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【読録】天蓋の花

宮尾登美子女史に関して、詳しいわけではなく。
単純に『剣山』に登るリフトのアナウンスで耳にした名前を覚えていたのが1st-Contact。

「剣山は宮尾登美子原作『天蓋の花』にも採り上げられ…」の下りが耳に残っており、帰宅後、ゾンアマさんで文庫本を取り寄せて読んでみた。

実はこれ。1999年にNHKドラマとして放映されていて、主演:須藤理彩。お相手のカメラマン役:東幹久。うーん、濃いぃカンジが漂います。

東幹久だろ?関東連合の…。(こら)
それに「深夜食堂」のシャケ茶漬(須藤理彩)が主演。わざわざ探し出して見るまでもないか、いや、あえて観てみたい。

未だに観ることができずにおります。(1997年11月06日・13日放映)オンデマンドでもなんでも良いから放映していただきたい。

徳島県三好郡東みよし町界隈

作中、主人公の「平 珠子」が養護施設から神社の娘として養女になる、という設定。本作あとがきで、作者の宮尾登美子女史が1958年に高知県社会福祉協議会に保育係として勤務したことが背景にあるゆえ、と記されていた。

1926年(大正15年・昭和元年)生まれの宮尾女史…32歳での勤務。世間的にも良識や常識を兼ね備え。昭和32年は戦後復興を成し遂げつつあるも、地方独自の貧困や因襲に縛られた声なき声が聞こえてきそうな年代でございます。

ともあれ、往時の勤務時に見聞・体験した事象が本作のベースにはあった…と。

養護施設で育った平珠子(須藤理彩)は中学卒業を機に徳島県剣山の山中にある劔神社宮司の白塚国太郎(菅原文太)・すぎ(久我美子)夫婦の養女となり巫女としての生活が始まる。

《 ドラマ『天蓋の花』プロット・from Wikipedia 》

『天蓋の花』が発表されたのは1997年の徳島新聞、新聞小説での連載(1996年8月25日から1997年2月23日)。

剣山に登る時、珠子が居たとされる養護施設があるとおぼしき場所まで車で赴いておりました。(徳島県三好郡)

東みよし町・加茂の大クス

三好郡東みよし町加茂にある大楠界隈、東に進むと…つるぎ町。大凡この吉野川河畔にて養護施設から、劔神社宮司家の養女となることについて養護施設仲間の女の子と会話をしたシーンが、あったんだろうなぁ…とイメージしつつ写真を撮って歩いたのを思い出します。

東みよし町・吉野川河畔

ここまでくると、むしろ『天蓋の花』ストーカー的な。(笑)

剣山・夫婦池
(作中、この池のほとりで国太郎と珠子は休憩します)

本作では東みよし町の隣町、つるぎ町から珠子が養父となる白塚国太郎宮司と共に、モデルとなった劔神社までの道のりをけなげに歩いて登る道程が丁寧に描かれています。

何度か宮尾センセイも当地に足を伸ばしたこともあるんでしょうけど…。

『さわやかな月光の花は 凜として気高い』
by 宮尾登美子(文学碑…ですな)

まあ、山の中でございます。普通車で上り下りはできますが…奈良県内3桁国道に引けを取らない四国山中の細くて勾配のきつい舗装路でございました。バイクで行け、バイクで。(汗)

山に住むのは白塚夫妻、測候所の職員、夏季に山小屋を営む佐川一家だけ。
電気も通らず訪れる者もほとんどない、さびしく厳しい生活ながら、山に咲く花々は珠子のなぐさめだった。

白塚夫婦の愛情、測候所職員の吉田(綿引勝彦)、山小屋を営む佐川(田山涼成)とその家族に温かく見守られ、珠子は成長する。珠子も実の親同様に白塚夫妻に尽くす。

しかし雪崩で吉田が遭難、病気がちだった母・すぎが相次いで亡くなり珠子は山での生活に疑問を感じ始める。

ある日、山中で倒れている男を発見した珠子は必死の思いで神社まで男を運ぶ。男は東京からキレンゲショウマを撮影に来たカメラマンの久能(東幹久)だった。

《 仝上 》

余談ですが。
フォークシンガーの高田 渡氏。父親が労働系の作家志望だった頃、かの「宇野千代センセイが書かれたという著作のゴーストライターをしたことがある」と、うそぶくのが自慢の種だったといハナシ。自著「バーボン・ストリート・ブルース」で触れておられます。
(宇野千代…表記はなかったかしらん)

