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胎動のこと

いずれ忘れてしまいそうな、でも、忘れたくない日々のメモ。

妊娠中、制限も多く、心労も身体の負担もあり、ただただ幸せというだけではないけれど、身体の中に子を宿すというのは、とても貴重な経験で、特に象徴的なのが、胎動である。
個人的には1人目の妊娠中からこの感覚は忘れたくないなぁと思っていた。

初めて胎動を自覚したのは3月3日。おひな祭りの日だった。お腹の中を腸が動くような、でも自分ではないようなお腹の中のウニウニした感覚。
あれ?もしかしてこれって胎動?と急激にわかってからはウニウニした感じから中の人の成長とともにどんどんとその感覚は確かなものになっていった。妊娠して感じる胎動は快な時にも不快な時もある不思議なもの。
けれど、1人目の時は中にいた人が外に出てくると生活がガラリと変わり、あっという間に時が経って、この感覚は忘れ去ってしまった。

2人目の妊娠がわかり、胎動を感じた時、あー、こんな感覚だったと急に思い出して懐かしさを感じた。

お互いまだ顔も分からず、話したことのない相手、なのに確かにそこに私ではない何かが動いていて、急に愛おしさみたいなものを感じるから不思議だ。

2人目の胎動は1人目の経験から胎動だと理解するのが早かった。安定期に入った妊娠5ヶ月目、お腹の中でウニョッとした時には、コレは胎動だと悟った。

胎動を表す適切なオノマトペが思いつかないけれど、ウニウニ、ウニョウニョというのが初期の胎動に1番近い気がする。少しくすぐったいような、違和感。まだ、子を宿している母にしか感じられない胎動の時期。

そのうちに明らかにポコポコと何かに蹴られる感覚があり、ウニョウニョもだんだん、グニュグニュ、グリングリンに近い形に胎動は激しくなっていく。だんだんお腹の表面にまでその動きは届いて、母以外の外の人が触っても、何かが動いていると感じられるようになる。

あとは、定期的にドクドクとした感覚があり、最初は自分の心音が激し目なのか?!動悸がするとはこのことか?と心配したが、どうやら中の人のしゃっくりだった。1人目の記憶はあまりないが、2人目はあまりに頻繁に起こるので、ネットで調べた。同じように不安になる妊婦も多いらしく、沢山の同じような質問がネットには転がっていた。
胎児は20〜30分ごとに寝起きしているらしい。四六時中お腹の中で動いている感覚。
ちなみに、2人目は胎動が多め&激し目だと感じる。

妊娠6ヶ月からは前屈みの姿勢でパソコンに向かって集中していると、「狭い!」と言わんばかりに主張激し目にボコん!グニグニ〜という胎動があった。仕事中その度に、自分が妊婦であることを思い出し、ごめんごめん、と心の中で謝った。
よく考えたらおかしな話だ。これは私の体なのに、中の人は我が物顔で、貸主の私の方が謝っている。
こうした感覚がほんの少しずつ私を母に変えていくのかもしれない。

あとは妊娠7ヶ月ごろからはご飯を食べている時に決まって中の人の激しさを増した。
美味しいのか、はたまた「食べすぎるなよ(狭くなるではないか!)」という勧告なのか。
食べることが好きなのに、お腹いっぱい食べることはできなくなっていった。食べ歩きが大好きな貸主にあんまりの仕打ちである。

妊娠8ヶ月にもなると、外から見てもお腹がウニウニと動く様子が観察できた。
大きくなっていく中の人は気ままに動き回っていて、貸主のはずの私の身体への影響が日増しに大きくなっていく。
歩いている最中にも痛みを感じるくらいの激し目な胎動。
私の体なのにコントロールできないその動きを少しでも静めたくてお腹に手を当てる。
妊婦がお腹を撫でている行為は慈愛に満ち溢れた素敵な行為かと思っていたが、当事者になってみると、それくらいしか、もはやなす術がないのだと知った。

ボコボコと何かを蹴るような殴るような動き。
グニィーと皮膚が伸ばされ、何かが伸びをするような突っ張っているような動き。
グニュグニュ、グリンとしたダイナミックに身体の方向を変えるような動き。

妊娠後期に入ると、段々とグニィーと伸びをするような動きが増えてきて、その度にお腹の内側から皮を伸ばされるような、皮がつっぱるようなそんな感覚。
お腹に手を当てるとそこだけが硬く、明らかに何かがそこにある。間に皮膚や子宮の壁はあるが、直接的に触れあっているような、そんな感覚。
少し出っぱったその硬さをそっと撫でるとそれはスッと消えた。
ごめんよー、そろそろ狭くなってきたよね。
そう中の人に話しかけながら、愛おしさなのか、なんとも言えない感覚がじんわりと広がる。

妊娠9ヶ月を過ぎると、夜横になると激しくなる胎動になかなか寝付けなくなった。激し目の胎動に起こされることもある。
助産師さん曰く、身体が大きくなってくると、自分が動くと大量に酸素が必要になって母体に負担がかかるので、胎児は母体が横になって安静にしていることを感じて活発に動くようになるらしい。なので、胎児は夜型になるのだという。新生児がしばらく昼夜の区別がつかないで夜起きてくるのはそうしたお腹の中での家主への気遣い?のリズムのためだろう。

お腹の中の様子は胎動から想像するしかない。胎動があるから妊婦は自分の身体に別の存在を感じ、お腹を貸しているのだと自覚することになる。中の人の無事を感じて、安心する。同時に、中の人の性格までも想像し、胎動が唯一のコミュニケーションになる。

もう、臨月。この胎動を感じられる期間もわずかになってきた。
胎動に煩わされることもあるけれど、貴重なこの感覚を噛みしめて残りのマタニティ期間を過ごせたらと思う。

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