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『シン・レッド・ライン』 タイトルのの「狭く赤い境界線」という意味は? 美しい自然の中で行われる殺し合いは「答えのない質問」である。

評価 ☆☆



あらすじ
太平洋戦争中、ソロモン諸島のガダルカナル島で、アメリカ陸軍の隊員であるウィットは逃げ出し、現地メラネシア人と交流を持っていた。戦うことを嫌い、静かに死にたいと考える彼にとって彼らと過ごす日々は心地良いものだった。そこへ一隻の哨戒船がやってきた。



映画は単なる見世物なのか、それとも芸術なのか、それらとはまったく別の何かなのか。なかなか興味深い論争だが多くの観客は「映画は楽しければいいのさ」と思っている。そういうひとにはお勧めできない。それが『シン・レッド・ライン』である。テレンス・マリック監督の3本目の映画である。



テレンス・マリックは変わった経歴を持っている。ハーバード大を主席で卒業。その後、『地獄の逃避行』、『天国の日々』を監督。世界から脚光を浴びたが20年間映画を撮影しなかった。久しぶりに撮影したのが、この作品である。



『シン・レッド・ライン』は1998年公開の映画で、出演はショーン・ペンとジム・カヴィーゼル、音楽はハンス・ジマー。ちなみに翌年のアカデミー賞で作品賞を含む7部門でノミネートされたが、無冠。その年の作品賞は『恋に落ちたシェイクスピア』。あの悪名高きハーヴェイ・ワインスタインが制作している映画だった。これがアメリカ映画界の実情だったのだ。



普通、戦争映画のリアリティというと、エモーショナルな部分だけが取り上げられる。しかし、実際の戦闘はエモーショナルなだけじゃない。どんな血なまぐさい場面でも、風がそよぎ、涼しく雲が流れる。そんな中で殺戮や戦闘が行われる。



そこには人間のあり方に対する疑問が沸いてきても当然。ラスト近くで使われているのは、チャールズ・アイヴズの管弦楽曲「答えのない質問」である。まさにこの映画にぴったりの音楽。それにしても、なんという美しい映像だろう。



タイトルの『シン・レッド・ライン』は細く赤い境界線という意味だ。これはいったい何のことか? 狂気と正気の間にある境界線のこと、戦争を行う国と国にある国境、いろいろと考えることができる。しかし、マリックはその結論を見せようとしない。



映画の設定となっているのはガダルカナル島の戦い。主人公たちの敵は日本人である。さすがに日本人の自分としては複雑で微妙な感じだった。戦争に本当の意味で勝者、敗者など存在しない。それはわかっているんだけどね。でも本当に微妙な印象を受ける映画だ。年齢を経て、もう一度観てみたい気もする。



初出 「西参道シネマブログ」 2005-11-20



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