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『エクソシスト』 テーマ音楽「チューブラーベルズ」が有名。恐怖の本質は不安、懐疑にある。

評価 ☆☆☆☆



あらすじ
イラク北部。遺跡の採掘を行う老神父のメリンは、忌だつ顔をした偶像を発見する。メソポタミア文明の神話に登場する悪魔パズズだった。アメリカのジョージタウン。女優クリス・マクニールは娘のリーガン、家庭教師のシャロンと暮らしていた。最近、マクニール家では夜中に屋根裏で変な物音がしていた。



ウィリアム・フリードキン監督が70年代に放った傑作は『フレンチ・コネクション』とこの『エクソシスト』だろう。『エクソシスト』は1973年公開。リンダ・ブレア、エレン・バースティンなどが出演している。ホラー映画の傑作として知られている本作品は、40年以上経過してみると古臭い感じは否めないのは事実。だが、いまもなお輝きを放っているシーンは随所に見られる。



映画には多くの実験的な試みがなされていた。特に悪魔との戦いが行われるベッドでの撮影ではライティングに細心の注意が払われている。小さなライトをいくつも使い、どこから光が入っているかわからないよう空間を演出している。



また悪魔の声は逆回転で聞くと意味が通るようになっているらしい。しかも、わざと紛れ込ませた蜂の羽音の中には意味不明な呪文をミックスさせている。サブリミナルカットも数多く使われている。何かに取り憑かれているのでは? と疑うほどに凝りに凝っている。メインの音楽はマイク・オールドフィールドの「チューブラーベルズ」。この威力は凄い。



現在では禁止されているサブリミナル手法だが、この映画ではふんだんに使われている。このあたりに関しては「メディア・セックス」などの本を参考にするといいかもしれない。



何度か観直して本当に怖いと思わせるのは、実は悪魔が登場していないシーンであることでも知られている。医者が無表情にリーガンを診察し続けるが原因がわからないという怖さ。夜、家に帰ってくると蛍光灯が切れかかっているという怖さ。悪魔と対峙するはずの神父が大きなトラウマを抱えている怖さ。それらは観客の実体験をふと想起させる。



懐疑、迷いことがこの映画の本質だ。人々が本当に怖いと思うのは疑惑なのだ。「なにかおかしいのではないか?」という疑問こそが本当に怖いのだ。『エクソシスト』はそのことを十分すぎるほど我々に見せつける。同時に、文字通り、起こってほしくないことが次々と現実となり、観客を恐怖の底に叩き込む。





180度顔が反転する有名なシーンがある。これなどは「あり得ない」と失笑してもいい。だが、観客たちの笑い声はどこにも聞こえない。あるのは懐疑だ。「あり得ない」ことを「もしかしたら、世界のどこかにあるかもしれない」という不安なのだ。





何より我々が怖いのは、自分の子供が悪魔に乗り移る、あるいは原因がわからないままに不幸になるという不安だろう。その意味では監督は容赦なく12歳という少女に悪魔の演技をさせる。リンダ・ブレアもそれによく応えた演技をしている。



恐怖の真実が不安、懐疑にあるという図式を映像で示した『エクソシスト』。映画的に秀逸だといえるし、この頃のウィリアム・フリードキンは、まさに神懸かり的だった。いや、悪魔懸かり的だったのだ。



初出 「西参道シネマブログ」 2013-8-25



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