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インバウンドとオーバーツーリズムについて考える

はじめに

 コロナ禍後、観光需要が回復しインバウンド客が増えるにつれ、各地でオーバーツーリズムが問題視されるようになった。オーバーツーリズムとは、特定の観光地で訪問客の急増が地域住民の生活や自然環境、景観に深刻な影響を与え、観光客の満足度も著しく低下する状況を指す。今回は、各地の事例を紹介し、抜本的な対策について考察する。

日本の観光の状況

 インバウンド旅行者に注目が集まっているが、実際には日本人の国内旅行者が圧倒的に多く、消費額も高い。インバウンド旅行者は全体の10%程度、消費額は20%程度だが、日本人旅行者数は可処分所得の減少や将来の人口減少により減少傾向である。
 政府目標では、2030年にインバウンド旅行者が5,000〜6,000万人、消費額が9〜15兆円になるとされているが、現時点でも多くの観光地でキャパシティを超え、オーバーツーリズムが問題となっており、対策が急務である。また、日本人観光客をもっと大切にする必要性も指摘したい。

日本各地のオーバーツーリズムの事例

 観光地の混雑だけではなく、公共交通手段、タクシーの混雑、宿泊施設の価格高騰、ゴミ問題、私有地への侵入、景観破壊、マナー問題など各地で様々な問題が起こっている。

京都
 SNSで確認できる影響の一部として、「街中のゴミ箱に収まらないゴミが発生し不衛生な状況」、「ゴミをカラスが散らかす」、「バスが市民の移動手段として機能しない」、「バス停で人が道を塞ぐ」、「舞妓さん・芸子さんの追っかけや撮影禁止場所での撮影」、「神社や寺院がテーマパークのような雰囲気」、「行列禁止場所に早朝から人が集まり周辺に迷惑」といった問題があり、今後もインバウンド客増加でさらに悪化する可能性がある。
 筆者は伊豆、東京、京都で宿泊施設の経営や運営受託の経験があり、特に京都は宿泊業免許が取りにくい地域と考えている。厳格な住民説明会やフロント帳場の規定、スタッフの常駐義務など、他地域よりハードルが高い。しかし、悪質なブローカーや行政書士が許可を代行し、中国人が経営・運営する違法宿泊施設が急増しており、これらを利用する質の悪い旅行者を呼び込む問題が生じている。

富士山
 キャパシティーオーバーによる山頂の混雑、山小屋への無断宿泊、ゴミやトイレの問題や自然維持が困難になっていたり、麓でも撮影マナー違反による私有地侵入や交通渋滞を引き起こしていたり、軽装備による弾丸登山や入山規制期間に登山するなどルールを守らない外国人が増えている。

浅草
 筆者が住む浅草も浅草寺を中心に平日でも人が溢れ、行きつけの飲食店には行列ができて入れない状況である。また、住宅街に点在する民泊は騒音問題や路上での飲酒、ゴミ放置が問題となっており、台東区の厳しい民泊条例にもかかわらず、管理者が常駐していない違法運営が横行して、そのほとんどが中国人経営である。さらに、錦糸町〜日暮里間を結ぶ都営バス「都08」路線は元々乗客が多い上に、成田空港に向かうインバウンド客がスーツケースを持ち込み、住民に迷惑をかけている。

川越
 古い町並みと「時の鐘」で知られる埼玉県川越市を訪れるインバウンド客が激増しており、2023年の訪問者数が前年の約6倍になっている。蔵造りの町並みを通る県道は車の交通量が多く、歩道が整備されているものの、人が多くなると車道に人があふれる危険があり、このままでは大きな事故が起こる可能性があると心配されている。(二匹のねこ保守さんの要望で掲載)

北海道
 筆者の故郷である北海道は広大で元々観光客が多い地域だが、インバウンドの影響がここでも出ている。美瑛町では「青い池」でのマナー違反や観光スポットの私有地への侵入による農作物への影響が問題となり、またアップダウンが多いため自転車事故も多発している。ニセコは外資の乱開発で外国人が増加し、スキー場の混雑や交通渋滞地価、家賃の上昇、物価高も顕著で、富良野も外資の乱開発が計画され、同じ道を辿ろうという状況にある。函館ではロープウェイと市電が混雑し、待ち時間やマナー違反が頻発し、市民から苦情が寄せられている。今年のGW中の函館山山頂では、観光客が溢れ、ロープウェイの待ち時間が最大80分に達したとのこと。

