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『インサイド・マン』 映画として面白くない。スパイク・リー監督独特の社会批判がない。

評価 ☆☆



あらすじ
マンハッタンの信託銀行支店に4人の銀行強盗が入った。4人とも同じようなつなぎを着てマスクとサングラスで顔を隠して、銀行内にいた50人を人質にして立てこもった。ニューヨーク市警のキースとビルは上司からこの事件の担当を言い渡された。



「世界のすべてを描いてみたい」と考えるのはクリエイターの本質的な欲望らしい。作家や映画監督の多くがこの無謀な挑戦を試みる。うまくいくことはまれなのもわかっているはずだが、それでも挑戦している。病気みたいなものだ。



2006年公開の『インサイド・マン』はスパイク・リー監督による全体小説的作品といえるかもしれない。銀行強盗という使い古された素材をうまく利用しながら、アメリカの持つ差別、階級社会そして金と欲に関する人々の欲望を描こうとする。出演はデンゼル・ワシントン、クライヴ・オーウェン、ジョディ・フォスターなどだ。



いろんなサイトでストーリーの整合性に関する問題が論じられている。こういうのを眺めていると、観客の多くは「誰が、いつ、どこで、どんなふうに、なぜ」をすごく気にしているのかわかる。スパイク・リーも重々承知していてオープニングで馬鹿丁寧に観客たちに説明している。僕はこういう構成が好きではない。



監督のスパイク・リーは、アメリカという社会を金と愛(というよりもセックス?)で動くものであると定義している。この映画でも説明されているが、常に上流と下流の階層があってその壁をこえるためには合法的では無理だとしている。



本当だろうか? この映画には皮肉が多い。上流階級のレストランには黒人の姿は一切ないし、下流階層では多民族の人々が差別意識を丸出しにする。ジョディー・フォスターの演じる弁護士は上流階級の権力者たちからビッチ扱いされている。やり手の女性に対する不満な表現にしても、あの言葉はひどい、という表現を使っている。ここまで汚い言葉を使う必要がある?



登場人物たちにも魅力を感じなかった。デンゼル・ワシントンは太ってしまった。若い頃のデンゼル・ワシントンは存在そのものがカッコ良かったのに。ウィレム・デフォーも精彩を欠いている。クライヴ・オーウェンは悪くない。顔があんまり出ないけど。このひとはBMWが出資した『The Hire』という短編シリーズに出ていた。この『The Hire』はとても面白いので機会があったらぜひ観てください。



スパイク・リー監督も『マルコムX』の時のようなひりひりする過激さがなくなってしまった。『インサイド・マン』はエンターテイメント性を求めながら、同時に彼の世界観を見せようとしている。意欲作でレベルは高いけど、ピンとこない。社会を描こうとするあまりに人間を描けていないからか。



難しいですね。社会全体をまるごと作品にするのは。



初出 「西参道シネマブログ」 2014-01-04



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