探偵玩具デュエロイド
「なぁ、そこ退いてくれねぇかな」
塀の上。でっぷりと太った白猫を見上げて、オレは立ち往生していた。
猫は大きな瞳でじっとオレを睨んでから、大きな欠伸を一つ。
こいつらは基本的に、オレのような小さな玩具の言う事になど興味が無い。
「確か鉄斎……だったか? 頼む、近道なんだ」
名前を呼んでやると、鉄斎は少し驚いたようで目を見開くが、動きはしない。
無理に飛び越える事も出来るが、今は避けたかった。
電池が消耗している。有事に備えて、残量は減らしたくない。
(その心配も、ここを通れりゃ解決するんだが)
武彦からの依頼を解決すれば、新品の電池が手に入る約束だった。
迷子になったデュエロイドの捜索。既に目星はついていて、この塀の上を歩けばすぐにでも辿り着ける場所だというのに。
結局、オレは根負けして塀を飛び降り、遠回りすることにした。
鉄斎を説得するより、そっちの方が幾分マシだからだ。
目的の建物は、古いビルの二階。
監視カメラは人間用で、オレのようなデュエロイドの侵入は想定されてない。
足音が鳴らないよう注意しながら、オレは埃っぽい廊下の隅を進む。
潜入には慣れていた。子ども相手に探偵の真似事を始めて、もう二年は経つ。
だからこそ、蓄積されたメモリが警告した。
(なんか、ヤバい)
ビルは静かだった。人の気配もない。
好都合な筈なのに、居心地が悪い。
周囲を見回しながら角を曲がると、情報にあった部屋番号を見つける。
……そのドアは、開け放たれていた。
「おいおいおい!」
中に入ると、二機の狼型デュエロイドが両断され倒れている。
「ジ、ジ……」
メモリは破損していない。だがその意識は曖昧だ。
見れば、背中の砲台パーツは僅かに熱を持ち、煙を上げている。
「違法ハックか。ムカつくな」
ここが違法デュエロイドの転売拠点だと、調べは付いていた。
警備が置かれてる事も想定済みだ。……それが既に倒されている?
「遅かったな、野良」
声がして、回転刃が降ってきた。
【続く】
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