や出荷予定のスケジュールを確認します。

このように、他社にデータの共有を依頼する際は、担当者にメールで連絡します。すぐに返信が返ってくれば良いですが、相手がなかなかデータを共有してくれなかったり、担当者が不在である場合もあります。

その場合は電話をかけたり、メールで別の担当者へ連絡をとるなど、データが共有されるまでは、地道にフォローします。もしそこで、共有されたデータに不明点があれば、その箇所をエクセル内で分かるようにマークし、そのエクセルを添付したメールで、どの箇所の詳細を知りたいか、欲しい情報は何なのかを明記した上で送信、充分な情報が共有されるまで繰り返し対応します。

情報を入手できたら、今度はデータの結び付けが必要です。入手するエクセルは相手側のフォーマットで送られて来るため、自社で管理したい情報と結びつけなればいけません。たとえば、輸出者から商品の出荷数量が送られてきたら、納期を確認するために商品ごとにそれぞれの輸送便に紐付けしたり、あるいは発注残を確認するために出荷数量を発注数量に結び付けて、差分を見る必要があります。

ここでは、送られてきたエクセルの中から必要な情報を探し出して抜き出し、それを自社のエクセルフォームに落とし込む作業が発生しています。さらに、そこにある入荷予定などの情報をシステムに投入するCSVファイルを別に作成する場合もあり、その場合は他社エクセルから自社エクセルへ変換、その後にシステムへ反映するためのCSVファイルを更に作成、というプロセスを全て手作業で行わなくてはなりません。

しかし、これで終わりではありません。こうして時間をかけて、ようやくデータの結び付けが終わると、今度はチーム内に最新版のエクセルファイルをメールで共有。または、該当ファイルを保存した共有フォルダを参照する旨を書いたメールを送り、更新したことを社内外に伝える必要あります。これで終わったかと思えば、今度は船積みの品目変更の連絡が来て、また更新、結び付け、共有のサイクルを回さねばならない、ということもあります。

このように、更新を確認したり、変更の連絡を受ける度にデータの結び付け共有する業務が発生し、その度にメール、エクセル、電話などでのコミュニケーションと手作業が必要になります。たとえば、アパレル企業や生活用品などの場合、一か月あたり数百から数千の商品を輸入しており、これらの全ての商品に対し、発注から商品到着まで、データの更新と結び付け、共有を繰り返し、莫大なアナログな業務が発生しています。お客様へのヒアリングを基にしたZenportの試算では、サプライチェーン業務に携わる方々は、こうした業務に年間一人当たり約500時間を費やしています。

さらにここには、業務を真摯に行えば行うほど手作業が加速度的に増えてしまうという罠もあります。サプライチェーン業務をされている方々は、試行錯誤を経て緻密に作り上げたエクセルファイルを活用し、日々の業務を行なっていらっしゃいます。ただ、こういったファイルは、簡単な変更を加えるだけでも骨が折れるものです。日々起こるデータの更新と結び付けに完璧に対応しようとすればするほど、終わりのない修正作業に身を費やしてしまうことになってしまうのです。そして、本当はもっと前もって緻密に業務を進めたいと思っていても、ある一定以上の質では業務が回せなくなってしまいます。

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アナログな業務が引き起こす10億円、100億円単位でのキャッシュインパクト
メール、エクセル、電話などでのアナログなコミュニケーションと手作業が引き起こすのは、莫大な労力と、業務の質の制限だけでしょうか。実は、業務の質を上げられないことが経営に直結する問題を引き起こしていることもあります。

たとえば、在庫過多や在庫不足を引き起こすケースです。適切なタイミングでコミュニケーションが取れず、輸出者が予定外の商品を出荷してしまう、あるいは船積み後に予定通りに商品が出荷されていないことがわかる、という状況です。言うまでもなく、適切な在庫管理はキャッシュフロー管理の要であり、コミュニケーションの問題がキャッシュフローに悪影響を及ぼしていることになります。

