クルミとモモ


登場人物
寺田家
クルミ(20)大学二年生
モモ(15)高校一年生

○キッチン
   二人の姉妹が料理をしている。
   野菜を切っているクルミと卵をかき回しているモモ。
クルミ「モモ、殻入っちゃってない?」
モモ「入ってないよ」
クルミ「入っている」
モモ「どこ?」
   指差し
クルミ「それ、殻だよね」
モモ「ああ本当だ」
   クルミ、スプーンを出し
クルミ「これで取って」
モモ「ねえ、せっかくママ達居ないんだし、ピザでも頼もうよ」
   呆れて笑いながら
クルミ「ダメだよ。こういう時こそしっかりしなきゃ」
モモ「えー」
クルミ「それにモモがオムライス食べたいって言ったんでしょ」
モモ「自分で作るとは思わないじゃん」
クルミ「誰が作るの?」
モモ「……お姉ちゃん」
   クルミ、吹き出し
クルミ「作れるようになったほうがいいんじゃない?」
モモ「そりゃそうかもしれないけど」
クルミ、モモのエプロンの下の服を見て、つまみ
クルミ「モモ、これってパジャマじゃない」
モモ「うん? そうだよ」
クルミ「ダメだよ。そんな恰好で」
モモ「何で?」
クルミ「何でって、時計見てごらん。もう十一時だよ」
モモ「でもさ、家にいるのに着替えるのってわけわかんなくない?」
クルミ「わかるでしょ」
モモ「だってそれだけ洗濯物の量が増えるじゃん。今朝、お姉ちゃんも洗濯大変だったでしょ」
クルミ「だったら手伝ってくれればいいじゃん」
モモ「だって気づいたらやってたんじゃん」
クルミ「取り込むのはモモがやってね」
モモ「えー?」
クルミ「取り敢えず今は着替えてきて」
モモ「はーい」
   モモ、エプロンを外し出て行く。
   階段を上がっていく音を聞きながら、ため息をつくクルミ。
   居間でテレビがついている。
   クルミ、居間に行く。
クルミ「もう、ちゃんと消してよ」
   天気予報が放送されている。
天気キャスター「午後から関東一帯は雨となるでしょう」
   クルミ、窓の外に干されている洗濯物を見る。
   心配そうなクルミの顔。
モモ「お姉ちゃん」
   振り向くと、モモ、ワンピースを二着持って立っている。
モモ「ねぇ、どっちがいいかな? この間ママと買ってきたんだけどさ」
クルミ「家にいるんだからどうでもいいんじゃないの?」
モモ「いいからどっち?」
クルミ「その赤いの」
モモ「わかった、着替えてくる」
   モモ、また去っていく。
クルミ「ねぇ、テレビちゃんと消さなきゃダメだよ」
モモ「はーい」
   クルミ、テレビを消そうとすると化粧品のCMが流れる。
   見入ってしまうクルミ。
   炊飯ジャーの音が鳴り、クルミ、我に返り、キッチンに戻ろうとする   が、テレビの電源を消し忘れ慌てて消す。
   炊飯ジャーを開け、白米が炊けているのを確認する。
   米を皿に移していると、ワンピースを着たモモがスマホを見ながら    やって来る。
モモ「お姉ちゃん、私ご飯いらないや」
クルミ「え! 何で?」
モモ「友達が遊ぼうって」
クルミ「ご飯食べてからいけばいいじゃん」
モモ「もうすぐ集まっちゃうんだって」
クルミ「どうすんの? これ」
モモ「いいよ。私は」
クルミ「ダメだよ。それにその友達もどうかと思うよ。約束も無しに急に呼び出すなんて」
モモ「だって、急に遊びたくなっちゃうんだもん。そういうことあるじゃん?」
クルミ「無い」
モモ「お姉ちゃんは誰か遊ぶ人いないの? 友達とか彼氏とかさ?」
クルミ「いないよ! そんな人」
モモ「友達もいないの?」
クルミ「友達はいるよ!」
モモ「良かった」
クルミ「何でモモがそんなこと言うの?」
モモ「だってママも心配してたんだよ『クルミはあんな融通が利かなくて大丈夫か』って」
クルミ「それお母さんが言ったの?」
モモ「うん」
クルミ、俯く。
モモ「お姉ちゃん?」
クルミ「……誰のせいよ」
   クルミ、キッチンを出て行く。
モモ「お姉ちゃん」
   モモ、放置された食材を見る。
   居間に行き、ソファーに座り、電話を掛ける。
モモ「もしもし、みいみ? うん。ごめん、今日は行けそうにない。うん、うん」
   二階からドタドタと音がする。
   モモ、天井を見上げる。
モモ「ありがとう。じゃあね」
   鞄を持ったクルミが階段から降りてくる。
   モモ、駆け寄り
モモ「お姉ちゃん、どこ行くの?」
クルミ「出て行く」
   モモ、慌てて引き止める。
モモ「ちょっと待ってよ」
クルミ「離して! みんなで私のこと馬鹿にしているんでしょ」
モモ「そんなこと」
クルミ「そう言えるの?」
モモ「心配してたんだって」
クルミ「私をこんな風にしたのはお母さんなのに?」
モモ「?」
クルミ「モモは可愛い、可愛いって育てられたから知らないだろうけど、お母さんは私には厳しかったの」
モモ「そんな」
クルミ「私はいつもお母さんに言われたように生きてきた。口答えなんて許されなかったし、お母さんと服を買いに行ったことなんてない」
モモ「……」
クルミ「ママって呼び方も小学校にあがる時に変えさせられた。何で私ばっかり」
モモ「ごめん」
クルミ「別にあんたに謝って欲しいんじゃない」
クルミ、出て行こうとすると、モモが鞄を引っ張り、引き止める。
モモ「待って! 待って! オムライス食べるから!」
クルミ「離して」
   クルミ、突き放すと、モモが床に尻もちをつく。
モモ「ごめん! ごめん!」
クルミ、モモを見て苦渋の表情を浮かべる。
   何かに気づくクルミ。
モモ「お姉ちゃん」
クルミ「待って」
モモ「行かないでよ」
   クルミ、突然駆け出し、居間に向かう。
モモ「お姉ちゃん?」
   モモ、後からついていくと、外は雨が降っており、クルミが窓を開け   洗濯物を急いで取り込んでいる。
モモ「お姉ちゃん?」
クルミ「突っ立ってないで。早く取り込んで」
モモ「う、うん」
   二人で必死に取り込み始める。
   取り込みが終わり窓を閉めるモモ。
   クルミと目が合うと、二人同時に笑う。
クルミ「お腹空いたね」
(完)

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