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判官びいき でしょうか? 名茶の条件

お茶やを始める数年前は日本の伝統的な食品や工芸品を海外に紹介することを考えていました。日本各地にいろいろな食材や調味料、工芸品があります。私は地域振興にとても興味がありそれは今も変わりません。

日本が誇る漆、味のある各地の陶器、独自の歴史の九州の磁器、金工細工や織物などの職人が分業していた昔の時代の技を保存し継承するには注文が入らなければ始まらない。国内で需要がなければ海外から注文を取ってくるしかない。そう考えたのですが、これが難問でした。

美術品という位置づけなら良いのですが、産業レベルで輸出するというのは実際には至難の技です。原因は食文化の違いです。日本の食器は百種類を超えますが、西洋料理や中華料理はせいぜい数十種類。日本が個食文化なのに対して、日本以外の国は大皿料理中心。そのため、どの器をどのシチュエーションで使うのかが、全く理解できない。理解できても、そのような料理を日常的に食べません。普段使いでも、来客用使いでも使わないものは買わないのです。私が日本茶を海外に出している理由は、裾野が広がり日本の良き伝統的な食器などの工芸品の存続の一助になれば良いと切に思っています。

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私が選んだ茶の産地もそうです。江戸期に交通量が急増した東海道以外は大きな産地にはなりませんでした。九州の産地は長崎の出島があったことから頑張っていたようですが。特に山間部の茶畑は栽培や茶摘みも大変で重労働です。しかし、銘茶の条件は世界の三大茶産地も同じです。セイロン島のウヴァ、インドのダージリン、中国のキームンですが、標高が高く霧が発生します。霧が発生することで渋みのカテキンが適度に抑えられ旨味成分のテアニンが増えます。さらに標高が高いことで寒暖差が生まれその成分をじっくりと蓄積していきます。ダージリンやウヴァは標高1000-2000mの産地です。日本の場合は、中緯度地域なので森林限界も栽培限界も低くなり、お茶の栽培は標高850mが限界と言われています。私が選んだ美濃白川という産地は日本で最も標高の高い産地で、さらに麓の川からの川霧が発生します。ワインの産地でぶどうを育てる土壌や気候などの環境条件をテロワールという言葉を使いますが、この場所は商業ベースの栽培の北限でもあり、まさに奇跡の天然のテロワールだと思っています。高級木材であるヒノキは木曽ヒノキまたは同じ山の西側は東濃ヒノキと言います。江戸時代に天領だったこの地域は奇跡のテロワールです。

他と標高を比較すると静岡の川根茶の産地が標高500-600mくらい、京都の宇治や同じ山の東側にある近江茶も400-500mくらいです。やはり銘茶ですね、有名ですし。標高が低い鹿児島や静岡の牧之原台地(標高約200m)は平坦なので機械化を行いやすいメリットがあります。単独の農家が大規模に生産して頑張っていらっしゃるところも多いです。一方で、山間部はなかなか機械化ができないので、みんなで協力しあって(つまり組合化して)生産しているところが多い印象です。非常に良い品質でも知らない人も多く銘茶ではなく名茶です。

兄の頼朝に滅ぼされた不遇な運命を持つ判官源義経に古来多くの人々が同情した「判官びいき」という言葉がありますが、地方振興に興味があるのも、生産が困難でマーケティング(特に海外販売)が弱い美濃の銘茶に片入れするのは判官びいきかも知れません。しかし、純粋にとても良いお茶なので日本だけでなく、海外の方にも広く飲んで楽しんでもらいたいと思っています。中国の緑茶だけでなく日本からも多くの安いお茶が大量に輸出されています。しかし、私のところは品質の良いものだけに限っています。直接海外の消費者に語りかけ、海外の卸業者にも品質が良いので安売りはしないという哲学を貫いています。成果が出たと自慢できるにはまだまだ遠いですが、少しずつ本当に良いものを誠実に協力関係を築きたいという海外パートナーの候補ができはじめました。まだまだ道半ばです。国内でも良い仲間を作っていきたいと思います。

ではでは。

続きは次回以降「出汁のお話」で触れます。



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