オーバーツーリズム対策

 政府や観光地を抱える自治体は対策に乗り出そうとしている。観光庁は3月にオーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた対策パッケージを取りまとめたが・・・文字数が多すぎてわかりにくい。官僚のプレゼンってなんでこんなに1枚に詰め込むのか? Appleとか見習って欲しいものだ。
交通対策、観光地の来客総量規制、混雑の可視化、マナーの啓蒙などというところか。各地の例を挙げてみる。

観光庁より

交通対策
 京都市では2023年9月にバス一日券の販売を停止し、今年6月から土日・祝日に限り「観光特急バス」を運行開始した。このバスは京都駅と清水寺、祇園、銀閣寺などの主要観光地を結ぶ路線で、最大20分短縮される所要時間で、料金は通常の市バスの2倍の大人500円となっている。市民と観光客の利用を分ける狙いがあるが、バス増便による道路混雑と渋滞リスクについての懸念がある。

 また、鎌倉、箱根、京都、美瑛町などの観光地では周辺の駐車場を整備し、一般車両の観光スポットへの乗り入れを制限する「パークアンドライド」を実施し始めている。

利用料・来客総量規制
 富士山の山梨県吉田ルートでは、7月1日から登山者に対し通行料2,000円と1日の入山者上限を4,000人に制限する新規則が導入され、これに伴い、Japan ticketというサービスを通じて予約と支払いが必要になった。
 静岡県側も今夏より須走、御殿場、富士宮の3ルートでウェブ登録システムを社会実験として導入し、登山者は事前に専用サイトで登山日程や宿泊情報を登録を始め、登録内容は各ルートの拠点で確認され、宿泊予約のない場合は午後4時以降の入山を自粛するよう呼びかける。
 それぞれの対策でどの方法が適切か探っていくものと思われる。

 富士山と同じ世界遺産に指定されている姫路城がある姫路市長は6月18日に外国人観光客の入場料を日本人の4倍程度にする検討をしていることを明らかにした。

見える化
 川越市では観光地周辺の駐車場や商店街の混雑状況を見える化して公開し、混雑解消を目指したり、美瑛町では私有地や危険な場所にAIカメラを設置し侵入すると警告が流れる啓発活動を始めている。

開発規制
 倶知安町は2023年10月に、リゾート開発を環境や景観と調和させる開発規制条例を町議会で可決され、新設宿泊施設の規模制限や緑地確保の義務が設けられ、ニセコ地域の大規模開発に一定の制約が課されることになる。

海外の対策例
 海外の観光地でもオーバーツーリズムが問題となり、対策が講じられている。ハワイのダイヤモンドヘッド、オーストラリアのケアンズ、イタリアのベネチアでは、入場制限や事前予約、入場料の値上げ、観光税が行われている。オランダは民泊の営業制限や課税を、スペインは高級ホテルの誘致を通じて観光の質向上を目指している。しかし、これらの対策は抜本的ではなく、成果には結びついていない。

筆者が考えるオーバーツーリズム対策とは

 観光地の自治体や政府は対策を講じているが、海外の事例を超えるものはなく、効果には疑問がある。
 筆者は、インバウンドは量より質を目指すべきで、それが消費額向上と富の海外流出防止につながると考え、いくつかの踏み込んだ対策を考える。

インバウンド入国税及びESTAの導入
 短期滞在者(数次ビザ含む)から入国時に1万円程度の入国税を徴収することで、年間数千億円の税収増が見込まれる。この税収の一部を観光地の整備やオーバーツーリズム対策の財源に充てルコとができる。また、アメリカのESTAのような事前登録を導入し、クレジットカードを登録して犯罪や条例違反、損害賠償時に自動引き落としが可能にし、観光ビザでの入国時に「難民申請しません」とチェックする項目を設け、不法入国を防ぐ。