日用品などを海外から輸入している、ある企業様では、納期調整が発注のスピードに追いつかず、輸出者が商品が用意できた順に随時出荷してしまい、納期前に大量に商品が届くことに頭を悩ませていました。通常は出荷日や船積日起算で支払いを行うため、納期より前に届き売れて代金回収するまで時間がかかると、大きく支払先行になってしまいキャッシュフローを圧迫します。

逆に、積まれているはずの商品が積まれていないと、発売日に商品を店頭に並べたり、その商品を使用した製造を開始することができず、予定していた時期に収入を得られずキャッシュフローを悪化させます。特に、輸入後に製造やアセンブリ工程が入る場合には他の材料や原料を既に入手しているため、その調達費用が大きく支払先行になります。

これらのキャッシュフローに与えるインパクトは、数百億円の売上規模の企業様で年間10億円単位、数千億円の売上規模であれば年間100億円単位の影響があってもおかしくありません。(*)

この金額だけを見れば、(キャッシュフローと費用という点では単純比較はできませんが)コミュニケーションが与えるキャッシュフローへのインパクトは、在庫過多によって増える在庫費用や、倉庫に入りきらない場合に支払うデマレージと呼ばれるコンテナ超過保管料の比ではないことがわかります。

(*)補足 
*年間売上高が4,000億円のアパレル企業で、仕入れ額の割合を売上高に対し約5割、仕入れ金額に対する直接買付け割合を約2割と想定した場合、仕入れ金額は年間2,000億円。その内、年間直接買い付け金額は年間400億円となります。このうち約4分の1が仕入業務のコミュニケーションで納期に問題がある場合には、年間100億円の運転資金を改善できる可能性があります。

サプライチェーンはライフライン
いかがでしょうか。アナログな業務、メール、エクセル、電話などでのコミュニケーションと手作業が引き起こす問題には、予想を超える複雑さとインパクトがあります。まとめると、以下の通りです。

- データの更新はメール・エクセル・電話などのアナログな手段に頼らざるを得ない
- データ更新の度にデータの結び付けとデータ共有が必要となり、その都度手作業が発生
*このフローには、約500時間も労力を費やしている
- アナログな業務は、リアルタイムで必要とする情報のやり取りを阻む
- 適切なタイミングでコミュニケーションを行えないことは、在庫管理に影響を及ぼす
- これがキャッシュフローを悪化させ、そのインパクトは数十億円、数千億円になることもある

新型コロナウイルスの影響を受け、生活様式に変化が起きる中で、モノやサービスがいつものように手に入ることが当たり前ではないことに気づいた方も多いのではないでしょうか。物流に携わる方々がいなければ、これからどんな画期的な商品が開発されようとも、その喜びや商品による便益を人々が享受することはできません。

特にアパレルや日用品など、輸入が事業の根幹である業種では、物流だけでなく商流をも包括するサプライチェーンの適切な管理が事業の要であり、そこが機能しなくなるとたちまち商売が立ちゆかなくなります。一見、当たり前のように運営できそうなサプライチェーンですが、お客様に商品を提供する上では、今回見たような業務が必要です。

これから到来するポストコロナの時代に向け、より効率的で持続可能、何より、携わっている方々がもっとストレスフリーにつながることができるサプライチェーンの必要性を感じて頂けたのではないでしょうか。

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株式会社Zenport
株式会社Zenportの提供するサービス”Zenport”は、貿易サプライチェーンで発生する複雑なコミュニケーション業務を50%削減するオープンプラットフォームです。
貿易サプライチェーンでは、輸入者、輸出者、物流業者など多様な関係者間でエクセル、メール、電話のやり取りが日常的かつ大量に発生しています。しかしこれまでは、主に限られた企業間の高額かつクローズドな連結システムでしかこれを解決できませんでした。
Zenportは独自の標準データ構造とインターフェースで、多様な関係者間でオープンかつ柔軟にご利用頂けるクラウドソフトを開発いたしました。これによりより多くの企業様に貿易サプライチェーンを速く機動的に運用いただき、在庫や生産の最適化を実現いただけます。
https://zenport.io/


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