記憶

 夜8時ごろ、コンビニに行くためにマンションのエントランスを抜けた時、視界の隅で自転車に乗った子どもの影が走って行く様子が一瞬見えた気がした。あれ、と思って振り返ったが、そこにそんな子どもの姿はなく、かつてこのマンションの子どもたちが勝手に自転車置き場にしていた、ささやかな空きスペースがいつもと同じようにあるだけだった。昔はこのマンションも子どもが大勢いて賑やかだったが、今はもうすっかり全員大人になってしまったため(私はいつもこのことがうまく信じられない)、昔は色とりどりの小さな自転車がずらりと並んでいたこのスペースにも、今はすっかり汚れを被って輪郭がぼんやりとした、忘れられた2、3台の自転車がただ佇んでいるだけだった。


 私が見たのは、同年代の誰かの記憶か、私自身の記憶の幻か。

 はたまた、マンションの昔の記憶なのかもしれない。

 忘れられた自転車たちの昔の夢だったのかもしれない。


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