市中免税の原則廃止
 諸外国並みに免税は空港免税店以外は原則廃止し、市中では百貨店やハイブランド直営店のみに限定し、払い戻しは空港カウンターのみとする。家電量販店、ドラッグストア、中古ブランドショップは海外の転売業者の購入が主なため、これら市中の店は免税対象外とし、質の悪い観光客を抑制する。また、地方で減少傾向にある百貨店業態を保護する目的もある。

宿泊施設の規制
 大手ホテルチェーンはインバウンド向けの販売数量を制限し、日本人とインバウンド向けの価格を区別して日本人観光客やビジネス客が利用しやすいように規制すべきで二重価格ができない場合はインバウンド宿泊税を導入する。
 また、違法運営民泊やホテル対策としてGメンを設け摘発を強化し、さらに、海外OTA(Booking.com、Trip.com、AirBnBなど)は違法運営民泊や白タクの温床であり、利益が海外に流れるため、これらは日本のOTAの代理店としてじゃらんや楽天トラベルなどで販売してるものを多言語化のみ行い取次だけに規制する。
(OTAとはインターネット上の旅行代理店を差し、日本ではじゃらん、楽天トラベルなどを指す)

インバウンド税、インバウンド客向け入場料導入
 インバウンド客に対しては免税より消費に対し課税すべきと考える。また、観光地の入場料も姫路城で検討されているような方法にすべきである。

多言語表示の廃止
 駅や道路などの表示は日本語と英語のみにする。はっきり言って見づらく咄嗟の時には困る。

旅行業界の待遇改善
 旅行業界は他の業界より給料が極端に安く、休みも不定期で、「やりがいの搾取」的な業界であり、これを改善することにより、サービス向上に繋がり質の高いおもてなしにつながる。

自動化の推進
 バスの運転手やホテルのスタッフを増やすのは非常に難しい状況で、規制を緩和してこれらの自動化を進めるべき。バスの自動運転、ホテルのフロント業務、AIを使ったコンシェルジュなど自動化して、省人化した分、人をおもてなしに振り向けるべきである。

インバウンドに期待できるのか

 6月25日、日経新聞によると訪日客消費、年7兆円に拡大 自動車に次ぐ「輸出産業」になると言う。

 インバウンドが今後の日本経済の柱となり、2024年1〜3月期の消費は年換算で7.2兆円と10年で5倍に拡大し、これは自動車に次ぐ規模で、日本の輸出はモノからサービスにシフトするとの事。

 果たしてこれは本当なのだろうか。特に中国人観光客に関しては日本が恩恵を受けないことが多い。中国現地の予約サイトを介して、中国人経営の宿泊施設を予約、空港からは中国人の白タクを使い、レストランは中国人経営の食べ放題に行き、中国人経営の免税店で買い物し、決済は全て微信支付(WeChatペイメント)。
日本には観光公害だけ残して恩恵は皆無である。これが現実である。
 いくつかのリンクをシェアする。
話題になった箱根のホテルや帰化した中国人が参議院出馬を目論んでたバス会社や銀座の中国人団体御用達の食べ放題などです。ここのリンクの中国人たちは当然繋がってます。

 2022年の日本の産業別労働生産性を見ると、旅行業の労働生産性は非常に低く、自動車の約16%、半導体・電子部品の10%以下である。これが観光業の成長により、他の産業から移動した場合、GDPに1,000億円単位の減少をもたらすことを示唆する。低い労働生産性は賃金の低下にもつながり、日本全体の平均賃金の押し下げに影響を与えている。宿泊・飲食サービス業の付加価値は十分な成長を遂げておらず、その基幹産業としての機能を果たすには至っていないと考えられる。

内閣府 国民経済計算より作成

 また、インバウンドはパンデミック、対外関係、国際問題によってスイングファクターが大きく、過度な期待は禁物であり、日本人の国内旅行者のおまけ程度と考えるべきである。

まとめ

 今後増えていくインバウンドに対応するためオーバーツーリズム対策は、現在行われているものに加え、さらに一歩踏み込んだ対策が必要で、量より質を目指すべきである。また、再エネやBYDのEVのように海外に富が流出している状態でこれを日本の富に変える必要がある。旅行業は他の業界より極端に労働生産性が低いため、待遇や労働条件の改善が求められる。

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