東京や大阪、大都市に住む作家センセイが、地方を採りあげた作品を記す上で。現地に赴くこともなく幾作かの著作に、自分自身ではない方の作品を(とりもなおさず、自分が書いたと思われるぐらい作風の似た人でなければならんのでしょうが)自分自身の作品として世に出すことも…あったのか、なかったのか。

定かではないのですが、仮に在っても…それはそれで良い様に思うのです。

そういう需要もあるんなら、書けるヒトに自分の名前で書いて貰って自信を持ち、やがて正真正銘ジブンの作品で世にでられれば、(食べるためになら尚更)これはこれで良いことをした、ということになるまいか。
(ならんか、ならんな(笑))

本作舞台となる「劔神社」

珠子の看病を受け、養生を続けるうちに互いは次第に惹かれてゆくが、久能には東京に妻(白島靖代)がいた。

妻と離婚同然の状態の久能は、きちんと離婚をして再び剣山に来ることを誓い、東京に戻る…。珠子は佐川の息子、典夫(山本太郎)から執拗に求婚され一度は傾くが断る。

久能との出会い、別れ、再会。キレンゲショウマをはじめ、剣山に咲く花に囲まれた無垢な少女の成長を描く。

《 仝上 》
久能の妻を、このアングルで珠子は迎える…。

養女になって山での暮らしにも慣れ。ふと、助けて恋に落ちた男性が妻子持ち。別れることを良しとしない妻が剣山まで訪れて、旦那とデキた若い娘と繰り広げる恋の行方は果たして…。という本作の内容。

1999年頃にはもう、不倫よろめき系統の作品を受け容れる風潮ってあったのかねぇ…と、思いつつ。迷走する宮尾センセイのワールドがどっぷりと繰り広げられて参ります。

恋のアドレナリン、付き合い始めて3ヶ月で大半の分泌は終わるそうです。(ヘレン・フィッシャー女史によると4年となりますが)あとはもう、一緒に住むか家庭をつくるか…恋の行く末としての未来を目指して進むことができるか否かで、恋愛の形は千差万別。

三ヶ月なり四年なりを経てのち。結婚は恋愛の結果ではあっても、その時点で付き合い始めてブンブン脳内物質が分泌されてたココロの状態ではない、というハナシ。やっぱ「生活」まる込でお相手と共に過ごすのは「恋愛」だけでは括れないんでしょうな。

養女に迎えた白塚家に於いては…悲劇の恋愛。妻も亡くなり、けなげに娘として努める珠子が抱くはじめての恋愛を、養父は応援もしたかったことでしょう。

まぁ…神職ですからねぇ、養父。
道ならぬ恋を推してまでは二人の仲を認めるわけにもいかねーか。聖職者としての矜持。巫女である珠子もまた同じ。

劔神社社務所・参籠所
(作中では、こちらが珠子の暮らした場所になります)
劔神社簡易宿泊所
(剣山登拝の方々用にお篭もりのできる宿所です)

さて。
本作で採り上げられる「剣山のキレンゲショウマ」。花の季節は夏場だそうです(ちょうどお盆の直前ぐらい?)。

剣山は双耳峰。太郎岌󠄂と次郎岌󠄂が相対して屹立しておりますけど…実際はリフトにて9合目まで登ることが可能。初心者には優しい百名山。わけても山中に咲くキレンゲショウマが著名。

次郎岌󠄂より太郎岌󠄂を望む
山頂より遙か三嶺方面
太郎岌󠄂から次郎岌󠄂への峰渡

先にご当地を訪れてから8年。今年こそはキレンゲショウマをこの目で見てみたい…そんな令和4年でございます。

宮尾センセイ、2014年御帰幽。
「天蓋の花」…読ませて戴きました、ありがとうございます。(合掌)

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