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70年代、King Crimsonの紅い呪縛‼

ロックにプログレ(プログレッシブ・ロック)というジャンルが出来て、50年になろうとしています。このようにプログレと言われる以前は、アート・ロックとかサイケデリック・ロックという言われ方をしていました。この呼称は60年代半ばあたりからでした。60年代になり、「ロックンロール」から「ロック」へと変貌し、様々なアプローチによりロックのジャンルが増えていった時期でした。この「プログレッシブ・ロック」というジャンルは、ロックの方法論を「ロックンロール」をベースとしないアプローチでもありました。クラシックやジャズからのアプローチによるロックの再構築でした。これらのバンドも、スタートはリズム&ブルースのコピーから始まっていましたが、新しい機軸を打ち出し音楽性の差別化による先進性を競う段階になっていったのです。今回は、King Crimsonについて考察します。

まず、最初に取り上げるバンドはKing Crimson(深紅の王)になります。1stアルバム『クリムゾン・キングの宮殿』('69)で鮮烈なデビューを果たしましたが、この1作でバンドは空中分解し、バンドは解散状態になります。
紹介する曲「エピタフ」には、当時の時代背景「米ソ冷戦」と泥沼化する「ベトナム戦争」と政治経済に行き詰った英国社会が歌詞の根底に流れています。
この歌の冒頭、「混乱が私の墓碑銘」という一節があまりにも有名です。

混乱、私の墓にはそんな一言が刻まれるのだろう
ひび割れ、崩れた小道を這いながら。
乗り越えられたなら、私たちはくつろぎ笑っていられようが
私は明日を恐れ、嘆くことだろう
そう、明日を恐れ、嘆くことだろう
ああ、明日を恐れ、嘆くことだろう
 
暗く重い歌詞とダウナーな旋律が、アルバムの世界観に引きずり込まれていきます。聖書の『ヨハネの黙示録』が想起されますね。
曲は「King Crimson - Epitaph(墓碑銘)」

リーダーのロバート・フリップは2作目の為に、脱退したメンバーをスタジオ録音の時に呼び戻し『ポセイドンのめざめ』を制作しました。これはアルバムを2作創るという契約上の理由からでした。そして、なぜメンバーは脱退していったのか?それは、アルバムの重いコンセプトとツアー疲れでした。メンバーはもっと明るい曲を演奏したかったのと、ロバート・フリップの完璧主義にも付いていけなかったのが真相です。この2作目をリリースした後、再びバンドは解散状態になる有様でした。そんなわけで、クリムゾンの2期目はメンバーが固定できない状態が続きます。この1stと2ndはペアレント・アルバムよ呼ばれ人気の高いアルバムになっています。また、Voを担当していたグレッグ・レイクは、このアルバムが完成する前に抜けて、キース・エマーソンとEL&P結成に向けて行動を起こしていました。そのVoの穴をゴードン・ハスケルが埋めていました。改めて、このアルバムを聴き返すと1stの流れを引き継いでおります。
曲は「King Crimson - In The Wake Of Poseidon(ポセイドンのめざめ)」

本来ならば、サード・アルバムの『LIZARD(リザード)』と4枚目の『ISLAND(アイランド)』を紹介しなければならないが、あまり愛着がないので割愛します。

続いて紹介するアルバムは、6作目『Larks’ Tongues in Aspic(太陽と戦慄)』になります。このアルバムはメンバーを総入れ替えして創った、意欲作です。このアルバム・タイトルを直訳すると、「ヒバリの舌のゼリー寄せ」となり、この「タイトルは何?」という風になりますが、日本ではアルバム・ジャケットからインスパイアされて「太陽と戦慄」に落ち着きました。
余談になりますが、当時メンバーの一人だったジェイミー・ミューア(パーカッション)との会話で、このフレーズが出てきて、語感を気に入ったフリップがアルバム・タイトルに決めたという逸話が残っています。因みに「ヒバリの舌のゼリー寄せ」とは、中国の宮廷料理の一品です。話が脱線しましたが、このアルバムからバンドの本領が発揮されていきます。
曲は「King Crimson - Larks' Tongues in Aspic Pt. II(太陽と戦慄パート2)」

続いて紹介するのアルバムは7作目となる『STARLESS AND BIBLE BLACK(暗黒の世界)』(’74)です。このアルバムはスタジオ録音とLIVE音源を使用する珍しい作りになっています。フリップはLIVEの緊張感をアルバムで表現したかったようですが…。この頃からメンバー間で、LIVEセッションで激しく火花が散るようになり、バンドの疲弊が始まっていきました。
曲は「King Crimson - Lament(人々の嘆き)」

そして、最後に紹介するアルバムが、8作目『RED(レッド)』('74)です。このアルバムの発表後、バンドは突然解散してしまいます。つまり、火花が散るようなLIVEツアーにより、フリップ自身がバーンアウトしてしまったのです。若いメンバーであったVo/Bのジョン・ウェットンとDmのビル・ブラッフォードは、路頭に迷う事になり、その後の二人はバンドを渡り歩く事になります。70年代後半に二人は「U.K.」というバンドを組みますが、音楽性の違いから直ぐに空中分解してしまいます。その後、ジョン・ウェットンは80年代に入って「Asia」を結成して大成功を収めます。そして、ビル・ブラッフォードの方は再結成した第4期「King Crimson」へ参加していきます。
曲は「King Crimson - Starless」

「エピタフ」から始まったクリムゾンは「スターレス」でいったん幕を閉じます。ロバート・フリップはバンドで何を目指していたのか?彼は、ジャズの即興演奏をLIVEに持ち込もうと悪戦苦闘していたのです。この3期のメンバーになるまでは、意思疎通の取れないメンバーに限界を感じており、メンバーの総入れ替えで、彼の目指した音楽の到達点が『RED』であったとも言えます。このアルバムの裏ジャケットには「レッドゾーン」を超えたメーターが暗示的に使われております。この後、フリップは10年という長い沈黙期間があり、彼が燃え尽きて再びシーンに戻ってくるまでのリハビリ期間でもありました。
このピート・シンフィールドが作詞した「エピタフ(墓碑銘)」から5年、幕を閉じる「スターレス(星の無い闇)」に至り、救いの道はなかった。

Ice blue silver sky           青く凍てつく白銀の空
Fades into grey            灰色へと色褪せていく
To a grey hope that all yearns to be  幾年も渇望した望みも灰色に色褪せ
Starless and bible black                      それはただ星ひとつない 聖書の闇

今回、改めてKing Crimsonの哲学的な世界を俯瞰してみて、この黙示録的な世界観は現代社会を見通しているとも言えます。つまり、聖書の福音は現代では通用しないという暗示とも取れます。それは、現在の世界情勢を見れば明らかです。
個人的には、クリムゾンは第3期で完結しており、それ以降のクリムゾンはフリップのオーナーバンドになってしまい、あまり食指が伸びないのが本音です。

それでは、この辺で…

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